<POKEMON> 13

 

 

 

……が。


「あ、あれ? 何できかない!?」
「え゛っ」(×ぽけもん全員)

先の言葉を発したコエンマ以外の全員が、引きつった声を上げた。
同時に、全員の視線がコエンマに集中する。

彼は必死にコントローラの色々なところを叩きまくっているが、蔵馬は全く動かない。
いや、シールドの端ぎりぎりにまでは、自分で戻ってきているのだが、シールドを超えられないのだ。


「ど、どうなってんだ!? おい、ババア!! どういうことだ!?」

老婆に怒鳴る幽助。
くどいようだが、年齢と体重と容姿は、女性の三大地雷。
先の女に「オバサン」も十分な地雷だが、しかし真実に近ければ近いほど、地雷の規模も大きくなることを、幽助は知らなかったらしい。


「誰がババアじゃ、誰が!」

誰がどう見ても、十分な「ババア」であるため、もはや誰一人つっこまない。
まあ、そういう事態でもないということもあるだろうが。



「どうなってんだって聞いてんだ! そっちはげんがー出せたのに、何でこっちは出られねえんだよ!?」
「ああ、そのことかい。簡単なことじゃ。このフィールドでは、一度シールド内へ入ったぽけもんは、力尽きぬ限り出られぬ。ただそれだけのこと」

「何ー!!?」(×ぽけもん全員+コエンマ)

フィールド中に響き渡る6つの声。
老婆が新たに繰り出してきたごーすとが、思わず耳を塞いだほどのものだった。
(ごーすとの何処らへんに耳があるんだという突っ込みは、あえてしないでいただきたい)
しかし、叫びたくなるのも、無理はないだろう。


「んな話聞いてねえぞ!!」
「言っておらんかったからのう。やれ、ごーすと。ろこんは弱っている」

老婆の言うとおり、体力も限界に来ている蔵馬に、手加減も慈悲もなく襲い掛かってくるごーすと。
前回の女や大男もかなり性格悪かったが、この老婆は更にそれを上回る性格破綻らしい。
そしてそんな彼女に飼われているぽけもんならば、似るのも道理

出来れば、倒したい蔵馬だが、頭の怪我が原因で、炎を繰り出せるほどの力は残っていない。



「ど、どうするんですか、コエンマさま!」
「どうするったって、怪我の回復は出来ても、力尽きたのを治すようなのは、持ち合わせておらんし

蔵馬から渡された道具入れ(シールドに入る前に渡された。毒消しとかが入っているらしい)をあさってみるが、元気の欠片などは見当たらない。
つまり倒れてしまえば、それまでということだ。

はっきり言って、かなりマズい。


「く、蔵馬! 何とかできるようにするから、それまで避けてくれ!」
……

蔵馬はちらとこちらを見たが、返事はない。
返答をする余裕がないということで、それはかなり限界に来ているわけだ。




「何とかしろ、コエンマ!」
「早くしろ、コエンマ!」
「コエンマさまー!」
「さっさとしろー!!」

足元から上から右から左から怒鳴られながらも、あれこれ思案するコエンマ。
一度思い立ってはダメだと、何度も打ち消しながら、必死に模索した。



……
そして、手元のコントローラを見下ろし、唯一そして、あまりに危険な賭けに挑んだ。


「これしかないな!」
「へ? 何する……うわっ!」

足元から怒鳴っていた幽助が慌てて避けた。
コエンマはなんと、コントローラを床に叩きつけて、破壊したのだ。


「な、何やってんだ、おめえ!?」

桑原の問いには答えず、コエンマはシールドへ走った。

……
正確には、シールドが貼ってあったと思われる場所に。



「! やはりな!」
「な、何がやはりなんですか?」
「コントローラが無効になっていたわけじゃない。仕組みが変わっていただけならと思ったが、正解だな。壊したら、その波動が伝わったらしい。出られるかどうか分からないが、入ることなら、可能だ!」

「!」
「マジ!?」
「本当か!?」

コエンマの返事を待たず、幽助・桑原・飛影がシールドへ挑んだ。
あれほど妨げていた見えぬ壁は、そこにはなかった。

 

 

 

「蔵馬!」
「おい、しっかりしろ!」
「蔵馬!!」

3人が駆け寄った時、蔵馬は既にかなり消耗していた。
それでも幽助たちの姿を見とめると、ほっとしたらしく、小さく笑んだ。


「すまないなこんなざまで」
「立てるか?」
「ああ


幽助と飛影に肩を支えられ、そのままシールドの隅まで寄っていく。
いつのまに入ってきたのか、コエンマから薬を渡されたぼたんが待っていた。
すぐ後ろには、コエンマもいるが、彼はシールド内へは入っていない。
どうやら人間はシールドの状態を確認できても、消えぬ限りは入ることはできないらしい。

