<POKEMON> 5

 

 

 

……ところで、敵のアジトだというのに、これだけ暴れていいのかというような感じではあるが。

いちおうこれも作戦の一環である。
つまり幽助とコエンマは囮……2人がろけっと団を引きつけている間に、蔵馬とぼたんがぽけもんたちの解放を行うということになっていたのだ。

 

幽助とコエンマが暴れ出してから、数秒後。
騒ぎに気付いて集まってきた連中から、蔵馬は運び屋を見抜き、そっとあやしいひかりを発して混乱させ、鍵を奪った。

「行くぞ」
「OK!」

いくら二人が目立つ容姿をしているといっても、蔵馬がしんぴのまもりの応用を使っているため、人間には全く見えていない。
ぽけもんたちにはチラチラと見えているらしいが、幽助やコエンマに夢中になっているし、あまり攻撃したくないようにする効果もあるのか、誰一人こちらへはやってこない。
とはいえ、5分しか保たないのだから、あまりゆっくりもしていられないが。

次々と檻を開けていくが、しかし誰一人出てこようとしない。
まあ、開けるたびに蔵馬が「合図するまで出るな」と言っているからだけだが。
レベルも高く、美しいキュウコンの言葉ならば、信じられるのか……それだけではない気も、少しだけしたぼたん。

 

「(もしかして、他にも何か仕掛けてる…?)」

ふっと思った直感だが、外れではないだろう。
首をかしげたぼたんをチラと見た蔵馬は、一瞬にやりと笑ったから……。

 

 

 

 

一方、その頃。

「おらおらおらー!! 頭数揃えても意味ねえんだよっ!!」

すとらいく・さわむらー・えびわらーを一気に電光石火のみで倒し、なっしーといわーくを噛みついて倒した幽助。
流石に岩にかじりついたせいか、顎が少しガクガクいっていたが、まあすぐに治るだろう。

 

「ったく、大したことねえな〜。レベル40がどうとか聞いてたのによ」
「確かに、トレーナーのレベルも低そうだな」

集まってきた連中が全員地面に伏せっているのを見て、ため息をつくコエンマ。
幽助はものすごく不満そうに、まだ相手がいないか、きょろきょろとしていた。

 

「骨のありそうな奴いねえのかなー」
「ま、わしらのやることが終わったわけではないからな。予定よりは早いが、次の場所に……ん?」
「な、何だ? 地震か?」

と、幽助が思ったのも無理はない。
それほど激しくはないが、確かな揺れがきている。
それも段々と近づいている。
だからといって、地割れがするほど大きな揺れでもなさそうだが……そこはかとなく、嫌な予感がする。

 

「……げっ!? マジ!?」
「んなの、反則だー!!」

叫びながらも、慌てて駆け出す幽助&コエンマ。
無理もない。
いきなり戦車など現れては、攻撃よりまず逃げるしかないだろう。

いちおう蔵馬から、「連中が何を所持しているか、全ては把握していない。大砲や戦車など持ち出してきた時には、勝てるかどうか判断してから、攻撃しろ」と言われてはいたが……。
その時には冗談半分で「ぶっこわす!」などと言っていたが、実際目の前に現れては逃げるしかない。
稲妻やら炎やらが出せれば、壊せないこともないかもしれないが、幽助の攻撃は物理的なものばかりのため、それも不可能。
多分、戦車が壊れると同時に、幽助も脳しんとうくらい起こすだろうから(普通、突進程度で戦車は壊れないだろうが…)。

 

 

 

 

「な、何とか逃げ切ったか……」

ぜいぜいと荒くなった息を整えながら、自分たちを探してうろつく戦車を横目で見るコエンマ。
その横で幽助は頭の数カ所から血を流しながら、ひっくり返っていた。

別に、疲労困憊で立ち上がれない…というわけではない。
ただ単に、戦車に2〜3度体当たりして、頭がくらくらしているだけである。
一方の戦車は既に車輪が吹っ飛んで、大砲が曲がっているくらい酷いことになっているのだが……。

 

「ったく……やっぱ…鉄は…固い…ぜ……」
「……その程度ですむお前の方が変だがな」
「なんだとー!」

さっきまでひっくり返っていたのに、がばっと起き上がり、コエンマにつかみかかろうとする幽助。
しかし、同時に響いてきた声に、行動が止まった。

 

「おい! その声の奴!」
「へ?」

何処かで聞いたような声……。
しかし、口調からしても、音域の低さからしても、蔵馬やぼたんではない。

 

「桑原か!?」
「へ? …あ、そうか。桑原か!」

幽助が思い出す前に、コエンマが声の主の名を叫んだ。
まあ、幽助も誰だったかはすぐに思い出せたのだが、如何せん名を呼んだのが、あの時だけだったため、肝心の名前が出てこなかったのである。
元から人の顔と名前を一致させるのが苦手な方ではあるのだが、ライバルとして燃えていた桑原には少々気の毒のような……。

