<POKEMON> 8

 

 

 

まああれだけ言われて、キレない女はいないだろう。
例にもれず、彼女もキレた。

「あんたたち、人を馬鹿にするのもいいかげんにおし!!」

いや、馬鹿にはしていないと思うが。


「したも同然よ!! 年ごろのうら若き乙女に対して、『オバサン』なんて、侮辱以外の何物でもないわ! この場で息の根とめてくれるー!!」

この状況からして、馬鹿にしなくても、息の根を止める気満々だったような気がするのは、作者だけか



「行きなさい!! じゅごん!!」

叫びながらモンスターボールを一つ手に取り、投げつける。
空中で二つに割れたボールが光り、中から一匹のぽけもんが現れた。


「じゅごんを連れているのか!? すごいな、あんな珍しいのを」
「? そうなのか?」

素直に感心しているらしいコエンマに、幽助は首をかしげた。
元々あまり他人に興味のない幽助、まあ無理もないが。
しかし、次の一言には、ぴくっと耳が動いた。


「ああ。人魚のモデルだと言われているが……結構強いぞ」
「マジか!? これは勝負しねえとって、おい! 飛影!!」

幽助の呼びかけに、彼が答えるはずもない。
先頭きっていたため、最前列にいた飛影。
迷いもなく、骨をぶんまわして、突っ込んでいった。



「ぬけがけすんな! ぶわっ!!」

続いて突っ込んでいこうとした幽助が、突然何かにぶち当たった。
顔面衝突したらしい。
結構顔が腫れている。

が、それくらいでヘコたれる幽助であるはずもない。
すぐに起き上がって、何だったのか確認しようとしたが


あれ?」

そこには何もなかった。
隣で、同じように突っ込もうとして、同じようにぶったおれた桑原も、起き上がり、

「なんだ、今の!?」
「わかんねえ! おい、コエンマ! 今のなんだ!?」

「な、何だと言われても、わしにも何がなんだか……そうか!」

心当たりのあったらしいコエンマを全員が振り返る(飛影と女はのぞく)


「何があるんです? コエンマさま!」
「おそらくシールドだろう」
「シールド?」
「ああ。正式なぽけもん勝負たとえば、ジムなんかでは、通常ぽけもんは一対一で対戦する決まりになっている。ルール違反にならないよう、シールドを張ってあるジムも少なくない。ここにはそれがあるのだろう」

言いながら、幽助たちが転んだあたりまで歩み寄り、軽く手を振ってみる。
コンコンと見えない壁に当たった。


「それだけ自分に自信があるってことだよね、あの人」

腕組みして、うなづきながら言うぼたん。
蔵馬も続ける。

「だろうな。自分もズルができないわけだからな……それはそうと、コエンマ」
「なんだ?」
「飛影に行かせていいんですか? じゅごんは俺もよく知らないぽけもんだけど……形状からして、水と氷では?」

……ああーっ!!」

叫んだコエンマに、びくっとしたのは、ぼたんだけだった。
他は各々それどころではないらしい。
シールド壊そうとしたりなんだったり……しかし、それは反則のような気がしないでもないのだが

 

 

「な、何を焦ってるんですか? コエンマさま」
「飛影じゃ勝てん! 相性が悪すぎる!」
「え、でも飛影強いし、大丈夫ですよ、きっと。さっきからずっと勝ってるし」

まあ、戦力の要でもある飛影に負けられたら、ここまでは来られなかっただろうが。

「いや、今回は別だ! 今までとレベルが違う! おそらく飛影と同等だろう。だからこそ、相性が悪い方が負けを見る!」
「そ、そうですか?」


なあ、おい」
「何だ」
「さっきから言ってる相性って、なんだそりゃ?」

見えない壁に激突しまくっていたが、コエンマはともかく、ぼたんもやや引きつった声をあげたことで、幽助と桑原も彼を見た。
でもって、ぽけもんであるにも関わらず、間抜けな質問をしたのは、桑原である。
一瞬固まった後、呆れてため息をついたのは、コエンマだけにとどまらない。
ぼたんも蔵馬も、あろうことか幽助までもが、十分呆れていた。


「知らねえのか、桑原
「知らねえよ。何だよ、それ」
「かー、なっさけねー」
「あんだとー!!」

もはやお約束、喧嘩勃発。
しかしここで体力を削られるのは、コエンマとしても蔵馬としても困る。
が、あっさりと割っては入れたのは、蔵馬だけであった。
(コエンマは入ると、殴られる可能性の方が高いというより、それしかないだろう


「まあまあ落ちついて。あのね、桑原くん。君、飛行系だろう?」
「あ、ああ。そうだぜ」
「俺は炎、ぼたんはドラゴン、飛影は地面、幽助はノーマルと、それぞれタイプがある。そこまでは分かる?」
「ああ」

「単純に考えて、俺の炎は水に弱いのは分かるだろう? 原理で考えれば」
「まあな。水かければ、火は消えるんだからな」
「つまり相性が悪いってこと。自分に不利なわけだからね。逆にいえば、水系にとって、俺は相性がいいわけだ」
「攻撃が通用しやすいってことか?」
「そういうこと。もちろん、技にもよるけれどね。いくら水系ぽけもんの攻撃だからといっても、向こうがノーマルの技を出してくれば、別に不利でもなんでもない。逆に俺が水系ぽけもんに、ノーマルの攻撃をすれば、それなりに効く」