「蔵馬、ひどい大丈夫かい?」
「少し休めば

まんたんの薬を当てると、傷も体力も回復できたらしい。
だが、それですべてが治るほど、世の中甘くはない。


「えっと麻痺治しもだね」
「え、麻痺もしてたのか!?」

気づいていなかったらしく、驚く幽助。


「いくらなんでも、蔵馬が怪我だけであそこまで動きが悪くなるわけないだろう」
「そりゃそうかあんにゃろう、無茶苦茶しやがって、クソバアア!!」

殴りかかっていきたいところだが、今のところそれは不可能なため、微々たる理性で抑える幽助。
隣では、同じくわずかな理性で必死に自分を抑え込む飛影。

しかし、そのあふれでる殺気は、相当なものがあったことはいうまでもない……




……
幽助と飛影が闘志を燃やし、殺気を立たせているその間に、攻撃の効くと言われた桑原。
迷わずゴーストに挑んだ。

「このやろー! よくもやってくれやがったなー!!」

闘志も殺気もあますところなく、燃え立たせている。
ドリル嘴で、思いっきりごーすとを切り裂いた。

「おっし! 後2匹だな! 桑原、やっちまえ!」
「おうよ!! 何がこようが……なっ」

桑原が思わず後ずさったのも、無理はない。

彼の視線の先には、先ほど蔵馬が倒したはずのげんがー2匹がいたのだ。
しかも連中だけではない。
コブラのようなぽけもん・あーぼっくに、こうもりのようなぽけもん・ごるばっともいる。


「ど、どういうことでい!」
「そっちが5匹入れたのならば、こちらも入れるに決まっておるじゃろう」

正論ではある、いちおう。
しかし、シールドの件について、何も言っていなかった以上、すでに卑怯極まりない。

しかもどう見てもげんがー2匹は全回復している。
ということは、こっそり元気の欠片いや元気の塊を使って回復させたのだろう。



全回復したげんがー2匹に他にも新たなぽけもん2匹……はっきりいって、分が悪いことは明白。
だが、先にも言ったように、この老婆は性格が悪いのである。

「いけ」

「んなの無茶苦茶だろー!!?」




「どうすんだよ!」

ヒーヒー言いながら、ほとんど攻撃態勢にも入れず逃げ惑う桑原。
見ていられなくなったのか、蔵馬はふらつく体で、再び飛び出していった。
コエンマが止める間もなく

「ど、どうするったって

蔵馬に続いて飛び出して行きそうになった幽助たちを、かろうじて(本当にかろうじて)止めたコエンマだが、しかしだからといって良い案が浮かんでいるわけでもない。


「コ、コエンマさま。あたいも
「ダメだ! ぼたんが行ったところで、大して変わらん! 下手に怪我人が増えるだけだ!」

そう言われては、行くに行けないぼたん。
と、何か思い立ったらしく、彼を振り仰いだ。


「あのコエンマさま! 確か前に、研究所でテストやった時、あーぼとさんどでやったら、さんどがかなり有利だったよね?」
「ああ、そんなこともあったな」

今そんなことを言っている場合かと言わんばかりのコエンマ。
しかし、ぼたんはいたって真面目だった。


「あいつらゴーストはともかく、全員毒なんですよね? だったら、飛影地面タイプなんだから
……通常なら効くな。かなりいい具合に」
「はあ!? 何でそれ、さっさと言わねえんだよ!! 飛影だったら

怒鳴る幽助と、再び飛び出していきそうになった飛影。
が、コエンマはそれを上回る声で叫んだ。



「さっき飛影の攻撃は効かんと言っただろうが! 意味なく、言ったとでも思っているのか!?」
「え」
「はい?」
「飛影、行くな! お前、素手でやる気か!」
「!……

コエンマの声に、23歩は既に進んでいた飛影の動きが止まった。
幽助とぼたんの視線がその手元に集中する。





「お、折れてる




なぜ気がつかなかったのか
簡単なこと、飛影がずっと隠していたからだ。

自らの傷などやせがまんして隠すような性格の彼である。
武器が折れてしまっていたことも、隠すだろう。

流石に蔵馬にだけは見抜かれ、彼からコエンマへ伝わっていたようだが……


「まさか、さっき階段の踊り場で
「野生のぽけもんどもに囲まれた時だろう……飛影の地面タイプの技は全て骨によるものだろう。しかもかぶっている方ではなく、手持ちの方の。それでは地面タイプの技が出せん。だから、効果がないと言ったんだ」
……薬で治せねえのか?」
「治せたら、とっくに蔵馬がやっておっただろうが」