最も、当の本人はそのことに気付いていないらしい。

「てめえらも捕まったのか?」

などと、暢気に聞いてきたから。

 

 

「んなわけねえだろ! おめえじゃあるまいし!」
「大きなお世話でい!!」
「ま、元気そうで何よりだ」

と、三人が会話しているのは、さっきのところから少しも動いていない場所。
厚い壁越しだったが、格子のはまった窓からは、お互いの姿が何とか見えていた。
そう、幽助とコエンマが身を滑り込ませたのは、偶然にも桑原が入れられている檻の横。
停車しているトラックとの間だったが、幸い運転手はいないようである。

 

「なあ、この檻まだ開いてねえのか?」
「ああ、開いてねえ……ん? 『まだ』ってどういう意味だ?」
「わしらの仲間が開けて回ってるはずなんだが……まだなのか? それでは、一つ…」

言いながら、辺りを窺いつつ、コエンマが檻のドアの前に回り込む。
鍵はないが、銃で撃てば、多分開くだろう。
戦車は自分たちをまだ探しているようだが、距離は大分開いている。
桑原が出てきてすぐに走り出せば、多分まくことは出来るはず……。

が、軽いポンプ音がした途端、檻の中から、桑原以外の別の声が聞こえた。

 

「あ、今はまだ開けないで」
「ん? 何だ、他にも誰かいるのか?」
「まあな…って、何でだよ、蔵馬! もうこんな辛気くせーところ、いたくねえぞ、俺は!」

 

「……蔵馬??」(×2)

 

 

……

…………

 

 

「ええー、蔵馬ー!?」
「お、おめえそんなところで何やってんだ!?」
「だって、さっきぼたんと……だったよな!?」
「そんな簡単に捕まるようなお前じゃ……って、本当に蔵馬か!?」

かなり混乱気味に叫びまくっている幽助とコエンマ。
しかし、檻の中から返答はない。
桑原も桑原で、何故幽助たちが混乱しているのか分からないらしく、格子越しに幽助たちを見たり、檻の中へ視線をやったりと、結構パニックになっているらしい。

 

しばらくして、場の雰囲気が落ち着いてきた頃、ようやく檻の中から、桑原以外の声がした。

「……あなたたちの言っている『蔵馬』は、多分きゅうこんでしょう? 俺はろこんですよ」
「へ??」

頭を抱えていたが、ぱっと幽助たちが見上げると、格子の向こう側、桑原の隣にちょこんっと顔を覗かせているぽけもんがいた。
格子の下枠に前足だけ引っかけているのだろう、頭しか見えないが、確かに彼は幽助たちのよく知っている蔵馬ではなかった。
紅い毛並みと大きな幼さの残る瞳。
あの金色の毛並みと見間違うはずがない。

だが……どことなく似ているような気がするのは、気のせいだろうか?

 

 

「どうも、はじめまして」
「お、おう」
「よお」

格子越しではあるが、にこっと笑って挨拶をするろこんに、幽助たちも軽く返事をする。

「なあ、お前も蔵馬っていうのか?」
「ええ」
「親戚か何かか? きゅうこんは、ろこんの進化系だと聞いているが」

普通、親戚ならば尚更同じ名前になどならないだろうに。
先程の蔵馬の発言からしても、親しい間柄だということは分かる。
だが、親しいからこそ、同じ名前だというのは、むしろ変だと思うのが普通だが、

「まあ、そんなところかな」

と、蔵馬があっさりと切り返したため、誰もその疑問に気付く者はいなかった。

 

 

 

「ところで、何でまだ開けない方がいいんだ?」

思い出したように疑問を口にする桑原。
さっきの幽助たちの叫び声で、すっかり失念していたらしい。

「ああ。もうすぐ、きゅうこんの蔵馬から合図がある。それからで」
「合図? 合図って何のことだ?」
「……やっぱり、あやつ何か隠しておるな…」

ため息混じりに言うコエンマ。
その声に、幽助は怪訝そうに振り返った。

 

「どういう意味だよ?」
「気付いてなかったのか? これだけ時間が経っておるのに、ぽけもんが一匹も逃げ出しておらん。つまり、檻は開いているが、出てこないように言っておるのだろう。蔵馬が、わざわざ、何かのために」
「何かって?」
「さあな。何なんだろうな〜?」

そこまでは分からない、という気持ちと、檻の中のろこんである蔵馬に問いかける気持ち、半々で言うコエンマ。
幽助ははぐらかされたような気になり、むっとしたが、格子の向こうに見える蔵馬が苦笑を浮かべているのが見え、怒鳴らなかった。

 

 

「すまない。悪気はないんだが…」
「……分かるんだな、あいつのことが」
「ああ……すごく長い付き合いだからね」