<POKEMON> 22
……その日を境に、塔は一階分ほど、高さが低くなった。
『一階分ほど』と中途半端にいうのは、最上階の床もほとんど壊れてしまった上、最上階の下の階の天井やら壁やらも壊れたため、正確に言えば、『一階と1/4階分』は低くなったためである。
最も、幽助たちが立っていた場所など、限られたスペースには、まだ床が残されていたので(本当に後50センチずれていたら、床もろとも…というくらいの限られたスペースだが…)、4/5階分くらいしか壊れなかった場所もあったが。
そして、連邦警察がかけつけた時、塔の前には何人もの人間とパートナーだったぽけもんが縛り上げられた状態で発見された。
ほとんどが失神したりしていたが、とりあえず全員生きてはいた。
とりあえず…だが。
人間はもちろん逮捕。
ぽけもんは保護され、野生に戻る訓練をした後、放されることになった。
といっても、大半はまず警察病院に担ぎ込まれるはめになったのだが……。
翌日の新聞には「ろけっと団員 失神状態で逮捕 ぽけもんの塔半壊となんらかの関係が!?」などという、随分とド派手なタイトルで載っていたりもする。
「あはは! まぬけな写真ー!」
とある町のぽけもんオープンカフェにて、新聞を一目見たぼたんが大笑いした。
「しっかし、『なんらかの関係』たあ、随分いい加減だな。あの状況で何も関係なかったら、逆に変だろ。笑い話にもならねえじゃねえか」
「連邦警察もおせーよな。昨日なんだろ、そいつら発見されたのってよ。もう3日も前のことじゃねえか。つーか、浦飯! そのホットドッグ、俺のだろ! 食うな!」
「おせーんだよ。早いもん勝ちだろ」
「あんだとー!!」
と、相変わらずの喧嘩をしまくる幽助&桑原。
「フン。くだらん」
こちらも相変わらずな飛影。
三人とも、もう怪我も治り、いつもの調子を取り戻している。
「にしても、蔵馬も結局あれだよね〜」
「ああ。結局、一人も殺さなかったな。絶対やると思ったもんだが」
コーヒーを口に運びながら、ため息をつくコエンマ。
その横で、赤いような金色のようなぽけもんが、くすりと笑った。
「やりたかった気持ちがないわけじゃないけどね」
あの時とは全く違う、優しい笑みだった。
☆☆☆
……火炎破壊光線は、塔の最上階やその他もろもろを見事にぶっ飛ばした。
男の手持ちぽけもんたちも、逃げられなかった。
もちろん、男自身も…。
蔵馬本人の意志で、僅かに外さなければ、確実に息の根を止めていただろう。
しかし、その衝撃で男もそのぽけもんも全て失神。
ついでに部下たちもひっくり返ってしまっていた。
「……いいのか?」
「オリジナルなら、やっただろうけどね。基本、ぽけもんは子供向きのゲームだろう。殺すわけない」
…あれだけグロテスクな表現があったのだから、今更という気もするが…。
まあ、人間が何かするのは現実的でしかないが(実際、赤・緑では何度も「殺された」だのそういう言葉が連発されている)、ぽけもんが人間を殺めるというのは、あまり現実的でない(そうか?)
多分、今までもなかったと思うので、控えることにしたようである。
……多分、おそらく、きっと…なかったと思うのだが、果たしてどうだっただろうか??
「そう書くなら、読み返せよな」
「最初の方読みたくないんだって。あんまり下手すぎて」
「だから長年放置すんなってんだ…」
「というより、今でも十分下手だから、気にすることないと思うけどね」
…ほっとけ。
男たちを縛り上げるのは、連中にひどい目に合わされ、塔の隅に隠れていたぽけもんたちが手伝ってくれたため、大した時間はかからなかった。
まあ、塔をぶっ壊したことで、多少なりとも恨み言は言われたが、連中にされたことに比べれば、かなり大分相当マシらしく、皆親切に手伝ってくれたものだった。
その中に、元々誰かに飼われていたらしく、『空を飛ぶ』能力のあるぽっぽがいたため、連邦警察への手紙を託し、一同はそこから離れたのである。
礼金はもらえたかもしれないが、それよりも厄介ごとは、極力避けたかった。
現時点で、既に一体何の種類なのか分からないようなぽけもんが2匹もいるのである。
面倒になるのは確実だった。
「それにしても、お前らがな…」
塔からかなり離れたところで、一度立ち止まった一同。
コエンマがかかえていたきゅうこんを地面に下ろし、今後どうするかということになった。
硬く目を閉じた彼。
全く動く気配は…ない。
「一緒だったのか…」
「ああ。間二つに分かれたわけではないから、成長も少し違ってね。俺の方が、少し若いんだ」
「なるほど」
道理で親子にしては近すぎ、兄弟にしては離れすぎているわけである。
「…影分身なんだよな? お前ら…」
「そうですよ」
「…お前らが、何でろこんときゅうこんの二人になってるのかは想像はつくが…」
「想像通りだと思いますよ。あの男にやられたんです。きゅうこんは、ろこんにすらならない尾が1本だった時、無理矢理進化させられ、俺は進化できない体質にさせられた」
「やっぱ、そうか…」
そう言って、コエンマは少し黙った。
めったにない真剣な顔つきに、全員がなんとなく黙って、彼を見る。
ぽけもんで、あまり進化や技などについて知識がない以上、ここは人間で知識豊富な彼に頼りたいところだった。
普段のおちゃらけ顔では、あまり頼りに出来ないが、真面目なときの彼はかなり頼れる。
「これ…使ってみるか?」
彼はポケットから何か取り出した。
一つは石。幽助が触れ、進化した石に似ているが、それは赤い石だった。
「それ…炎の石?」
「ああ。これも実験段階だがな」
老婆を倒した後、幽助と飛影の奇妙珍妙な変身ぶりの理由は、全員に話したコエンマ。
しかし、当然シールドがとかれた途端、約二名に殴られたのは言うまでもない。
「そっちの壜は?」
もう一つは壜。やや黒い液体が入っている。
「黒い霧という技があろうだろう? ごるばっととかが使うんだがな。全てのステータスが元に戻る。影分身も…解かれる」
「!」
「普通の石ではダメだったんだろうが……これならいけるかもしれん。まともに進化しないからこそ、だがな。同時に黒い霧を使えば、一人に戻れるかもしれん」
言って、それらを地面に置くコエンマ。そして今度は鞄に手を入れる。
とりだしたのは、例の笛だった。
連邦警察が来ることになっているとはいえ、それまでに男たちが目覚めれば、何があるか分からない。
また警察の手に渡ったとしても、悪用される恐れがないとはいえない。
結局、そのまま持ってきていたのだ。
|