<ゆうゆう冒険物語> 13
「にしてもよー。今回は飛影のいいところどりだったな」
ふいに幽助の言った言葉に、蔵馬が苦笑する。
「まあそうだったかもね。実際俺たちは何もしていないに等しい」
等しいというか、ちょっとばかりの手助け&イエティーを国まで引きずっていった蔵馬以外、はっきり言って幽助と桑原は何もしていないのだが…。
「あいつにしては、随分マジでやってやがったもんな。やっぱり、あの姫に惚れやがったか?」
「……かもね」
少し考えてから、冗談半分で言う蔵馬。
まずそれはない、単に妹と同じ名前で、容姿が似通っていたから、ほおっておけなかっただけ……そう予想はついていたが。
しかしその発言に、姫とのおそらくは今生の別れとなった故に、ずず〜んっと落ち込んでいた桑原が、吼えた。
「ぬわにー!!! あのやろう! やっぱり雪菜さん狙ってやがったのかー!! ゆるせん、この桑原和真さまが成敗してくれるー!!」
「成敗って…別に悪いことじゃねえだろ」
「天に変わって、男・桑原和真がー!!」
「あ、桑原くん…」
「何だっ…!!」
ドッシーン!!!!
幽助の正しいツッコミを無視して再度叫び、ふいに話しかけた蔵馬の声に、しっかりと反応する前に、男・桑原和真は物語冒頭と同じようにして、地面にめり込んでいた。
当然のことながら、事情も同じである。
「危ないよって言おうとしたけど、また遅かったかな…」
「遅い!! 重い!! どけ!!」
桑原の苦情だが、当然のように無視された。
「飛影、おめえもこっちだったのか?」
「フン…」
「早かったね、俺たちより一日長くいたんだろう?」
「貴様等がトロいだけだろうが」
「っていうか、どけー!!」
☆☆☆
「つーかよー」
ようやく飛影が桑原から下りたところで、雪に埋もれた桑原引っ張り出し大作戦を決行していた時のこと。
当然ながら手伝わないが、蔵馬が用意したお三時は、ちゃっかり頂いている飛影に、ふと幽助が話しかけた。
「何だ」
「おめえ何で、一泊伸ばしたんだ? あの国にいるのをよ。別に用はねえんじゃねえのか? まあ、俺たちと入国したっつっても、結局同行者じゃねえってことにはなってたろうけどよ」
「……」
「あ、やっぱ、あの姫に惚れたのか?」
「何だとー!! てめえ、やっぱり姫狙っ…」
ぼふっ…
「桑原くん。無理に起きあがろうとすると、まためり込むよって言おうと思ったけど、また遅かったね」
「……(怒)」
叫びたいらしいが、埋もれているが故に、無理らしい。
そんな桑原を笑ったのか、それとも別のことを笑ったのか、飛影が不敵な笑みを浮かべた。
「フン。貴様のやらかした悪事の結末を見ていただけだ。退屈しのぎにはなる」
言いながら、飛影は蔵馬に向かって灰色の紙を投げつけた。
どうやら新聞らしい。
「そうか?」
受け取りながら、飛影の言葉に、蔵馬は笑顔で言った。
その…飛影以上に、何処か不敵な笑みに、幽助は何となく嫌な予感がした……。
「蔵馬…まさかとは思うが、おめえ…」
「いつもことじゃないか……ああ、今回はやっぱり一面じゃないね。イエティーの件があったから」
「ちょっ、よこせ!!」
と言ったのと、蔵馬の手から新聞をひったくったのと、一体どちらが早かったか……。
幽助が地におり、新聞をバサバサめくり、目的の記事を見つけたのと、桑原が顔だけでも自力で雪から出せたのは、ほぼ同時だった。
「……おい」
「……蔵馬」
「何?」
「おめえ……まさか、その荷物の中身…」
「ああ。“それ”も入ってるよ」
新聞の写真を指さしながら、悪びれずに言う蔵馬。
幽助と桑原は、いつものことと思いながらも、脱力せずにはいられなかった。
『大貴族××氏の至宝の宝石盗まれる』と見出しがあり、その横にデカデカと映った写真には、闇夜と月をバックに、長い銀髪と長い尾を持つ妖怪が写っていた。
顔もばっちり写っている。
金色の冷たい瞳を持つ、美男子の姿……。
今頃、警察は犯人捜しに奔走しているだろう。
まさか国と姫を救った勇者と同一人物であるなど、欠片も考えずに……。
そう。
レーカイ国へ入ったあの日の晩。
話数でいえば、<2>の部分。
幽助が口走りそうになったのは、これだったのだ。
蔵馬が人間ではない……というか、全然『勇者』ではなく、むしろ悪人に近いこと。
大盗賊として名の知られた、銀髪のキツネ。
それが彼のもう一つの顔だった。
「勇者の顔で恩売って色々せしめて、悪人の面で堂々と犯罪やりやがるのか…」
事実を知った時、幽助は半分関心し半分呆れ、桑原は空いた口が塞がらないほど呆気にとられたものだった。
最もその程度ですんでいるのだから、彼らも彼ら…といったところだろうが。
「いつも通り、相手はいちおう選んだよ。その貴族はレーカイ国にとっても不利益しか生まないような奴だからね。新聞にはまだ載ってないだろうけど、汚職だの何だのばれるように仕組んでおいたから。結果的には姫のためにもなったよ? 多分ね」
「多分かよ…」
はあっとため息をつきながら、幽助は新聞をくるくる丸め、しゅっと軽く勢いをつけて投げた。
丸められた新聞は、地面に落ちる前に、突如放たれた炎によって、跡形もなく消え去ったのだった……。
その後、レーカイ国では色々な話題が飛び交う日々がしばらく続いた。
勇者蔵馬の偉業。
銀髪の盗賊の非道さと鮮やかな手口。
某貴族の失脚。
一部では、勇者と盗賊の到来が一致しすぎていることに疑問があがっていたが、それは風の便りで他国へは届かなかった。
誰も、勇者の品格を下げるようなことはしない。
たとえ彼らに関係性があったとて、結果的に迷惑をこうむったのは、自業自得なお人たちだけなのだから。
そして、勇者蔵馬と青い羽根モンスターと噂のロバの旅はまだまだ続いていく。
小さな炎使いの旅もまた続いていく。
しかし、それはまた別のお話なので、今回はこれで終わりになるのであった。
終
〜作者の戯れ言〜
最後の最後、蔵馬さんとてつもない極悪人として終わってしまいました(爆)
ま、彼の本業はやっぱり「盗賊」だということで。
ちなみに、雪山で蔵馬さんたちが食べてたのは、『金田●少年の事件簿』に。
二度目に国を出立した際に、蔵馬さんが言った台詞は、『キ●の旅〜the beautiful world〜』に。
それぞれ載っています。
時間ある方、興味のある方、探してみてください(笑)