<ゆうゆう冒険物語> 5
一昨日入ってきた城門をまたくぐって、蔵馬たち一行は国の外へ出た。
本当なら、昨日のうちに出発する予定だったが、姫の話を聞いて、蔵馬は少し考え、そしてもう一日泊まることにしたのだった。
「なあ、蔵馬」
「何?」
振り返れば城壁はまだ余裕で見えるが、おそらく門番にも審査官にも彼らの声は聞こえないだろう距離までは来た時、幽助が蔵馬に声をかけた。
「何でもう一日泊まることにしたんだ?」
「……知りたい?」
「ああ」
「深い意味じゃないよ? 後悔しない?」
「……ああ」
少し逡巡した後、やはり聞きたいと申し出る幽助。
後ろを歩く桑原も同意見らしい。
というか、幽助以上に聞きたい様子だった。
「答え。姫の話を聞いてる間に、外の雪が強くなってきたから」
「……まさか、そんだけか?」
「それだけだよ。別段、姫の話を聞く限り、倒せない相手ではなさそうだしね。でも、雪が強い中出発するのは、あまり気が進まないよ」
あっさり言い切る蔵馬。
幽助と桑原は唖然としたが、しかし同行することを考えれば、それが最前とも思える。
難しい顔をしながら、うんうんうなっている彼らに、蔵馬はくすっと笑って、言った。
「最も、道中からの雪もあまり好きではないんだけれど、それは仕方がないからね」
「……どういう意味だよ」
「山の天気は変わりやすいってこと」
「……」
何となく嫌な予感がする。
何となくどころか、相当嫌な予感がする。
しかし、蔵馬が出発した以上、多分おそらくきっと、死にはしないだろう。
……死にはしないだけかもしれないが。
これまでも、蔵馬は無傷であっても、幽助たちがそうではなかったことも多々あった。
ほとんど自業自得ではあるのだが。
しかし、もう少し早く言ってくれても…というような状況であったこともまた事実。
今回もそのような気がする。
こういう時のカンだけは、嫌なくらい外れない幽助と桑原なのだった……。
こういう場合……つまり死ぬほどではないにしろ、とてもとても不幸を味わう可能性の高い場合、しかも蔵馬だけは何故か除外される場合、常に最悪のケースを想定しておくに限る。
某漫画の某王子ではないが、終わった後の結果は、必ずその少し斜め上を行くことになる。
幽助は蔵馬の肩から離れ、後ろを歩く桑原の頭に乗った。
「……どうみる?」
「まず雪山っつーからには、雪崩が定番だろうな」
「だよな」
雪山=雪崩とは安易な考えながら、しかし決して間違ってはいない。
雪崩は一度起こってしまうと、普通の人間ではどうしようもないケースの方が多いのだから。
「後は……熊か?」
「熊くらいなら、蔵馬が何とかするだろ。俺も多分いけるし」
何故いきなり雪崩から熊になるのか疑問だが……。
しかし、この点に関しては問題なさそうである。
「他、なんかあるか?」
「……思いつかねえ」
「だな……」
はっきり言って、冬の登山、しかも完全に雪で覆われた山に登るなど、はじめての経験の二人(?)。
これ以上、それらしい被害など思いつかなかった。
実際のところ、かなり色々相当結構あったりするのだが……。
「……あ」
小さな声を出して、蔵馬が立ち止まった。
自然と桑原も止まり、幽助は蔵馬の肩へ移動する。
そして、視線の先に彼を見つけた。
「飛影!」
「何だ、お前。お前も出国してたのかよ」
「……まあな」
そこにいたのは、一昨日の晩、蔵馬がベッドを譲った相手、飛影その人だった。
「飛影。君も来る? これから妖怪退治なんだけど」
「……妖怪退治だと?」
あまり厄介事(面倒事)には首を突っ込まない飛影だが、いちおう蔵馬の話であれば、最初から最後くらいまで聞きはする。
彼にかかれば、ほんの僅かな間で説明が終わることを知っているからだが。
「どうする? ヒマなら来ないか?」
「……」
来るわけねえよ、そう幽助と桑原が同時に心の中で思ったその時、
「……ああ」
「はああ!?? おめえ来るのか!?(×2)」
予想外の言葉に、幽助と桑原が同時に叫んだ。
飛影は少しムッとしたようだが、
「さっさとしろ」
と言うと、きびすを返して歩き出した。
とりあえず雪山に向かって。
「もしかして、どっかでお姫様見たのか? あの子可愛かったしなー」
桑原よりは早く立ち直った幽助が冗談半分に言った。
普段なら「フン、くだらん」というような台詞が還ってくるところであるが……。
「……」
「おっ。無言ってことは、マジなのか!?」
「てめえ! 俺の恋路を邪魔するつもりかー!!」
「……貴様等、死にたいのか」
「ほらほら、早く行くよ」