<POKEMON> 1

 

 

 

ぽけもん

 

……それは“ぽけっともんすたー”の略称であり、この世界に広く分布する生き物たちのことである。

 

通常は森や草原、川や海など、様々なところに生息しており、その種類は200を超えると言われている。
炎や水、風、雷などを操れるもの、空を舞うもの、人懐こいものもいれば、孤独を好むものもおり、性質は様々である。

 

そして彼らと心を通わせ、共に戦い強者への道を目指す者……それが“ぽけもんトレイナー”である。

数々の苦難を共に乗り越え、いかなる強豪にも力を合わせて立ち向かい、どんな時でもひるまず互いに支え合って強くなっていく……というのが一番いい形なのだが、まあ理想と現実は異なる場合もあるらしい。

 

 

しかし、戦えば戦うほど、ぽけもんが強くなるのは事実である。
ぽけもんにはレベルというものがあり、戦えば戦うほどレベルは上がっていく。
レベルの向上に合わせて、力やスピード、能力なども増していく……そう、強くなっていくのだ(勝てれば、の話だが)。

こうして最終的に、全てのぽけもんトレイナーが集結するであろう聖地。
強豪たちが自ら鍛え上げ、お互いに相棒と認めた6匹のぽけもんたちと挑む戦いの地、それが“ぽけもんリーグ”である。

 

 

 

 

……あの日、コエンマが所属する研究所へやってきた少年もまた、その聖地を目指している者の一人だった。

若干、10歳。
やっとぽけもんトレイナーになることを許されたばかりだった。

しかし、トレイナーとしての腕は、もう充分すぎるほどあったように思う。
純粋すぎるが故、逆にぽけもん達も心を開きやすかったのかもしれない。

 

それはコエンマも体験済みだった。
乱暴で人の言うことを全く聞かず、研究員仲間からは不良ぽけもん呼ばわりされていた彼のぽけもんが、少年のことは気に入ったらしいのだ。
もちろん他のぽけもん達のように、喉を鳴らしていくような風ではなかったが…。
少年の連れてきたぽけもん達と戦う姿は……それまでコエンマが見てきた、どんな顔とも違っていた。

楽しそうなのだ、これ以上になく。
それまではヒマつぶし程度にバトルしていたのに……そう、戦いを“楽しむ”ことを初めて知ったのだ。
そして、それはコエンマにとっても同じだった……。

 

 

「行くのか?」
「ああ。世話になったな」

少年は荷物を背負い直しながら、自分より長身のコエンマを見上げて、ニッと笑った。
滞在したのはせいぜい一週間程度。
あっという間の短い時間だったが、冒険心に溢れた彼には、少々長すぎたかも知れない。

 

「楽しかったぜ。元気でな!」
「ああ。ヒマだったらまた来い」
「へへっ。そんなヒマないと思うけど! じゃあな!」

それだけ言うと、少年はくるりと背を向けて走り去ってしまった。
次の目的地も決めていないというのに、彼の足取りは速かった。
先が見えなかろうと、彼の進む道は一つ……その小さな背中を見送りながら、コエンマは深くため息をついた。

 

 

「全く。元気すぎて、ついていけん」
「てめえに言われたらお終いだよな」

ふいに、コエンマに話しかけた、一つの声。
振り返ってみると、そこには一匹のぽけもんが立っていた。
といっても、四つん映えだが。

全体の毛並みは茶色。
尾の先が僅かに白くなっており、胸元もふわふわな真っ白の毛で覆われている。
長く大きな耳に、闘争心たっぷりの大きな瞳。

普通は可愛らしい印象を持たれるはずの種類なのだが……彼こそコエンマのパートナー、研究所では知らぬ者はいないとされる、不良ぽけもん・いーぶいこと、幽助なのだ。

 

 

「何だ、お前。見送りにもこんで」
「てめえの後始末押しつけられてたんだよ! ったく、片づけろよな。自分のデスクくらい」

ブツブツ言いながらも、やっていたらしい。
不良と言われる彼だが、根っからの根性ワルではない。
そうであれば、戦いを楽しんだりはしないだろうし、こうしてコエンマの尻ぬぐいをしたりもしない。
誰も怖がって近づかないから気づかないのだが、結構面倒見のよい性格なのだ。

 

 

「ああ、悪い悪い」
「……全然悪いと思ってねえだろ、てめえ…」

怒りと呆れの混じったため息をつく幽助。
しかし、気を取り直したように、顔をあげ、

「で? いつ行くんだ?」
「は? 何処に?」
「行くんだろ? ぽけもんリーグ」

 

ギクッ!!

