<POKEMON> 12

 

 

 

「あのおっちゃんも気の毒かもね〜」
「起きた途端に、全身蚊に咬まれたみてえになるんだっけ?」

けたけた笑いながら階段を駆け上がる幽助たちは、ちっとも気の毒がっていなかった。
むしろ完全におもしろがっている。

「見てみてえところだが、時間もねえしな」

コエンマが発砲したのが麻酔銃だと聞いたため、桑原も一緒になっておもしろがっている。


「にしても、大したことなかったな、さっきのやつ」
「だが、雇われトレーナーが二人だけとは考えにくいな」
「まだいると見た方がいいでしょうね」

蔵馬のその言葉通り、次の階もまた、フィールドとなっていた。





随分と奇妙な……よく分からないが、あまりいい雰囲気ではない。
おどろおどろした、陰気な空間だった。

……何か、お化け屋敷みたいだね

オリジナルでは霊界案内人だけあって、特にビビらずに言うぼたん。
最も、この場でやや逃げ腰になっているのは、コエンマタダ一人……
暗黒武術会準決勝にて、死々若丸の技に、ジョルジュ早乙女と一緒になってビビっていた彼だけだった。


……何か無性に帰りたいんだが……
「そうも行かないでしょう。あちらさんもやる気満々のようですし」

後ずさりしようとしたコエンマの足を押さえ込む蔵馬。
視線の先には、一人の女性がいた。


老婆だった。
よれて光沢をなくした白い髪。
くしゃくしゃのしわだらけの顔。
背骨はかなり曲がっており、杖でかろうじて身体を支えていた。

じろりと睨んでいる瞳には、殺気が漂っており、かなり怖い……




「お化け……ではないだろうな?」
「生きた人間でしょう、多分」

分かってはいるが、あまり自信がないのか、小首をかしげる蔵馬。
他の面々も生きているのは分かるが、しかしお化けと言われた方が納得がいくなと言い合った。


「やれやれここまで来るとは、よほど死にたいようじゃのう

しゃがれた声。
やはりお化けか安達ヶ原の鬼婆といった方が、よさそうである。

「し、死にたくはな、ないんだが……
「行け。げんがー」

コエンマの引きつった台詞を無視して、ぽけもんを出してくる老婆。
モンスターボールから出てきたのは、なるほどここにはぴったりと思われるシャドーぽけもん・げんがーだった。


「コエンマ、誰が行きますか?」
「そ、そうだな

いつもなら、誰かが既に飛び出して行っているところだが、あまりにコエンマがビビりまくっているため、呆れて誰もが脱力しているのである。
指名されれば、喜んで飛び出していくだろうが。


「ゴーストと毒か

ううっとうなっているのは、単に怖いからだけではないだろう。

まず、ノーマル攻撃しかできない幽助は、ゴースト系にはダメージを全く与えることが出来ない。
飛影が何か系統以外の技氷や水の技を覚えていれば、戦えるが、本来の系統でいない以上、あまりダメージは期待出来ない。
それに彼は野生のぽけもんだから、技マシンなどで覚える技は全く知らないだろう。
ここでコエンマが持っていればよかったのだが、生憎所持していない。
ぼそっと蔵馬に聞いてみたが、薬系統はともかく、そういうものは持ち合わせていないとのことだった。

他の3人も攻撃は出来るが、大して有利に戦えるわけではないのだ。

 

 

 

……となれば、とるべき手段は一つ。


「蔵馬、まんたんの薬。結構あるか?」
……まあ、それなりに」

コエンマの作戦が分かったらしい蔵馬が、少し肩を落としながら言う。
まあ、一番妥当だろうなくらいに思っている顔だった。



「よし、じゃあ桑原、蔵馬、ぼたん」
「おう」
「はい」
「え? あたいもですか?」
「ああ。まあ、ぼたんは交代要員だ。2人交互で出てくれ」
「って、おい! ぼたんにやらせんのかよ!」

慌てながら、やや怒るのは幽助。
桑原も同意見らしかった。


「そうだぜ! ぼたん、戦闘ほとんどやったことねえんだろ!?」
「しかし、幽助や飛影の攻撃は、全く効かん。蔵馬と桑原が交代でやってくれ。元々有利に戦えるわけではないから、怪我の手当の時のみ、ぼたんが出ろ」
「で、でもよ!」

そんな僅かな時間でも、ぼたんが場に出るなど、危険ではないだろうか?
ぼたんもやや不安な顔で、みんなを見渡す。
一人安全なところにいるのは、あまりいい気分ではないが、どう見ても強そうな敵の前に行けというのは、やっぱり戦闘不慣れな彼女には怖いのだ。


「桑原くん。ぼたんを場に出させたくないなら、俺たちでやればいいだけだよ」
「あ、なるほどな」

ぽんっと手を打つ桑原。
ようするにそういうことなのだ。
ぼたんが出なくていい状況に、自分たちですればいい。
よしっと力を入れる桑原に引き替え、攻撃が無効だと言われた幽助と飛影は、とても機嫌が悪そうだった。



「じゃ、俺が先に行くから」

言って、蔵馬はシールド内へ入る。
エスパーも毒も、蔵馬の炎にとっては、互角。
後はレベルと、そして攻撃法、運次第。

「(通じるか通じないか……だが、先にやられると厄介だ!)」

ぎんっと睨み付ける蔵馬。
その瞳の中には、不思議な光が宿っていた。


「! いかん、げんがー。やつの目を見るな!」

老婆が言ったが、もう遅い。
げんがーは蔵馬の瞳から発せられた「怪しい光」をもろに喰らってしまった。

「怪しい光」はその光を見た者を混乱の渦に落とし込む技。
ゴースト系の技、もちろんげんがーも使えるが、何故か彼らは同じゴースト攻撃に弱いのだ。
おまけに蔵馬に発すものなのだから、そんじょそこらの怪しい光であるわけもない。


完全に混乱し、老婆が戻そうとしても、全く聞かず、グルグル回って、しまいには自分を攻撃して、自滅してしまった。
その間、蔵馬は警戒しつつ、高速移動し、スピードと回避力を上げていた。

 

 

 

続いて送り出された、2匹目のげんがーも撃破した蔵馬。
しかし、1匹目とは違い、かなりの深手を負ってしまった。

「くっ

赤い前髪から滴る血は、決して少なくはない。
立ち上がりはしたが、足元はややふらついている。
強いて言うならば、某武術会決勝戦の地下爆弾を食らった直後のような状態である


「まずい! さっきのナイトヘッド、もろに食らったな!」

コエンマの声には焦りが混じっていた。
相性は決して悪くはない。
だが、急所に当たれば、レベルが互角である以上、かなりのダメージを受けるのは必定


「戻れ、蔵馬!」

叫びながら、手元のコントローラを操作するコエンマ。
言われなくても、この傷では戻らねばならないと分かっていたらしく、蔵馬も少し後退した。