<POKEMON> 14
「だ、だからって見てるだけなんて!」
ぼたんの悲痛な声。
しかし、考えはその場にいる全員に共通するもの。
「本当に何にもないんですか!? コエンマさま!?」
「……な、ないこともないが…」
「だったら、さっさと言え!!」(×2)
飛影と幽助に同時に怒鳴られ、僅かだが後ずさるコエンマ。
この二人から殺意にも似た視線を向けられれば、無茶苦茶怖い。
「…あ、あーぼっくとごるばっとなら、ごーすとではないから……ノーマルでも効くはずだが…」
「!」
「なら…」
「ちょ、ちょっと待て!! 行くな!! ぼたん止めろ!」
「は、はい」
バシ
ビッターン!!
飛び出していこうとした幽助&飛影のしっぽを思いっきり踏んづけるぼたん。
踏んづけるといっても、はくりゅうには後ろ足がないため、長い尾びれで叩き付けたようなもんだが。
「なにすんでい!!」
「だ、だって、コエンマさまが止めろって……あたいだって止めたくなかったけど!!」
二人から殴られんばかりの勢いに(女性とはいえ彼らは問答無用で殴るだろう)、ぼたんはコエンマに助け船を求めるように振り返った。
「話は最後まで聞けと言っているんだ。確かに効くが、不利すぎるし、多分無理だ!」
「どういうことだ!?」
「あれを見れば分かるだろう」
あれと言われ、コエンマが指さしたのは、未だ老婆のぽけもんと乱闘状態の蔵馬と桑原。
はっきり言って押されている。
数もそうだし、相性もあるが、それだけではなかった。
「……そうか! コンビネーション!」
「ああそうだ。2匹以上でやるなら、それぞれの相性に合わせて、戦い方を考えるもんだ。いちおう蔵馬たちもやってはおるが、蔵馬はともかく桑原はタッグの経験がないらしいな。あまり上手くいっておらん。今お前等が行ったところで、お前等にはごーすと系の連中が相手をすることになる。だから、無理だと言ったんだ」
流石、ぽけもん研究所にいただけはある。
僅かに戦闘の様子を見ただけで、そこまで見抜いていたのだ。
「……おい」
「何だ、飛影」
「最後まで聞けと言ったからには、まだ何かあるんだろうな?」
すわった目で睨んでくる飛影。
すぐに行きたいところを、何とか理性で抑えてはいるが、その分怒りは増幅されていた。
うっとなったコエンマだが、幽助までが、
「さっさと言え!!」
と怒鳴ってきたため、話すしかないと思ったらしい。
「確かにある。が、危険な賭だぞ」
言いながら、コエンマは蔵馬から預かった袋ではなく、自らのポケットから、二つの道具を取り出した。
「何だよ、それ」
「飴ですか? そっちは石?」
ぼたんが言ったように、それは飴と石だった。
光の当たり具合で不思議に色を変える飴、そして小さいが美しい輝を放つ石だった。
「“ふしぎなあめ”と“しんかのいし”だ」
「何に使うんです? あいつらに投げればいいんですか?」
受け取ろうとしたぼたんだが、慌ててコエンマは引っ込める。
「ぼ、ぼたんは触るな! 一個しかないんだ! ……あ、こっちの石ならいいが」
「どういうことだ?」
「飴はレベルを1つだけ上げる効力があると言われている。石は特定のぽけもんを進化させる効果があるらしい。石については、ぼたんには関係ない進化だからな」
「……“言われている”に“あるらしい”ってどういうことです?」
何となく言い回しが気になったぼたん。
コエンマはここまでくれば隠すつもりもないようで、
「これはいわば作り物だ。元々存在する物に似せて造られ、研究所でも、まだ実験段階のものだ。次に行った街で研究施設があれば、相談しようと思っていた物でな。まともに効くかどうかは、全く分からん」
「下手すれば、進化やレベルアップどころか…」
「死ぬということか」
「かもしれん」
「そんな!!」
あまりのことに、ぼたんは言葉を無くした。
……が。
「考えるまでもない」
「そういう賭なら、大歓迎だぜ」
「えっ!? 幽助!? 飛影!!?」
ぎょっとしたぼたんだが、振り返った先の二人の瞳は、確かに正気だった。
何処か怪しげな不敵な笑みこそ浮かべているが、しかし気がくるっている眼差しではない。
「コ、コエンマさま…」
おそるおそるコエンマへ向き直ったぼたんだが、彼はくっと顎をしゃくっただけ。
黙っていろということだろう。
「言っておくが、たとえまともに働いたとしても、代償がないわけではないぞ。しんかのいしはもちろんのこと、飴の方とて、レベルが上がり進化すれば、退化は出来ん。一生、だ」
「……だから何だ?」
大体予想はつくが、いちおう聞いてみる飛影。
「その姿、気に入っていようがいまいが、二度と戻れんということだ」
それは辛いことなのかもしれない。
そう、コエンマは言いたいのだろう。
生まれてより、ずっと見てきた見慣れた姿。
進化と成長は全く違う。
体の構造を一から作り変えてしまうのだ。
それは今までの自分とはかけ離れた姿かたち。
場合によっては、性格や考え方まで変わってくるらしい。
今まで当たり前だと思ってきたことが、当たり前でなくなる。
今まで信じてきたことが、すべて覆される可能性もまた秘めているのだ。
……けれど。
「言ったはずだぜ。そういう賭なら、望むところだ」
「フン。選ぶ必要すらない」
彼らに、迷いなど、なかった。
選択肢ですらない。
彼らには、“それ”しか、なかったのだ。
「後悔、しないな」
言いながら、すでにコエンマの手から、石と飴はなくなっていた。
シールドへ向かって、まっすぐ投げられた二つのものは、突き抜け、待ち構えていた二人の元へ飛んだ。
同時に、幽助と飛影が床を蹴る。
「進化ってそもそも何のためにすんだよ? 見た目の良さのためか? トレーナーの知識のためか? そんなもんじゃねえだろ」
石へ向かいながら、幽助が言う。
「進化する意味など、ひとつしかあるまい」
飴へ向かいながら、飛影が言う。
「戦うため! 勝つため!」
「強くなるため以外の何のためでもねえんだよ!!」
二人は同時に、それらに触れ……同時に、溢れる光に包まれた。
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