<ゆうゆう冒険物語> 12

 

 

 

……飛影は、蔵馬たちの会話が全く聞こえていないわけではなかった。
だがしかし、ほとんど聞いていなかった。

今やるべきことは、目の前のこいつを叩き伏せる。
そして真実を聞き出すこと。

おせっかいな蔵馬が放った薔薇の花びら。
それらの動きは、蔵馬の力を帯びているために、常に一定。


しかし、それは障害物がなければの話である。

集中し冷静に見ていけば、花びらの微妙な乱れが見分けられる。
飛影には蔵馬のような聴覚も嗅覚もないし、パラレルでは視覚もない。
だが、だからといって、蔵馬に劣っているとも思わない。

蔵馬は蔵馬、自分は自分。
そう、自分は蔵馬とは別の、自分だけの力で強くなる。
目的を果たすために……

 

 

……見えた!」

瞬時に間合いを詰め、飛影は炎の剣で一撃の元、それを斬り捨てた……

 

 

 

ズズンと、洞穴に音が響き渡った。
同時に土がまき上がり、しばし視界が遮られる。

……やったのか?」

桑原の問いかけに、答えた者はいなかった。
だが、イエティーと戦っていた飛影は、頬の傷一つだけで戻ってきた。
それは十分答えとなりうるものだった。


が、しかし……


……どうした? 元気ねえな」
「おい?」

幽助と桑原が話しかけるが、飛影は無言だった。
日頃から無口の彼だから、それに関しては珍しくもない。
だが、明らかに元気がなかった。
いつも元気かといえばそんなことは全くないが、いつも以上に元気がなく……というか、酷く落胆していた。


「違った?」

蔵馬が聞くと、飛影は面白くなさそうに一度彼を睨んだ。

……ああ」
「そうか。残念だったね」

抑揚のない声で言うと、蔵馬は飛影と入れ違いに、土埃の向こうへと消えた。

何の話だ?」
「なあ、飛影?」

訳が分からないといった幽助たちの問いに、もちろん飛影は答えない。
しつこく聞いてきても、無視していた。
更にしつこく聞いてくると、炎を振りかざして追い回したのだった



一方……

……

蔵馬は見た。
倒されたことによって、姿を現したイエティーに。
そして、呆れ顔でため息をついた。

「これが、ね

確かに、飛影の目的のものとは大分違うと言い切れそうだな
そう思って、再びため息をついた。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

……蔵馬」
「何?」
「いくら謝礼っつってもよー。貰いすぎじゃねえか?」

ため息混じりに言って、幽助は蔵馬の背負うリュックを羽で数回叩く。

雪山登山に必要で、下山した以上は特に必要のなさそうなものは全て売り払った。
それも国王の指示で相当無茶な値で
そして今、リュックの中身は旅に必要な物から、他国で売れば相当な値になりそうな金品まで、ぎっっっしりと詰まっている。


もらえる物は、もらえるとしたら、もらっておくもらえる物は、もらえるからもらっておく。どこかの旅人が言ってた言葉だよ」
……がめついって言わねえか? それ
「かもね」
……

もはや何も言う気になれない幽助。
肩を落としながら、後ろを振り返ると、見るからにボ〜っとして歩いている桑原の姿。
それを見てもまた、肩を落とすしかない幽助だった。





……
雪山登山もといモンスター退治を終えてから、数日。
吹雪が止んだ後、蔵馬たちは下山し、レーカイ国へ戻った。

そもそもあの吹雪自体、イエティーが絡んでいたらしく、彼が失神した途端に、周囲は静かになったものだった。
おおかた、吹雪で足止めさせて、飢え死にするか凍死するかを待っていたのだろうが、まさか自分の住処の入り口で野営され、あげくそこで害虫駆除のように煙を炊かれては、溜まったものではなかったろう。

とはいえ、煙を消した途端に姿を現したのは、失敗でしかなかった。
煙の効果で、いくら飛影が強いとはいえ、一発炎の剣が当たっただけで、ぶっ倒れるくらいになっていたのだから
最もあまりのあっけなさに、飛影が次なる攻撃を繰り出さなかったのは、不幸中の幸いだろうが


そして、倒したイエティーを引きずってレーカイ国へ再入国。
イエティーの正体には皆、唖然としたが、しかしそれ故にもう国を脅かさないという約束で、逃がしてはもらえていた。
結構得な奴である。

その後、再度王が姫との婚姻を進めたが、丁重にお断りし、代わりに色々それこそ、山のように色々もらって出国した……というところであった。



……にしてもよー」
「ん?」
「あんなのがイエティーの正体だったとはな」
「ああ、あれね。確かに予想の範疇外だったな」

幽助は騙されたカンがあり面白くないらしいが、蔵馬はもう笑い話に変えてしまっているらしい。
まあ雪山を登って以降、苦労した経験の差かもしれない。


「まさか、足の先ばかりが大の男の倍で、他が赤ん坊サイズとは思わなかった。しかも、声はあれで、口もあれだけ悪いのに、容姿はむしろ可愛らしかったしね
「つーか、反則だろ。おかげで誰も殺せなかったじゃねえか」
「それは国の人が決めることだからね。俺たちの管轄じゃない」

 

 しかしまあ敵の姿があれだったのは、ある意味よかったかもしれない。
一目で、飛影の目的とは無関係だと分かった上、本人が言ったあんなに美しい姫は久しぶりの発言も、口から出任せだと察することも出来た。

「(飛影の探してる妹のユキナは、誰が攫ったか知らないけれど、少なくともあんな小物じゃないはずだからな……第一、あのサイズでは一人の姫も娶れないだろう……)」

ぼんやり考えながら、蔵馬はリュックを背負い直した。