……一方、蔵馬と桑原はかなりの苦戦を強いられていた。
「くそっ! やってもやってもキリがねえ!」
吐き捨てるように怒鳴った桑原。
蔵馬も無言で舌打ちした。
それほどまでに、戦況は不利だった。
相性は最悪ではないが、良くもない。
レベルは互角。
4対2…いや、ごーすとが復活してきたので、5対2。
こっちは即興、向こうは長年で鍛えられたと思われるコンビネーション。
それだけでも、かなり不利だというのに。
「む。ごーすとの体力が落ちたか。ほれ、傷薬じゃ」
「またかー!!」
体力が尽きかけ、シールドぎりぎりまで下がってきたごーすとに、老婆はあっさりすごい傷薬をかけた。
あっというまに、復活。
その間は別のぽけもんに阻まれる。
それを延々繰り返されているのだ。
こっちも所持していた物に何かしらは入っているが、後方のコエンマからの指示らしいものは聞こえない。
何かしているようだが、気を配っているひまはなかった。
この戦況では、いくら百戦錬磨の蔵馬と、根性の塊の桑原いえど、勝ち目はほとんどないだろう……。
「おわっ!!」
「! 桑原くん、だめだ! そっちは…」
げんがーの攻撃を避けようと退いた桑原。
しかし、それは計算されてのことだった。
退いた先、墓石のようなものを飛びこえ、桑原の頭上から迫る影。
「かみつけ、ごるばっと」
「しまっ…」
同じ飛行タイプに属していても、スピードはごるばっとの方がはるかに上。
必死に蔵馬が炎を繰り出すが、げんがーに阻まれる。
同時に後ろから、あーぼっくが鎌首を持ち上げてきた。
「やれ。これで終わりじゃ」
「っ…」
ズガアアアアアアンンッ
すさまじい轟音と爆風。
シールド内が、一瞬にして煙に包まれた。
その少し前、鋭い光の筋のようなものが見えた気がした……。
「…なんじゃ?」
老婆は怪訝そうに、シールドをにらみつけた。
自分が指示したのは、かみつき攻撃のはず。
爆音など起こるわけがないのだが…。
その答は、すぐに出た。
煙がおさまった先。
倒したはずなのに、無事でいるぽけもんたち。
床に倒れ伏せる己のぽけもんたち。
そして、見たこともないぽけもんたちがいた……。
「……飛、影?」
「浦飯…か?」
ぽかんとした蔵馬と、あんぐり口をあけた桑原。
しかし、心中は似たようなものだった。
彼らが、自らを攻撃しようとしていたポケモンどもを、割って入って叩き伏せたことは理解できる。
最も叩き伏せたのは、蔵馬を助けた方だけで、桑原の方は何か技を使ってきたようなのだが。
だが、しかし…。
「……他の誰がいる?」
「……文句あっかよ」
それぞれが庇った相手を正面から睨みつけた。
しばらく考えた後、蔵馬と桑原は、それでも考えながら、
「まあ…そんな目つきが悪いのは、君くらいだろうけれど…」
「文句は…ねえが…」
しばしの沈黙。
そして。
「あはははは!!」
「ぎゃはははは!!」
「「笑うなー!!!」」
珍しく大きく口を開け、それでもきれいに、さりとて遠慮なく大笑いする蔵馬。
ギャグ漫画さながらに、顔から口がはみ出さんばかりに笑い転げる桑原。
そして、約二名。
本気で激怒し、青筋立てながら、怒鳴るぽけもんたち…。
その目つきの悪さたるや、まさしく、元・からからの飛影。
その態度と怒り方たるや、まさしく、元・いーぶいの幽助。
しかし今の姿は…。
「な、何だい? どうしたの、その格好!」
笑いながらも、飛影に問いかける蔵馬。
確かに飛影の格好はとてもとても変わっていた。
「がらがらに似てるけど、何か違うね。あ、骨治ったんだ」
「……まあな」
怒りながらも、蔵馬に対しては本気で怒れない飛影。
しかしその姿は確かに変わっていた。
がらがらといえば、からからの進化系。
体が一回り大きくなるため、頭の骨がぴったりフィットし、性格も粗暴になるということらしいが…。
粗暴という点では、別段今までと大して変わらないとして(←おい!)、格好はなんだか普通のがらがらとだいぶ違う。
どこがどう違うのかといえば、かなり違うが、とにかく違う。
頭の骨の形は奇妙珍妙だし、しっぽの形も通常と違う。
腹の筋はなんだか歪んでいるし、全体的に体色も違うような気がする。
手にしている骨も、何故か以前のものと違い曲がっている……どうやら、肋骨の一部らしい。
いったいどこをどうして、このようになってしまったのだろうか……?
大笑いに笑われ、それでも本気で殴りかかることが出来ず、拳を震わせている飛影。
何故、彼に限って、本気で殴れないのか、自分自身疑問だが、しかし殴ったら後が怖いような気がするのも事実。
恐怖と怒りとはかりにかけて、普段なら怒りをとるところだが(そもそも恐怖自体、感じたことなどほとんどない)
彼の場合は、本能というか第六感というか、とにかく殴ってはいけないと、心理の一番深いところが、警報を鳴らしまくっているのだ。
それを知ってか知らずか、笑い続ける蔵馬。
彼もまた、このように本気で遠慮なく大笑いできる相手は、ごく稀である。
普段ならば、ぽけもん同士、あるいは人間に対しても、建前や礼儀というものがあり、表面上のことも述べるし、仮面もかぶる。
が、飛影に対しては、初対面の時からそれがない……必要ない、と心理の奥から呼びかけているかのように……。
目には見えぬ絆…とでもいうのだろうか?
やや不公平な気もするが、それでも少なくとも、飛影も心底嫌なわけでもないようなので、よしとしよう。
しかし、こちらがそのようにいくわけがなかった。