<ゆうゆう冒険物語> 10
「……なあ、蔵馬」
「何?」
ぼんやりと空を眺めていた幽助だが、ふと肩を借りていた蔵馬に声をかけた。
その蔵馬もまた、ぼんやりと空を眺めているだけだった。
「俺たちさ……何のために、雪山に来たんだっけ?」
「モンスターを倒すため」
「…だったよな?」
「そのはずだよ」
ため息混じりに答える蔵馬。
その次に幽助の行う行動が分かっていたのか、そっと耳に手を当てた。
「じゃあ、なんだってこんなことになってんだよー!!」
…漫画であれば、ビュオオオオオオっという効果音がデカデカと書かれている前で、山彦さながらに怒鳴る幽助が描かれたことだろう。
蔵馬はその横でしっかりと耳を押さえていた。
でもって更にその横では飛影が爆睡、桑原も寝ていたが、彼は起きた。
「うっせーぞ、浦飯!」
「これが怒鳴らずにいられるか!」
「また雪崩でも起こったらどうすんだ!」
「これ以上起こるかよ!」
いちおう桑原は前科持ちのため、あれ以来なるべく叫ばないようにしている。
が、幽助の言い分もある意味最もだった。
例の雪崩から、桑原を掘り出して、改めて進みだした一行。
(*注:普通は進まないで、普通は山を下りるものである。下りずに進むのは彼らだからこそなので、よい子も悪い子も普通の子も、決して真似はしないように)
その僅か10分後。
いきなり雲行きが妖しくなり、あっという間に猛吹雪。
これ以上進むことも戻ることも出来ないだろうと、偶然近くにあった洞穴に避難したのだ。
しかし、この吹雪……全然止まない。
少しくらい軽くなってくれれば、諦めて帰るか、頼み事を無視してすたこらさっさと逃げるか、考えもするが…。
全く止む気配なし。
まあ吹雪が酷すぎるせいで、多少大きな音を出したところで、雪崩などは起こらなかった。
起こる時は、とっくに起こっていたし、とりあえず今のところは巻き込まれてはいない。
だがしかし、これはあまり喜べたものではなかった。
全く動きが取れず、かれこれ3日、彼らはここで立ち往生しているのである。
「それはそうとして。はい、これ幽助の分」
「……おう」
差し出されたものを受け取り、幽助はかぶりついた。
何が入っていても、もはや驚きもしない、蔵馬の四次元ザック。
今日の昼食は、某漫画にて登場した、栄養価の高いカロリー○ット。
ちなみにお茶はないが、これは問題ないものらしい。
これだけ何でもかんでも入っているなら、テントも4人用くらいのデカイのを入れておけばいいのにとツッコミたくなるが、あえてツッコミはしない一同。
そんな無謀はしない方が、身のためである…。
「なあ、蔵馬」
「何?」
「一体いつまで、こうしてんだよ。何とかなんねえのか?」
ため息混じりに聞いてみる幽助。
蔵馬は少し首をかしげ、
「さあね」
「さあねって…」
「ああ、大丈夫だよ。最悪、春になれば雪は少しは溶けるし。そうでなくても、山で遭難した人が『死亡』になるまで、最低7年生死の確認がとれない状況でないと戸籍から抹消されないから」
いちおう日本の法律上、そういうことになっているらしい。
詳しいことをお知りになりたい方は、ご自分でどうぞ。
「……そうなのか…って、誰がんなこと聞いた!!」
「違うのか?」
「違わい!! 何とかして山下りるなり登るなり出来ねえのかって言ってんだよ!! いっそのこと、飛影の火で全部焼くとか燃やすとか!!」
さりげに恐ろしいことを言っているような気がするが、話題となった飛影は寝ているようで無反応。
蔵馬も平然としている。
「そうはいっても、無理だよ。いくら飛影の火でも、この山全部の雪を蒸発させるのは、負担が大きい。仮に出来たとしても、危険すぎるよ。山だけでなく辺り一帯にも影響する」
「それは……マズイか」
「ああ。下手すれば、一番近い国が酷いことになるかもね」
「あんだとー!! あの美しい雪菜さんが危険な目にー!? 浦飯てめえ、なんつーことをー!!」
さっき叫んで以降、また聞いているのか寝ているのか、微妙なところだった桑原が、再びいきなり起き上がった。
そして、ずっと抑えていたのが返って反動になったように、怒鳴り散らしながら幽助につかみかかる。
「何だ、桑原!」
「てめえ、雪菜さんに酷い目あわせるたー、どういう了見でい!!」
「まだ何にもしてねえだろ!!」
ギャーギャーと話が始まってから何度目になるか分からないケンカが勃発。
当たり前だが、蔵馬には当然止める気もない。
ほおっておいて、カロリー○ットの最後の一本を、ひょいっと隣に渡した。
「……」
「食べておいた方がいいよ。口が寂しいと、ろれつも回らなくなる」
「……フン」
仏頂面ながら、とりあえず受け取り、乱暴に袋を千切って、乱暴にガツガツ食べる飛影。
どうも寝ていなかったらしい。
食べ終わると、ゴミを蔵馬に投げて渡した。
ナイスコントロールで受け取ると、蔵馬はゆっくり立ち上がった。
「さてと。始めますか」
幽助と桑原のケンカが収まらぬうちに、蔵馬は何やら行動を起こすことにしたらしい。
まず荷物を全て纏め、洞穴の隅に運び、杭とロープでしっかりと固定する。
「飛ばされたら困るしね」
怪訝そうに見る飛影に向かって、蔵馬は苦笑しながら言った。
次に飛影も含め、自らの服装チェック。
完全防寒出来ているか確かめた上で、更に武器の確認もした。
「炎は?」
「フン…」
それで答えは十分だった。
そして、皆が寄り集まって、暖まらせてもらっていたストーブの前にしゃがむ。
薪を動かし、更に近くの雪をかけてやると、火はすぐに消えた。
ふっと辺りが暗くなる。
脇のランタンの灯りがなければ、本当に真っ暗だっただろう。
「お、おい。蔵馬?」
「何しやがんだ」
突然、周囲が暗くなったこと、というか急に寒くなったことに抗議する幽助と桑原。
しかし、次の瞬間、何となくそうした理由が分かった気がした。
「……いるのか」
「……いるんだな、蔵馬」
「ああ」
「……」
4人が真っ直ぐ見据えた先。
それは視界もきかぬ猛吹雪の元ではなかった。
洞穴の奥。
その荒い息づかいは、確かに聞こえてきた……。