「身体と攻撃の相性、それぞれ考えれば、苦労せず勝てるってことか?」
「そう。まあ苦労するしないは、レベルと向こうの考えにもよりけりだけどね」
「なるほどな」

一個一個丁寧ながら、手っ取り早い説明に、桑原は段々分かってきたらしい。


「で、君の飛行系は、原理は分かりにくいだろうけれど、岩系とかに弱い。イシツブテとかと戦闘した時、戦いにくかったことはない?」
「ああ。何かいつもに増して……って、あれって相性の問題だったのか!?」
「だろうね」

実際その現場を見たことがない以上、何とも言えないが。
さっきからの桑原の戦闘方法は、ほとんど飛行の攻撃をしていた。
岩系にはほとんど効かないに等しい。
全く効かないわけではないが、それでもかなり相性は悪い。
よほどレベルの差がなければ、負けるだろう。


「んで、肝心の飛影は?」
「地面系は水・氷系に特に弱い」
「なるほどなって、それあいつなんだろ!! マズイじゃねえかー!!」
「そうなんだけど……もう始まってるんだよね

行ってしまった以上、今更止めても無駄だろうから、あえて止めなかったけど。
そう言って、蔵馬が視線を向けた先では、明らかに苦戦している飛影の姿があった。


「お、おい飛影!!」
「無茶だよ、相性悪すぎるんだってばー!」
「死ぬぞ、おい!」
「戻ってこいー!!」

ぎゃーぎゃー叫ぶ一同(蔵馬以外)。

しかし、当たり前だが、飛影が聞くわけもない。
彼が素直に聞いた日には、天地が逆転するか、地球が逆回転するか、銀河系が圧縮されるか、全宇宙が崩壊するであろう

 

 

 

「おーっほっほ! 情けないわねえ、あんた。じゅごん相手にからからを向かわせるなんて、なんて情けないトレーナーなのかしら!」

悪役さながらに、高笑いする女。
その視線は飛影ではなく、唯一人間のコエンマへ向けられていた。


「へ? もしかしてわしのことか?」
「そうらしいですね。まあ、現状を見れば、幽助だけでなく、全員あなたのぽけもんに見えるんでしょうが」

確かにまあ、そうだろう。
トレーナーが連れていいぽけもんは、6匹まで。
後は何処かへ預ける決まりになっている。
というか、自然とそうなってしまうのだ。

7匹以上を所持すると、ぽけもんの同士の相克だの相性だのが、めちゃくちゃに暴走するらしい。
なので、それを起こさないため、ぽけもんを連れているトレーナーは何処かの施設や公共などと契約して、7匹目以降を預ける仕組みをとっている。
同じぽけもんで揃えていてもなるのだから、世界とは分からぬものである。

しかし、言いかえればそれは、大概のトレーナーは皆、最高の6匹、あるいは手前の5匹を連れている場合が多いのである。
女はその原理から、今その場にいるぽけもんたちは皆、コエンマのぽけもんだと勘違いしたらしい。


「でもそれならば、かえって好都合ですね」
「は? 都合がいい? どういうことだ、蔵馬」
「こんなシールドをセットしているくらいだからあるはずなんですけど
「何が? っつーか、お前さっきから何を探しておるんだ?」

首をかしげるコエンマ。
さっきから蔵馬以外、飛影を止めることで必死だったが、そうしている間に、彼はなにやらずっと屈み込んでいたのだ。
というか桑原への説明の間も、ずっとそうしていた。

コエンマの問いには「ええ、ちょっと」とだけ答えて、すぐに再びしゃがむ蔵馬。
と、少し離れた石の陰でお目当てのものをようやく見つけ(見覚えのある足跡がついているところを見ると、どうやら蹴飛ばされて転がっていたらしい)、手に取ると立ち上がった。


「はい、コエンマ」
「何だそれは?」
「このシールドと連結しているものですよ。あの人ももってる」

と言って、向こうの壁際にいる女を見やる蔵馬。
確かに彼女も同じものをもっていた。


「! そうか、トレーナーのコントローラーか! これがあれば、本人が拒絶しても、ぽけもんを手元に引っ張り戻せる!」
「はい、正解。では、早速よろしく」

すちゃっと飛影を指差す蔵馬。
もう体力もかなりのところまできているらしい。
後一撃くらえば、確実に倒れるだろう。

「まんたんの薬は持ってます。急いで」
なるほどな。最初からこのつもりだったか」
「これがあると予想がついていないと、いくら俺でも冷静ではいられませんよ。それより」
「ああ。いっくぞー!!」


バンッぱちっビビン!


ワケの分からない効果音の後、急に飛影の身体が宙に浮いた。

「な、何だ!? うわっ!」

次の瞬間、飛影がこちらへ飛んでくる。
そして壁に張り付いていた桑原の顔面に激突!

「ぐはあ!!!」

と、ものすごい声をあげたのは、もちろん桑原の方。
ワケが分からぬまま、桑原の顔の上に乗っかっている飛影に、急いで蔵馬が駆け寄った。

「大丈夫か?」
貴様か。余計な真似を」

結構怒っているらしい。
まあここで彼が怒らなければ、天地が逆転するか、地球が逆回転するか、銀河系が圧縮されるか(以下略)。



「俺ではないよ。彼」
「え!?」

びしっと指差され、焦るコエンマ。
じろ〜っと飛影の視線がこちらへ動いている間に、蔵馬はまんたんの薬をあてる。
一瞬で傷は治った。
しかし心の傷は癒されない(いや、傷とは少し違うだろうが


「ま、待て! わしはただ!」
……覚悟は出来ているだろうな
「うわーっ!!」

骨をぶん回して襲い掛かってくる飛影に、本気で逃げ惑うコエンマ。
笑顔で見ている蔵馬と、どうコメントすべきか悩む3人。

「まあ
「よかったと
「言うべきか?」

非常に悩んだ末、そういうことにしておいた。
(するなー! byコエンマ)