<POKEMON> 9

 

 

 

「ところでコエンマ」
「何だ

飛影に散々どつかれ、しばらくノビていたコエンマ。
人間にはまんたんの薬も効かないため、実に原始的な手当を受けていた。
しばらくして意識は戻ったが、機嫌が悪いのは仕方がないだろう。

「次、誰が行きます? そろそろ向こうの人、キレそうですよ」
「あ」

見やってみれば、女はずい分といら立っているように見えた。
実際、イライラしているだろう。
暇だっただろうから。

一度、トレーナーがコントローラーを握ってしまうと、ぽけもんは好き勝手にシールド内へ入れないらしい。
何度か幽助たちがトライしてみたが、無駄だった。

コエンマの指示なしには勝負が進まないのである。
なので、当然イライラしているのは、女だけでなく、幽助たちもそうなのだが


「えっとそうだな

現状に気づき、やや焦りながら、起き上がるコエンマ。

それでもオリジナルでは、霊界の次期長。
この話でも、ぽけもんの研究所で結構いい位置にいた人物である。

いざという時には、十分頼りになる。


「水と氷となれば……不利なのは、飛影だけじゃないな。水攻撃されれば炎の蔵馬は不利。氷だと、ドラゴンのぼたんや飛行の桑原もダメか

つまり消去法でいけば、一人しか残らない。


「幽助! 行け!!」
「よっしゃー!!」

待ってましたとばかりに、飛び出していく幽助。

勢い勇んでいくが、女はあからさまに呆れた声を出した。


「いーぶいねまあ、不利ではないでしょうけれど、何て貧弱なのかしら? 進化の実験用にしか使われない弱小ぽけもんを使うなんて。そんな子で、私のじゅごんに敵うとでも

「電光石火ー!!」



ずっばーん!!!



確実に先手攻撃できる電光石火。
しかし、幽助のそれは、普通の電光石火ではない。

かつて、きゅうこんの蔵馬との修行によって、最強にまで高められた技。
素早さは電光石火であっても、命中率はスピードスター並み、威力は少なくともロケット頭突き並み。

一瞬にして、じゅごんをも戦闘不能にできるほどに


「なっ

言葉をなくす女。
目を回して、足元まで転がってきたじゅごんを呆然と見下ろした。
頬をつねってみるが、痛い。
しかし、夢ではないらしいことに、さらに呆然とする。

「おっし! 絶好調!」

幽助のガッツポーズをとる声に、はっと我に返る。


「まさか、いーぶいごときに
「いーぶいだからといって幽助を甘くみないほうがいいぞ。ただのいーぶいじゃないからな」

にやりと笑って言うコエンマは、どこか誇らしげですらあった。

 

 

 

「ちっ!」

まさに悪役と言わんばかりの舌打ちと共に、じゅごんを手元に引っ込める女。
(「ちっ」という舌打ちは飛影くんのものだと言われそうなので、先に謝っておきます。すみません)
そして、

「行きなさい! ぱるしぇん!」

と、2枚貝ぽけもん・ぱるしぇんを出してきた。
じゅごんもデカかったが、これもまたデカい。

「は〜、珍しいのばっかり持ってるな」
「これも強いのか?」
「強いし、固い。ナパームだんでも壊せないからな」
……なんだ? ナパームだんって??」

疑問に首をかしげる桑原だが、コエンマは答えない。
実はぽけもん図鑑にそう書いてあるだけで、コエンマ自身、ナパームだんというのが、何なのか、さっぱり分からないのである。


ちなみに、ナパーム弾とは、ナフサ、パーム油などを主成分とする油脂焼夷弾のこと。
アメリカ軍が開発したもので、900〜1300度という高温で燃焼し、広範囲を焼尽・破壊する兵器のことである。

……
理屈上、固いからといって、何とかなるようなものではない気もするのだが……


「さて、どうするのかしら? このぱるしぇんの固い殻を、そのいーぶいちゃんの小さな頭で壊せるかしら?」

あっさりじゅごんが負けたわりには、からかうような言い方。
彼女、結構立ち直りが早いらしい。

当然ムカッとする幽助。
全身の毛が逆立ち、尾がぴんっと立っている。

「っるせー!! ぱるしぇんなら、さっき一撃で勝ったんでい!!」(「<POKEMON>4」参照)
「いや、幽助。レベルが大分違う

はあっとため息混じりに言うコエンマだが、もちろん幽助には聞こえていない。
後ろ足で床を蹴り、やる気満々に頭を振る。


「まあいいか……幽助、一つだけいい?」
「? 何だ?」

蔵馬の言葉に、怒りはそのままだが、いちおう返事をする幽助。
視線は目の前のぱるしぇんを睨み付けたままだが、それでも聞いてはいたことが、彼にとっては奇跡的だろう。
コエンマが内心、

「(このやろわしの言うことは聞いておらんくせに、蔵馬の言うことは聞くのか!)」

と思っていたことは、言うまでもない。


「あれ、貝だからね」
「んなことたあ、見りゃあ分かる!」
「君、貝の何処が好き?」
「は?」

いきなり戦闘とは全く無関係なことを言われ、マヌケな声を出してしまう幽助。
しかし蔵馬は何事もなかったかのように「俺は貝柱が好きだけどね」などと言い、それきり黙ってしまった。


ワケもよく分からずにいたが、そうこうしている間に、ぱるしぇんの方から攻撃!

