<ゆうゆう冒険物語> 8

 

 

 

「なあ、ストーブは使っていいのか?」
「いいけど燃料は無駄にしないようにね。さっきも言ったけど、先は長いから」

そう言いながら、テントの中の2人はなかなか快適そうだった。
何処から取り出したのか不明だが、ストーブの横には大量の薪があった。
そしてマッチも火打ち石も使った形跡がないのに、ストーブの炎は赤々と燃えている。

実に居心地の良さそうな空間。
もしこれが、隣の雪洞から見えていれば、きっと怒鳴られる程度ではすまなかっただろう……



「飛影。少し火が強い。小さくして」
……

指図されるのは嫌いな飛影だが、しかし確かに大きすぎると思ったのか、すっと炎に手を伸ばした。
薪を取り出すでも、調整するわけでもない。
炎の上に手を翳しただけ。


……

彼は呪文など何も唱えなかった。
しかし、炎はじょじょに弱くなっていった。
消えはせず、しかし小さく。
そして丁度いいくらいの大きさになって、小さくなるのを止めた。

これが飛影の能力。
炎を操る力。


本来、彼の力はこういうことには使われない。
ほとんど戦いの際に用いられる。
が、蔵馬と一緒にいると、何故か料理だったり暖房だったり、そういうことに使われていた……

もちろん、本人にしてみれば、あまり面白いことではないが、こういう下らないことで蔵馬に逆らうと、後でろくなことがないことを、飛影は短い付き合いながら、よ〜く理解していた

 

 

 

……

目の前でスースー寝息をたてている男を、飛影は無言でにらみつけていた。

モンスターの徘徊する山奥での野宿。
交代で見張りをするのは当然だろうが、しかしこうも爆睡されると、何となくいらいらする。


そもそも飛影は彼らの旅仲間ではない。
今回はたまたま同行しただけ。
こういうことは時折あったが、しかしそう多くはない



実際、幽白において、飛影が3人と行動を共にしていた期間は恐ろしく短い。
3人の内の誰か1人と考えても、決して長くはないだろう。

霊界から秘宝を盗み出した時はすぐに仲間割れした。
四聖獣の時は考えてみれば、数時間だけ(人間界での時間はどうか知らないが)。
幽助桑原の偽物騒動の時も、共にいたというほど、一緒にはいない。
雪菜救出は別行動だった。
暗黒武術界も考えてみれば二週間そこら。
幽助誘拐も半日なかった。
魔界の扉騒ぎでは途中まで戦列に加わってすらいなかった。結局協力したのは、最後の日の夕方から日が昇るまで。
後は魔界へ戻ってしまったし、トーナメントでは敵同士。
その後といえば、せいぜい霊界審判の門占拠の時くらいか





飛影は本当に一匹狼。
群れようとしない。

蔵馬たちとて群れているわけではないだろうが、しかし飛影に比べれば、一人でない時間が圧倒的に長い。
それがこんな隙を見せるのだろうか?

いくら今は協力関係にあるとはいえ、寝首をかかれない保証がどこにあるというのか。
もし、飛影が蔵馬の命を欲していれば、絶好の機会を与えることになる。


なのに……


……

少し近づいて、寝顔をのぞき込んでみる。
やっぱり爆睡していた。
これが幽助や桑原なら、さぞ間抜けな顔をしているのだろうが、生憎というか当たり前というか、蔵馬でそれはない。
きれいな顔をして寝ていた。




……俺が寝首をかくような状況だとしたらどうするつもりだ

そんな卑怯なやり方好きではない。
しかしこの旅には目的がある。
そのためならば、どんな汚い方法でもとる自信があった。

今のところ、そういう気はない。
だが、いつそうなるともしれないのに、あまりに無防備すぎる蔵馬が、少し腹立たしかった。
いっそ多少警戒するくらいで寝てくれればいいものを




……ん?」
……起きたか」

何となく軽く揺すってみると、蔵馬は起きた。
流石にそこまでされれば起きるかとも思うが、ここまであからさまに気配をさらしているのだから、起きない方が変だろう(桑原あたりは起きないかもしれないが)
蔵馬は飛影の揺らした理由を勘違いしているのか、

「もう見張り交代の時間か? じゃあ、飛影寝ていいよ。俺が起きてるから」
……

何となくさっきまで考えていたことを引きずって、素直に横になれない飛影。


「飛影」
「何だ」
「別に俺は寝首かかないよ?」
「!!?」

思わずばっと振り返る。
蔵馬はいつもと変わらぬ表情でいた。


「寝首をかかれる気もないよ。飛影は分かりやすいから。そういう気がある時には見てれば分かるよ。今はないんでしょ?」
……
「気にしてないよ。飛影は目的があるんだから、それを目指せばいい。俺たちに気を遣う必要なんてないさ」
……何の話だ」
「さあ?」

そう言って蔵馬は笑った。
いつもこんな調子でからかわれたように、救われている気がする。
ごろりと横になった飛影は、今度は眠ることができた……