笛をかかげ、コエンマは静かに言った。
「笛を壊せば、捧げられた力が開放されるはずだ。通常は死を意味するのだろうが…傍に生きた体、しかも元々本人のもので、正しい姿に戻っているのならば…」
「引き寄せられる?」
「お前らの力も元は一つだ。可能性は…ある。確実ではないがな…」
まっすぐ蔵馬を…ろこんの彼を見つめた。
「どうする?」
「……悩むまでもない」
蔵馬は壜に手をかけ、きゅうこんの横へ座った。
幽助たちは少し下がった位置で、様子を見守っていたが…
「……おい、蔵馬」
「ん? 何?」
呼んだ彼らを振り返る。
「……返って、来いよ。二人で」
「! …ああ」
パリン…
壜のふたが開け放たれ、黒い霧が溢れ、同時に笛が割られ、石が光った。
光はすぐさま、黒い霧を飲みこみ、全てを包んだ。
赤い、優しい光だった……。
赤い光がおさまった先には、ろこんの蔵馬もきゅうこんの蔵馬もいなかった。
石もなければ、砕けた笛の欠片すらない。
ふたが外れた壜は転がっていたが、中身はなかった。
ただ1匹、見たこともないぽけもんが、いた。
「えっと…蔵馬…だよ、ね?」
ぼたんが声をかけると、彼は振り返った。
金色のような赤いような毛色。
光の加減で色が変わるらしく、どちらともいえない不思議な毛色だった。
巻き毛のような、ストレートのような毛並み。
ところどころで毛並みが違うだけでなく、毛一本一本の性質が異なっているらしい。
瞳は両目で色が違い、丸いけれど、目尻は上がり気味。
顔立ちはややろこんに近い気がするが、大きさは二人の中間くらいだった。
「きゅうこん? ろこん? どっち??」
問いかけに、そのぽけもんは困ったように首をかしげた。
「どっちも…かな?」
声はやや低めのろこんのようだった。
「どっちも?」
「ああ。どちらも覚えてるよ。幽助との特訓も、飛影や桑原くんと檻にいたときのことも…」
それはどちらの蔵馬でもない限り、どちらも知りえないこと…。
そこにいたのは、ろこんの蔵馬であり、きゅうこんの蔵馬でもあった。
二人は一人に……あるべき姿に、戻っていた。
「それにしても、大した道具ですね。色も微妙に違うし、尻尾の数も…」
ふわふわと背後で揺れる綿毛。
十五本に増えたしっぽに、思わずため息がもれる。
が、先に進化した約一名は、
「って、それでもてめえはまともだから、いいじゃねえか!!」
と怒鳴り、もう一名もかなり不服そうであった。
まあ…無理もないけれど。
☆☆☆
「それにしても、随分と盛大に載ってますね」
ぼたんから新聞を受け取り、やや呆れたように眺める蔵馬。
と、その視線が一つの記事に留まった。
「……コエンマ」
「あ?」
「ほら、ここ」
「え〜、何々? 『歴史的遺産であるぽけもんの笛消失。逮捕したろけっと団員によると、以下のぽけもんを連れたトレーナーによって盗み出された後だったとのこと。ギザギザのさんだーす、変にカラフルながらがら、間抜けなおにすずめ、雌らしいはくりゅう、恐怖のろこんに、最凶のきゅうこん…』……は?」
「はあ!?」(×4)
「何だ、そのギザギザのさんだーすって!?」
「変にカラフル…だと(怒)」
「間抜けってどういう意味でい!!」
「雌らしいってどういうことですか! あたいは女の子でしょ、どう見ても!」
「……」
『恐怖に最凶』ってどういう意味だろうと思いつつ、蔵馬は黙っていた。
新聞相手に文句を言っても仕方がないと思ったのもあるが、それ以上に……。
「……怒鳴りたいのは分かるけど、みんな、ちょっと黙って」
「は!? これが黙ってられっ…」
蔵馬がしっぽで幽助の口をふさぐ。
流石に15本まとめて押しつけられては、一言も発せられない…というか、呼吸困難一歩手前だった。
しかし、一番五月蝿い口をふさいだことで、周囲の雑音が鮮明に聞こえるようになった。
「…おい、あれさんだーすじゃねえか? 何か、毛がギザギザしてるし…」
「あれって、がらがらよね? カラフルだけど…」
「おにすずめって何処にでもいるが……なんとなく間抜けっぽい顔してやがるな」
「女の子って叫んでたよね? あのはくりゅう」
「ろこんときゅうこんはいないけど……あのぽけもん、狐っぽくない?」
……なんとなく周囲がざわついてきていたことに、ようやく全員が気づいた。
それも自分たちを見て、ざわついていたことに…。
「新聞の最後、コエンマ読みました?」
「え? あ……『賞金百万円』」
「げ(×4)」
一瞬の沈黙。
そして、
「逃げろー!!」
「捕まえろーー!!」
町中を、10万ボルトが(技マシンだろという概念はもはやない)、骨ブーメランが、ゴッドバードが、龍の怒りが、火炎破壊光線が、厄介な副作用付麻酔銃が交錯する。
町人とて負けてはいない。
ぽけもんを繰り出してくる者もいれば、職業道具を振りかざす者、車で追っかけてくる者、古典的わなで待ち伏せる者など、数知れず。
(ちなみに古典的わなにかかったのは、桑原だけである)
事情を知らない老人が、「はて? 今日は祭りだったかねえ?」などとつぶやいていたが、それほどまあ賑やかな1日だったということである。
後に、町から逃げても、賞金百万円目当てに、村でも森でも街でも道路でも洞窟でもサイクリングロードでも山でも海でもダンジョンでも釣り場でも建物内でもぽけもんジムですら、襲われまくったのはいうまでもない。
やっぱり息の根止めておけばよかったかな?
と、蔵馬がちらったと思ったことは、内緒であるが…。
……まあ、こうして、ろけっと団幹部を倒したはいいが、結局連中のせいで、世間から追われる羽目になったコエンマ&ぽけもんたち。
ろけっと団を壊滅し、誤解を解くまで、彼らの旅は続くのであった……。
終
〜作者の戯れ言〜
われながら、なんつー終わり方だ…(爆)
とりあえず終わりました、はい。
長い間、お付き合いありがとうございます。
次はおまけです。
蔵馬さんが一人になってから、町へつくまでの間のお話。