「おわっ!!」

間一髪避けた。
水系の「殻で挟む」攻撃は、敵の動きを封じて連続でしかけてくる技。
しかし生憎命中率が低いのだ。
幽助のスピードならば、避けられる。


「ほほほ、よく避けたわね!! ならばこれはどうかしら! ぱるしぇん、バブル光線!」

女の指示と共に、ぱるしぇんの大きな殻から大量の泡が吹き出してきた。

「うわっ! 何だ!?」
「バブル光線か。技マシンで新たな技を覚えさせるとは、なかなか器用な

コエンマが微妙に感心している間に、幽助に泡によるダメージが。
しかし、何故泡でダメージが与えられるのか、疑問に思っている作者なのだが、果たして何故なのであろうか??
目に染みるとか、そんなあほらしい攻撃方法ではないことを祈りたい。


「いってー」

泡まみれになりながらも、すぐに起きあがる幽助。
やはり強い。
外で戦ったぱるしぇんとは比較にすらならなかった。

「くそっ! 砂かけ!」

ばばっと壊れた床を蹴って、ぱるしぇんに砂をかけて飛び退く幽助。
やや効果はあったようだが、しかしこんなものに頼るつもりはなかった。
あくまで一時しのぎである。


「おい、浦飯! キツいんだったら、変わるぞー!」
「るせー!」

親切のつもりか冗談のつもりか桑原が言ってくるが、聞く幽助ではない。
(というか、相性を考えれば、桑原なら即負けることになるのだが
くるっと振り返り、こちらを睨んでくる目は、少しも焦っていなかった。


「勝つ手ぐれー、もう思いついた!」
「そうかそうかって、はやっ!」

「あら? 随分と言ってくれるじゃない」

不満げに言う女。
正面を見直した幽助は、にやっと笑って言う。

「蔵馬の言葉の意味が分かったからな! さっきの泡でスピードは落ちたが、丁度いいぜ!」
「何を言っているのかしらね? いきなさい、ぱるしぇん!」
「きやがれ!!」

飛びかかってくるぱるしぇん。
再び殻で挟み込んでこようとしているらしいが、幽助は難なく避けた。


「よっしゃ! さっきの砂かけがまだ効いてるな!」

自分の思惑が当たったことに小さくガッツポーズを決めながら、床に下りたったぱるしぇんの横を素早く回り込み、小さな身体で殻と床の間に割り込む。
攻撃のため、まだ開いたままの殻。
そこから幽助と同じくらいの頭が見えていた。
にたりと笑っていた顔が、幽助と目があった途端、引きつったものへと変わる。

「貝っつーぐれえだからな! 殻を攻撃するより、中身だろ!!」
「! しまった! ぱるしぇん、早く殻を
「おせーよ!! くらえ、体当たりー!!」


どっかーん!!


もろに殻の中身へダメージをくらったぱるしぇん。
元より、固い殻に守られていることで、生存を保ってきた貝なのだ。
岩石よりも硬い頭で、中身へ体当たりをされれば、ひとたまりもない。

一瞬にして戦闘不能。
じゅごんと同じ運命を辿り、女の足元へ転がった。

 

 

 

ぱるしぇんに続き、女はやどらんを出してきたが、これもまた幽助が撃破。
いくら先程の泡のせいで、スピードが落ちているといっても、元々やどらんは鈍足。
防御力は高いが、鍛え抜かれた突進攻撃の敵ではない。


「っいきなさい! るーじゅら!」

半ばヤケになって4匹目のぽけもんを繰り出してくる女。
立ち直りは早いが、短気らしい(今更だが

モンスターボールが割れ、中から……はっきり言って、不気味なぽけもんが飛び出してきた。
足元くらいまである長い髪。
何故かタラコ唇で、真赤なドレスをまとっている。

毛は頭部のものしかなく、露出しているのは、とてもとても珍しげな色の肌。
これはシリーズによって、色が異なっているらしいが、実際管理人はゲームボーイにて、まともに色がついていないものしか見たことがなかったりするため、はたしてどんな色か全く知らないのだ。
そのことで人種差別がなんとかといわれたことがあるらしいのだけは、つい最近ネットにて知ったが、実際の色はいまだ見たことがない。
しかし、子供のゲームくらいで差別がどうこういうのも、チビ黒サンボが人種差別だと叫ぶこと並にバカバカしいことだと思うのは、気のせいか…。


……ねえ、蔵馬」
「何? ぼたん」
「管理人の個人的な意見はどうだっていいんだけど、それよりさ〜。あれ、本当にぽけもんかい? どっかのド派手なスタイルのバーちゃんみたいなんだけど
言わんとしていることは分かるけど、いちおうぽけもんだよ」
「はー、世界は広いね〜」

感心しているのか呆れているのか微妙な二人だった。


「人型ぽけもん、るーじゅらか! よし、幽助!」
「わーってる、すぐ片づけ
「戻れ」

ずで

勢い勇んで飛びかかっていこうとした幽助への、「戻れ」の言葉。
ずっこけるのも無理はなく、その間、生憎無防備になってしまった。


バンッぱちっビビン!


珍妙な音と共に、起きあがろうとした幽助の身体が後方へと引っ張られる。


「ちょっと待てー!!」

嘆願はあえなく却下され、シールドの外まで強制送還される幽助。
ずささーっと転がるように、コエンマの足元までくると、仰向けのまま、彼を睨み上げた。


「何すんでい!!」
「お前ばっかり戦うのも狡いだろう。それに、後々でぶっ倒れられても困る。先、長そうだしな」
「1匹多く戦った程度で変わるかー!!」
「まあまあ幽助。戦力になるからこそ、温存して欲しいんだよ」

ぽんぽんっと幽助の肩を叩いて宥める蔵馬。
こういう時、上手く丸め込めるのは、彼ならではだろう。
適切に笑顔で説得され、幽助も頷かざるを得なかった。
最もコエンマには一撃ケリを入れてはいたが。