<POKEMON> 11

 

 

 

そこは岩石や奇妙な瓦礫だらけの階だった。
先程の階が、氷水のフィールドならば、ここは岩のフィールド。
よく分からない鉄製のジャングや鎖なども転がっている。

そして、広い空間の反対側には、一人の男がいた。

大男だった。
身長は戸愚呂弟くらい、横幅は80%くらいの彼くらいだろう。
丸刈りにした頭。ぎょろりギラギラした眼がこちらを睨んでいる。

ちなみに彼のモデルである人物は、別に丸刈りでも何でもなく、むしろ長髪なのだが、管理人イメージではなんとなく、禿なのである。




「ほお、ここまであがってくるとはな。度胸だけは認めてやる。だが、そんな小物のモンスターばかり連れているようではな!」

どうやら自分のことを言われているのだと見当はつくが、しかしコエンマはため息をつくばかり。
この言葉に怒るのは、自分ではない。


「あまりそういうことは言わない方がいいぞ。こいつらは怒らすと、危険な連中だからな」
「はん! ちっこいモンスターがキレたところで、何になる! ぽけもんはデカくてなんぼだ! 俺様のこいつらのようにな!」

下品に怒鳴りながら、大男はモンスターボールを投げはなった。
割れたボールから、飛び出してきたのは、なるほど大きなぽけもんだった。
先程の女の連れていたぽけもんも全体的に大きかったが、サイズが違う。

9m近くありそうな巨大な長い身体。
岩蛇ぽけもんと分類に属す通り、岩が連なって蛇のような肉体を造りだしていた。


「いわーくか……んじゃ、ここは一つ。飛影、お前が……あれ?」

行って貰おうと横を見たが、そこにさっきまでいたはずの彼の姿はない。
同時に、ビタンッ! とマヌケな音がした。
前方へ視線をうつせば、シールドにぶつかっている幽助&桑原の姿。
そして、シールド内へは飛影が既に飛び込んでいた。

どうやら、いわーくが出てきた瞬間、幽助・桑原・飛影が、勝手に飛び出していって、一番スピードのある飛影が場に出たらしい。
正に早い者勝ちとはこういうことを言うのだろう。




「ま、いいか。飛影に行ってほしかったし」

コエンマがうむと頷いている間に、勝負は終わっていた。

いわーくが攻撃態勢に入る前に、飛影の地震攻撃炸裂!
同じ地面系だが、岩系でもあるいわーくには、結構効く。
加えて、さっきからの言われようで、「怒り攻撃」や「あばれる」「気合い駄目」にも近い状態だったため、威力は普通の数十倍はありそうな勢い……

さっきの蔵馬ではないが、部屋は半分以上壊れた。
当然いわーくはボロボロである。



「も、戻れ! いわーく!」

やや引きつった顔になった大男が、慌てていわーくを手元に戻す。
しかし、彼は女よりは度胸があるらしい。
単に無謀なだけかもしれないが。



「行け! いわーく!!」
「は? またか?」

幽助がマヌケな声を出したのも無理はない。
他数名も、同様に首をかしげている。
モンスターボールを取り換えたところを見ると、今負けたばかりのいわーくとは別の個体だろうが、また同じぽけもんを出してくれば、勝敗など見えているのに。

しかし、飛び出してきたいわーくは、先程のいわーくよりも巨大だった。



「なるほど。レベルが違うのか」

蔵馬が言っている間に、再び勝負が始まる。
スピードも先程のいわーくより高く、飛影と互角のようで、先に攻撃を仕掛けてきた。

……ちっ」

飛影の腕から血が滴った。
どうやら、軽く牙が当たったらしい。
しかしそれだけではないことに、蔵馬は瞬時に気付いた。

 

 

 

……コエンマ」
「何だ?」
「いわーくはすぐに倒せるはずです、飛影なら。終わったら、すぐに戻してください」
「え? なんでだ? 次も岩系なら、飛影が一番
「毒を受けている。おそらく、今は「どくどく」でしょう
「なっ!?」

ばっと視線を飛影に戻すと、丁度骨ブーメランで、いわーくをなぎ倒したところだった。
目を懲らしてみてみる。
血が流れる腕が、妙に青紫色になっていた。

通常、いわーくは「どくどく」を覚えられない。
おそらく技マシンだろう。

「なるほどな。毒消しは?」
「あります」
「分かった」



ずばっかーん!!



派手な音と共に、いわーくその2撃破。

「くそっ! 戻れ、いわーく!!」

大男が先程と同じようにボロボロになったいわーくを引っ込める。
懲りずに次のボールを投げようと構えたので、飛影も骨を構えようとしたが……



バンッぱちっビビン!



「!?」


例の音と共に、飛影の身体が再び宙へ浮く。
シールドの外へ飛び出し、今度は桑原の上ではなく、待ちかまえていた蔵馬が受け止めた。

「はい、捕獲っと」
「貴様、何を
「毒消しするから、大人しくして」

「え!? 飛影、毒受けてたの!?」
「マジ!?」
「お、おい! 平気か!?」

案の定、軽いただの怪我だと思っていたらしい幽助たち。
毒となれば、話は別。
慌てて飛影に駆け寄るが、彼は鬱陶しそうにするばかり。
それでも蔵馬に腕を取られているため、シールド内へ戻ることは出来ないようだった。




「たかが毒程度で、おおげさだな! てめえら!」

大男の声に、全員がぎろっと彼を睨んだ。
12個の目に睨み付けられれば、結構な迫力である。
少しばかりたじろいだようだが、コエンマの発した言葉には、更に焦ったようだった。

……格闘ぽけもん・えびわらーだな、そいつは。桑原、行け。飛行系が一番だ、とにかく攻めまくれ」
「なっ
「おっし、行くぜー!」

ようやく初めてシールド内へ入れた桑原。
飛行ぽけもんの本領発揮である。


「くらいやがれ! ドリル嘴でいー!!」



ズッガーン!!



格闘ぽけもんはとにかく飛行系に弱い。
何故弱いのかは、原理としては分かりにくいところだが、とにかく弱いのだ。
鋭い嘴で、急所をつかれ、あっという間にダウン。

大男が続いて出してきた、さらむらーもかいりきーも、生憎格闘系。
勝ち目などあろうはずもない。
ドリル嘴で、あっさりと戦闘不能に陥った。


「こ、こ、この野郎ーー!」

手持ちのぽけもん全てぶっ倒れた大男は、逆ギレしたらしい。
まあ、ありがちパターンである。

悪役というのは、勝ち目がなくなった際、逃げるかヤケになるかが定番なのだ。
これが物語の初期等であれば、今後仲間として加わるパターンもあったりするし、大穴で自決パターンもある。
が、どう考えてもこの大男はヤケになるパターンでしかないだろう。

片方のトレーナーがいなくなるか、手持ちがいなくなるとシールドは自然と解けるらしく、全員が大男の向こう側にある階段目指そうとしたところ、大男が殴りかかってきたのだ。


「やれやれ


パン


コエンマが銃を発射。
桑原はぎょっとしたようだが、他の面々は特に驚いた様子もない。
幽助は塔の外で見たばかりだし、ぼたんはコエンマが研究所で麻酔銃を開発していたのを知っている。
蔵馬と飛影はそんなことに頓着するようなタチではなかった。