<ゆうゆう冒険物語> 7
「ゼイゼイ…ハアハア…」
ようやく雪山を登り始めた一行。
これから登るとか何とか言っておいて、登り始めるまで、随分時間と行数がかかった気がする。
「何か今、変なツッコミが…」
「ほおっておこう」
「フン、くだらん」
「ど、どうでも…いいが…てめえら…ちょっと…待て…よ……ゼイゼイ……おわっ!!」
ズザアアアアアッッッ……ゴン! ズッ…ドサッ! ……
「桑原くん、何を遊んでいる?」
「何やってやがんだ、桑原。さっさとこねえとおいてくぞ」
「フン、だらしのないやつめ」
…足元を滑らせて、顔面を雪に埋もれさせたかと思うと、そのまま後方30mほど滑り落ち、巨木にぶつかってやっと止まったが、その弾みで気に積もっていた雪が大量に落ち、もろに被って、物の見事に埋まった桑原に対し、この言いぐさ。
一人くらい心配してもよさそうだが、生憎誰もしていない。
というか、約一名完全にバカにしているようにも見えるし、多分本人もしているだろう。
まあ、これが底の見えない崖から落ちたとか、巨大な岩に激突したとか、そこまでいけば、一人くらいは心配してくれるかもしれない。
……最もあくまでも、「心配してくれる“かも”」だが…。
いつぞや、某武術会の某試合で、二度も異次元から何処かへ飛ばされたにもかかわらず、誰一人心配してくれなかった上、「バカ」だの「アホ」だの堂々と言われた彼である。
今回もしてくれない可能性の方が、圧倒的に高い。
「こらあ、作者あ!! なんつーこと言いやがるー!!」
叫んでいるようだが、やはり誰も心配せず、先先行ってしまっているが?
「へ? あ、おい! こら、てめえらなあ!!」
ようやく桑原も追いついてきて、しばらく登り続けた、勇者一行。
しかし、さっきからあれだけ何度も立ち止まったり埋まったり引っ張り出したりしていたのだ。
ろくに進めるわけがない。
加えて、雪国は日照時間も短い。
あっという間に日が沈んでしまったのは、言うまでもなく当たり前のことだった。
「今日はこの辺で野宿にしようか」
そう言って蔵馬は立ち止まった。
登り坂が途切れてしばらく経つ、平坦な樹林帯の中。
風は当たらないが、足元に枝などが散らばり、些か寝心地が悪そうである。
「なあ、蔵馬」
「はい?」
「あっちの谷間の方がよくねえか? あっちは雪ばっかりみたいだしよ」
少し離れた谷を指さして言う幽助。
確かにそちらは、小枝などが一切なく、岩が多少ある程度で、傾斜も緩やか。
岩陰にいれば風には当たらないし、寝る分にはあちらの方がよさそうである。
しかし、蔵馬は首を振って、
「谷間は危険だよ。雪崩の危険性が高い。それに岩は、安定しているものならいいけど、浮き石だった場合、落石してくる危険性も捨てきれない。まあ、積雪してるから、残雪期よりはマシだろうけど」
「ほお〜」
納得したように頷いているが、半分くらいしか分かっていない。
多分蔵馬もそのことには気付いているだろうが、あえて突っ込まなかった。
「テントは流石に全員入れないから、雪洞掘らないとね」
「……どうやってだ?」
見たところ、スコップ等もなさそうだが…。
幽助たちに嫌な予感が走った。
まさか人力でやれとでもいうのか……。
「その“まさか”以外ないだろう?」
「やっぱりかー!!!」
……ということで、雪洞掘り開始。
別に遭難したわけでもないのに、何故にビバーク(緊急露営)状態になっているのか…。
やはり小さなテントしか持ってこられなかったことにあるが、そのことでギャーギャー言われるのは、やっぱり桑原だった。
「大体てめえが背負えたらよかったんだろうが!」
「てめえこそ、モンスターのくせにちっこいなりしやがって!」
「あんだと、このやろー!」
「やるか、このー!」
「二人ともさっさとして。日が完全に暮れる前に掘らないと、狭いテントですし詰めだよ」
「……」
「……」
言われてしぶしぶ穴掘りを再開する幽助たち。
ちなみに飛影は「何故俺が…」と何度もブツブツ言いながらも、真面目に掘っていた。
掘らねば、すし詰め…それは結構嫌だった。
ようやく雪洞が完成し、その完成より少し前から蔵馬が作業を離れて行っていたテントも立った。
問題はここからである。
「さて。誰が雪洞で、誰がテントに入る?」
「……」
「……」
「……」
誰だってテントの方がいいに決まっているだろう。
これが安物のテントで一枚だけの薄っぺらいのならば、雪洞でもいいが、ちらちらと見ていた限り、蔵馬が立てていたテントは大きさこそ小さいが、かなりいいもの(それはそうだろう、レーカイ国でタダでもらったのだから、いいものを選ぶに決まっている)
何重にもなっていて、中も温かそうだった。
「桑原、おめえ雪洞に入れよ」
「な、何でいきなりそうなんだ!」
「おめえがテントに入ったら、全員雪洞じゃねえか!」
「あんだとー! そこまでデカかねえ! 一人くらいなら、入れるわい!」
「手足のばせねえだろうが!!」
またしても喧嘩勃発。
しかし、この度蔵馬は止めようとはしなかった。
噴煙がまき上がるほどのすさまじい喧嘩の横を素通り、更にさりげなく後を追った飛影。
ちゃっかりとテントに入ると、チャックに手をかけながら、
「じゃ、おやすみ。二人とも」
「へ?」
「ああー!!!」
時既に遅し。
二人の目の前で、ジ〜っと音を立てて、テントのチャックは無惨にもしまっていったのだった……。
「……それから、定期的にお茶を飲んで水分補給して。雪山は脱水状態になりやすいから。後、食料は全部食べないように、まだ先が長そうだからね。後、スノーシューは外しておいて。血行が悪くなると、凍傷になりやすいから。聞いてる?」
「聞いてる聞いてる。他ねえのか?」
テントと雪洞はすぐ近くの上、今夜は雪もない。
ある程度の声を出せば、お互いの声が聞こえた。
なので、蔵馬は出たくないということもあるのか、テントの中から、雪洞の二人へ指示を送っている。
さりげなくザックの一つを置いていってくれた辺りは、まあ優しさというか……しかし、ザック二つテントに取り込んでは、酷いというより、おいおいというレベルかもしれないけれど。
「姿勢は楽なように。足は冷やさないようにね。ザックの中に突っ込んでもいいから」
「へいへい…って、ザック一個しかねえじゃねえか!」
「二人で仲良くね〜」
……それは無理があるのでは?
桑原の足では2本入れるのが精一杯だろう、4本は入らない。
そこへ幽助の足…は、まず入らない。
ここはまあ、幽助が一人で入るのが妥当だろうが……多分、後で喧嘩が勃発するのは目に見えている。