<ゆうゆう冒険物語> 6
国を出てから歩くこと数時間。
雪の中というのは、結構歩きにくいものである。
幸い、アイスバーンは起こしてない様だが、しかし、歩く度に足が雪に埋もれるのでは、体力の消耗は否めない。
桑原など既にひーひー言っているし、飛影も口には出さないが、結構きているようである。
まあ、飛影は桑原に比べ、大分体重も軽いため、それほどではないようだが。
「……おい、蔵馬」
「はい?」
「てめえ何でそんなにピンピンしてやがんだ」
一人あっさりと雪の中を歩いていく蔵馬に、桑原はずっと感じていた疑問を投げかけた。
ちなみに幽助はその肩に乗ったり、自分で飛んだりしているだけで、やはり元気だった。
「ああ、これ履いてるから」
ひょいっと足を持ち上げた蔵馬。
見えた先の足にはいている靴は、いつものものと違った。
靴も違うし(所謂登山靴を履いていたのだが、桑原には初めて見る代物の為、理解不能)、更に何やら靴の先に付いている。
金属かアルミ製だろうか?
靴をくるっと一周かこんでいる。
そのため、蔵馬の足下は一回り大きく見えた。
「……何だ、それ?」
「スノーシューだよ」
「……猫か?」
「かなり違う」
確かにまあ、スノーシューという猫もいるにはいるが。
アメリカ原産の短毛種で、四肢に白い斑点を持つのが特徴。
それが名前の由来でもあり、なめらかな被毛と、やや長めの体はなかなかにして美しい。
「変な解説入れんな! 話がややこしくなる!」
「すでになってると思うけどね。それはそうと、これは所謂西洋カンジキでね。雪の上を歩く時に便利なんだ。アイゼンの代わりもするしね」
ここでアイゼンの云々はとりあえず飛ばす。
要するに、これのおかげで蔵馬はさくさく歩いていた訳である。
「んなもんあるなら、さっさとよこせよ!」
「気づいていたと思ったから。何も言わないから、いらないんだと」
「あのな〜(怒)」
怒りをあらわにする桑原と、何も言っていないが、十分怒っているらしい飛影。
幽助はこのときばかりは自分が飛べて良かったと、心底思っていた…。
「ああ、ごめんごめん」
全然悪気なさそうに言う蔵馬。
とりあえず、ザックからスノーシューを3組取りだし(どうやって入れていた?)、投げてよこした。
目の前に飛んできたスノーシューを前に、桑原と飛影は固まる。
「どうしたの? 早くつけて」
「……だよ」
「は?」
「どうやってつけんだよ!!」
ぎゃーぎゃー怒鳴った拍子に、桑原が前のめりに倒れた。
……当然、雪に深く深く沈むこととなり、これを引っ張り出すので数時間、更に下敷きになって沈み込んだスノーシューを引っ張り出すので更に時間を費やしたのだった……。
その後、幽助以外の全員がスノーシューをつけ、再び一行は出発した。
当然、桑原は前肢後肢どちらにもつけている。
ここでロバがスノーシューをつけられるのかというツッコミは、あえてしないで頂きたい。
作者も試したことがないため、よく知らないのだ。
「……ロバどころか、自分だってつけたことねえだろ、作者は」
「雪山に登ったことなんかないからね。今年なんか寝正月だったようだし」
……作者の私生活はこの際どうでもいいとして、一行はようやく例の妖怪がいるという山の麓までやってきた。
つまり今までは地道を歩いてきたわけで、まだ山は登っていなかったのだ。
登る前で、この苦労。
登ってからが思いやられるが、引き下がるわけにもいかないため、とりあえず登りだした。
「おい、蔵馬」
「はい?」
「もう雪山に登る時にいるもの、隠し持ってねえよな?」
聞いたのはもちろん桑原である。
ちなみに幽助といえば、寒さから羽を広げにくいという理由で、蔵馬の懐へ潜り込んでいる。
これに関しては、蔵馬も自分があったかくなるため、容認しているらしい。
雪山で遭難した場合などで、身体が冷え切った時、人肌を寄せ合うのが一番いいらしいが、まだ遭難はしていないのだが…。
「隠し持つなんて心外だな。聞かなかったから、言わなかっただけだよ」
「あのな〜(怒)」
「はいはい必要なものだね。そうだな…」
桑原の怒りをさらりと無視して、話を進める蔵馬。
「飛影、その服いつものだよね?」
「……ああ」
「脱いで」
「!!!??」
「はああ!? 蔵馬、何考えてんだ、おめえ!?」
確かにこの雪山で…まあ登る直前にしろ、脱げというのは、酷なモノである。
はっきり言って寒い。
寒いに決まっている。
それを脱げというのだから、驚くだろうし、自分に言われたわけではないとはいえ、叫びの一つくらい入れたくもなる。
「何って、それだと無理だよ。さっきから気にはなっていたけど」
「おい…」
なら、さっさと言えと言いたくなるが、あえて言わない飛影だった。
言ったら、あまり良いことが待っていない気がするのだ。
「とりあえず着替えてね。脱ぐのが嫌だったら、その上からでもいいから」
「……」
だったら、何故いきなり脱げと言うのか…。
「シャツとアンダーウェアとズボンはその服でいいとして、防寒着と帽子と手袋とオーバー手袋と…ネックループに……アウターウェアも」
さっきのスノーシューといい、何処にそんなに物が入るのだと突っ込みたくなるくらい、蔵馬のザックからは次々と荷物が溢れ出てきた。
ウェアだけでは飽きたらずか、それともまた言われてから出すのが面倒なのか、行動用具も次々取り出していく。
「ピッケル、ヘッドランプ、ゴーグル、ああロングスパッツもいるか。後ははぐれた時のために、コンパスと時計と……ナイフはいらないか。後は全部をザックに入れて…」
「……おい、蔵馬」
胸元から幽助が問いかける。
「はい?」
「それ、誰のぶんだ?」
「飛影のだけど?」
「だよなあ」
どう考えても、ロバの桑原には合わないし、使えなさそうなものばかりである。
「おい、こら! 俺のはどうした、俺のは!!」
聞いたのは自分なのに、飛影のものばかり揃えられては、文句の一つも言いたくなるのは当然だろう。
「桑原くんのは、これくらいだけど」
これくらい…というわりには、多くみえるが、しかしそれはサイズが飛影のものに比べ、大きすぎるせいだろう。
二人の体格差を考えれば、当然である。
蔵馬が取り出したものは、馬着・プロテクター・肢巻・レッグラップ・イヤーネットなど……。
防寒には関係あるのかないのか、とにかく乗馬の時や馬房で使うものなどのようである。
「これだけで……いいんだろうな!?」
「さあ?」
「さあって、おい!」
「ロバと雪山に登ったことってないから、何とも…桑原くんが知ってるなら、その通りにするけど?」
「……」
知らない。
知るはずがない。
知っていたら、最初から言っている。
知らない以上、文句もこれ以上言えないため、結局桑原は不安要素たっぷりのまま、蔵馬に装備を付けてもらうのだった……。