<ゆうゆう冒険物語> 4

 

 

 

その後、予定通りに城下町で買い物をそれこそ、山のようにタダであれこれ大量に仕入れ、蔵馬は城門と向かった。

「ったくよー。桑原が荷物運べたら、もっと買い込めたのによ」
「しょうがねえだろ」

実際まあその通りなのだが。
大量に買い込んだといっても、蔵馬一人で背負える荷物などそう多くはない。
リュックも新調したので、前よりはたくさん入るが、しかしロバに積めるとすれば、その比ではなかったろう。
最もそこまで行けば、いくら王の命令とはいえ、店主が承諾したかどうか

 

 

……あ?」
「どうした、蔵馬?」

後ろでまだ喧嘩をしていた幽助&桑原を半ば無視するように、城門へと向かっていた蔵馬が、突然立ち止まった。
別段緊張している雰囲気はないので、幽助たちも喧嘩をやめて、何気なく蔵馬の視線を追ってみる。

瞬間、幽助の視線はそのままだったが、桑原の目が輝きを放った。

そこにいたのは、一人の少女だった。
背後に馬車が有り、共の者が控えているところを見ると、金持ちか貴族か……いや、質素ながら美しい王冠をかぶっているところを見ると、どうやら姫君らしい。



「おい、蔵馬。ひょっとしてあの子
「ああ、多分そうだろうね」

桑原の変化にはまだ気づいていないらしい幽助と、気づいていつつもとりあえずほおっておいている蔵馬。
ゆっくりと少女に歩み寄ったが、ある程度の位置で止まった。
これ以上向こうの了解なしに近づくのは、あまり良いことではないだろう。

蔵馬とゆっくり視線をかわす少女。
翠かかった薄い空色の髪、ルビーのように紅い瞳。
まさに美少女というにふさわしい姫君だった。



「初めまして。レーカイ国の王位継承者、雪菜と申します。あの勇者さまですよね?」

少しおどおどしつつも、共の者に代弁させるでなく、自ら声をかけた少女に、蔵馬は少し好感を覚える。

普通王家の姫君といえば、高慢だったり高飛車だったり、そうでなければ世間知らずすぎたりと、面倒な姫が多い。
今までのところはそうだった。
しかし、彼女は違うらしい。
蔵馬の肩に乗る幽助と、ちらっと視線があっても、丁寧におじぎを刷るくらい、よくできた姫だった。



「ええ。初めまして。蔵馬と申します」
「蔵馬さま……申し訳ありません。私の為に、危険な地へ
「いいえ、何をおっしゃいますか!!」

叫んだのは、もちろん蔵馬ではない。
さりとて彼の肩に乗っかっている幽助でもない。

今の今まで、後方10mあたりで間の抜けた顔で惚けていたロバ、その人だった。



「イエティーなんざ、この勇者・桑原和真がギッタンギッタンにして
「てめえは黙ってろ!!」

ばきっと効果音がして、ロバが空をとんだ。
が、残念なことに、蔵馬がさりげな〜〜くカバーしてくれたおかげで、雪菜姫はその惨状(?)を見ずにすんでいたのだった

 

 

「雪菜姫」
「はい、蔵馬さま」

後ろでひっくり返っている桑原はこの際ほおっておいて(雪菜からは見えていない)、話を進める蔵馬。


「私は曲がりなりにも勇者と呼ばわれる者。世のため人のために尽くすのは、ごく自然なことです。姫が気にされることは全くありませんよ」

建前上とはいえ、『私』と一人称まで変えて、丁寧に笑顔で述べる蔵馬。
雪菜はその笑顔に少し癒されたらしい。
泣きそうになっていた顔をようやく綻ばせてくれた。

「ありがとうございます」
「お礼を言われるまでもありませんし、まだ少し早いですよ。しかし、姫にそのように言っていただけるのは、光栄です」

「お礼なんかいりませんよー! 雪菜さんのためなら、例え火の中水の中! 男桑原! あなたのためなら、この極寒の地であっても
「うるせーよ、てめえは!」


ゴン!!


後ろで桑原が何やら叫んで、ついでに何やら音がしたような気もするが、とりあえずほおっておいて、蔵馬は更に話を進めた。




「ところで姫」
「はい」
「イエティーは貴女様を娶りたいと言っているのでしたね?」
「はい

あまり考えたくないことなのか、少しどもる雪菜。
蔵馬は出来るだけ優しく続けた。

「姫という理由だけとも考えられますが、もしや貴女はイエティーに見られたことがあるのですか?」
……はい。おそらくなのですが
「おそらくとは?」
「私はイエティーの姿を見ていません。冬に入る直前、積もり始めた雪山を見に、供の者と山へ入った折りにイエティーが私を見たと後日、城を訪れた使い魔が言っていました」
「なるほど」

ようするに一目惚れらしい。
まあ、今さっき桑原がしたばかりなのだから、別段珍しいとも思わなかった。
彼女の容姿ならば、十分有り得る話である。



「ただ
「ただ?」
「噂程度でしたら少し知ってます」
「どのような?」

これは聞いておくに限るだろう。
買い物中に街の住人にも聞いてみたが、大した情報は得られなかった。
皆、姫を娶ろうとする怖いモンスターというイメージが強すぎるせいか、あまり話題にしたがらなかったのだ。