きゅうこんの蔵馬を追って、塔へと駆け込む、飛影・幽助・桑原・ぼたん・コエンマ、そしてろこんの蔵馬。
「はあっ!」
「だあっ!」
「だあありゃあああ!!!」
「でえーい!」
飛影・幽助・桑原・蔵馬で襲ってくるぽけもんを蹴散らし、コエンマがトレーナーを撃ち倒していく。
ぼたんは天井付近を飛び、周囲に気を配った。
「ぼたん、階段どっちだ!?」
「あっちです、コエンマさま! 向こうの角!」
ぼたんの指示で、全員そちらへ駆け込む。
……塔の内部は異様な光景が広がる珍妙な場所だった。
壁はあるが、もろく壊れていて、天井に張り付くようにして見渡せば、その階の状態は大体分かるようになっている。
最も隙間は狭いため、くぐり抜けていくことは困難で、また今なお壊れずに残っている壁は、思いのほか頑丈らしく、鍛え抜かれた幽助の突進でも簡単には壊れなかった。
結局、多少の回り道をしても、まともに進むのが早いらしい。
「にしても、塔の中の方が多いんじゃねえか!? ろけっと団も連中のぽけもんも!」
「それだけ、ぽけもんの笛が連中に必要ということだ。ぽけもんを操る力があるとなれば、やつらには喉から手の欲しい品だろう」
「早くしねえと、そのきゅうこんの蔵馬ってやつ、やばいんじゃねえか!? 差し違えてでも、取り換えそうってんだろ!?」
「……急ぐぞ」
きゅうこんの蔵馬とは面識のない飛影と桑原。
しかし、この数時間行動を共にしたろこんの蔵馬の親戚らしいとあれば、仲間も同然。
幽助にとっては師匠のようなもの、ろけっと団ごときにやられるわけにはいかない。
「いくぜ!!」
塔の上層部はまだ遠い…。
……と、何階か上った先へ駆け上がった時、なぜか地面タイプなのに一番スピードが高く、先頭切って走っていた飛影が、急ブレーキをかけた。
「っと」
「おわっ!」
「ぎゃっ!」
蔵馬は間一髪で止まり、幽助はぶちあたりそうになったが踏みとどまって、反動で横へ避けたが、桑原はものの見事にずっこけた。
どういう状況でそうなったのかというと説明しずらいが、とにかく現状では、桑原一人が床に顔面を滑らせ、他全員は無事だったとしか言いようのない状態なのである。
いちおうなぜ思いっきり滑ったのかだけ言っておけば、古い塔なのに冷房でも効いているのか、この階はやけに気温がひくく、床がやや凍りついているからだったりする。
結構、寒い。
「あやや…」
「随分とお約束な展開らしいなあ」
後からやってきたぼたんとコエンマもあきれ顔で溜息をつく。
そのあとで、少しだけ寒さに身震いした。
…しかし、桑原はおにすずめなのだから、ぼたんと同じように天井付近を飛べばいいのではないかと思うのだが…。
そこらへんまで、考えが及ばないのか、単純に忘れているだけなのか…。
某こども向きアニメの憎めぬ悪キャラは、羽がはえているくせに、よく飛べることを忘れて落っこちているらしいので、彼もそのたぐいなのかもしれない。
「…今の突っ込み、こいつのこと誉めてるのか? けなしてるのか?」
「現実をありのまま伝えているだけだと思うけど?」
「フン、くだらん」
「つーか、何でてめえいきなり止まるんだ!!」
復活した桑原。
実に珍しく、的確な発言で立ち直った。
「……」
飛影は無言で、視線だけで示した。
全員がそちらへ向き直る。
そこには一人の女がいた。
年の頃にして、20くらいだろうか。
この寒さなのに、あまり厚着をしていないが、やせがまんしているような様子はない。
…まあ、していたら、結構格好悪いが…。
ぽけもんのモンスターボールをいくつか所持しているようだが、周囲にそれらしい影は見当たらない。
しかし…一目で、好意的でないことはよ〜くわかった。
「…すぐに襲ってこないところを見ると…」
「よほど腕が立つか、バカかのどちらかだろうな」
「周囲に他のトレーナーがいない。前者でしょうね」
それを裏付けるように、女の口角がゆるりと上がった。
不敵な笑みだった。
「……はじめましてってところかしらね」
くすっと笑う女。
いかにも「悪役!」というような笑み…。
しかしテレビの特撮などのレベルでいえば、中盤の主人公のメンバーたちがそろったあたりでポッと出てきて、ラスト目前で合体してパワーアップした彼らにあっさりと負けて跡形もなく消える……ま、そのくらいの程度だろう。
「ちょっと何! 今の解説! ひどくない!」
こう突っ込むあたりは、作者のくせに出しゃばって、適当にアテレコしたりしているギャグ漫画にぴったりかもしれない。
「何よ、それーー!!」
一人ぎゃーぎゃー叫んでいる女を前に、一同呆然。
というかあきれている。
「……なあ、話ぜんぜん進まねえぜ?」
「ここから横へよけて、こっそり上へいければいいんだけどね」
お約束だろうが、それは無理である。
RPGなどでよく思う。
天井の隙間や植木の下、あるいはいかにも壊れて開いていそうな窓があるのに、なぜそこいらを通って先へ進めないのか…。
あるいは岩石のようなモンスターを一撃で粉砕できるのに、民家の壁は砕けないのか…。
実に疑問だが、ゲームとはそんなもんである。
「ま、とりあえず。話しかけてみようか」
「そうだね。えっと…そこのおばさーん!!」
「……オバサン?」
解説にぎゃーぎゃー文句を言っていた女が、ゆるりと振り返った。
さっきの顔もあれだが、今度はやや怖い。
見るからに怒っているようにしか見えないが、まあ実際怒っているのだろう。
「はいな! そこのおばさん! そこ通してくれる? だめかい?」
…もちろん、ぼたんに悪気はない。
実際のぼたんの年齢は、オリジナルでもここの話でも一切不明だが、きっと人間よりは年上だろう。
オバサン以上に、オバサンくさい口調がそれを証明している。
(ただの江戸っ子口調なのかもしれないが、大阪人の上、東京の地を踏んだことのない管理人にはさっぱりなので、あしからず…)
しかし、見た目は10代半ばの彼女。
そこを踏まえ、見た目は向こうの方が年上だし、そう呼ぶべきなのだろうと感じたのであろう。
だが、年齢・容姿・体重は、女性の三大地雷と呼ばれる、触れてはいけない重大な要素。
それを女性であるぼたんが重要視していないかといえば、3サイズを聞かれて怒るくらいだから、考えてはいるのだろう。
だからこそ、これは本音でしかないのである…。
「誰がオバサンだ、誰がー!!」
「……オバサンじゃねえか」
「だな」
「20を過ぎたら、誰でもそんなもんだろうな、うむ」
「フン、ババアで十分だ」
「飛影、無神経だよ…すみません。この人たち、口が悪い上に、正直すぎて」
全くフォローになっていないぞ、蔵馬…。