 

……漫画ならば、ページの半分くらいを占めるような大きな効果音がついたことだろう。
それくらいコエンマは驚いており、それ以上に焦りを感じていた。

 

「な、な、なんの…こ…と……だ……?」
「バレバレだっての。行くんだろ、どうせ。お祭り好きのてめえのこった。あいつからリーグの話聞いて、ほっとけるわけねえもんな。まあいいぜ、付き合ってやらあ。結構バトルってもんの楽しみ分かってきたところだしな」
「幽助……」

見抜かれたことは少々しゃくに触るが、話を持ち出す前に承諾を得られたともとれる。
まあ断ってきても、強引に同行させるつもりではあったが。

 

 

「よし! そうと決まればいくぞー!!」
「え…まさか今からか!?」
「当たり前だ。善は急げ! 思い立ったが吉日! さあ、行くぞ! おい、何やっとる。ぼたん呼んで来い!」
「あ、あのなー!!」

 

 

 

……ということで、少年が経った数分後。

コエンマもまた出発したのだった。
目指すは、ぽけもんリーグ。
出場規定がよく分からない以上、出る出ないはまだ分からないが、どうせ出ることになるのは、この場にいた誰もが分かっていた。
といっても、この場にいるのは、コエンマと彼が連れているぽけもん2匹だけだったが。

 

「コエンマさま〜」
「何だ?」
「本当にこっちであってるんですか〜? 何か薄暗くなってきちゃいましたよ?」

「う、うるさい! あっとる! ……多分
「多分?」

コエンマが最後に小さく言ったのを、彼女は聞き逃さなかった。

透き通る青空のような、真夏の海のような、不思議な色をしたスレンダーな身体。
小さな丸い角のはえた額。
頭の上には小さな羽があり、自由に空を飛んでいる。
最も羽で飛んでいるわけではなく、ただ身体が浮いているだけなのだが。

はくりゅうという種のぽけもんである彼女。
名前はぼたんと言い、つまり出発直前、コエンマが幽助に呼びに行かせたぽけもんである。

多少おっちょこちょいな面はあるものの、しっかり者で元気の塊とも言える明るい性格。
物事を深く考えないさっぱりとした娘だが、逆にいえば白黒はっきりつけたがる中途半端が嫌いなタチなのだ。
そう、今のような状況は特に……。

 

 

 

「多分ってどういうことですか! まさか迷ったなんていわないですよね!?」
「い、いやその……」
「迷ったのか? 迷ったのか!?」

幽助も流石に焦った。
何となくそんな気はしていた。

行けども行けども、看板一つ見あたらない。
しかも、どんどん道幅は狭くなる一方であり、挙げ句の果てには今は全くない。
獣道すらなく、完全に雑草ボウボウの森の中を突き進んでいる状態。
これが迷子といわずになんと言うだろうか……。

 

 

 

 

「……どうすんだ、これから」

疲れ混じりに言いながら、岩の上に腰をおろす幽助。
その横にぼたんも着地した。
コエンマは後ろめたさもあるせいか、立ったまま地図とにらめっこしている。
とはいえ、道がない所にいる以上、いくら地図を見ても無駄な努力だと思うのだが……。

 

「ここまではあってたはずなんだが……いや、こっちの道に来たのか? でもそれじゃあ、あの看板は……」
「おい、まだかよ」

イライラしながら言う幽助。
ぼたんといえば、彼の横で寝息を立てている始末。
しかし幽助が本気で怒れば、多分飛び起きるだろう。
そしてコエンマをほったらかして逃げることだろう……。

 

 

「いや、大分わかってきた!」
「そうかよ。だったらさっさとしろよ」
「え、いやその……そうだ! ぼたん!」

と、寝ているぼたんを急に揺り動かし、起こすコエンマ。
ぼたんは寝ぼけ眼を尾でこすりながら、

「何ですか〜?」
「空から見てきてくれ。そうすりゃ、一発だ!」
「何でそれに早く気づかねえんだ、てめえは!!」
「う、うるさい。お前だって気づかなかっただろうが。お互い様だ」

そう言われては幽助も怒るに怒れない。
ブツブツ言いながらも、それ以上は文句をぶつけてこなかった。
その様子にホッとしながら、ぼたんを向き直るコエンマ。

 

 

「じゃあ頼むぞ」
「はいな!」

何故か江戸っ子口調のぼたん。
元気いっぱい飛び上がり、木々の間をくぐり抜けていった。
もう少しで木の頂上、広がる青空まで後一息……と、思ったその時!!

「きゃっ!!」
「ぼたん!? …ぎゃっ!!」

 

ドッシーン!!

 

突然、ぼたんが落下。
幸い真下に幽助がいたため、怪我はなかったが、幽助の方はかなりの大ダメージだったらしい。
頭に大きなコブが出来ていた。

「いてて…」
「ああ、ごめんごめん。大丈夫かい?」
「ま、まあな」

「それよりどうした? いきなり落ちるなんてお前らしくもない…」
「分からないさね。何かがぶつかってきて……ありゃ? コエンマさま、何か踏んでません?」
「は?」

ぼたんの落下に慌てて走り寄ってきたため、自分が何かに乗っているなど、全く気がつかなかったコエンマ。
そっと足を持ち上げてみると、そこには……、

 

 

「な、何だこいつ?」
「……おにすずめか?」

研究所に勤めていただけあって、ある程度はぽけもんの知識に詳しいコエンマ。
確かにそこにいたのは、飛行ぽけもんの一種・おにすずめだった。

茶色の頭部に、赤みのかかった茶の翼。
懐から足下にかけては白く、尾羽は頭と同じ色だった。
薄いピンクの鋭いが、少し丸いくちばし。
これでも結構威力はあるはずだが、何分今の彼は目を回してひっくり返っているため、あまり強い印象は持たれなかった。

 

 

「ぼたん。おめえ、これにぶつかって落ちたのか?」
「さあ、よく覚えてないけど」
「ま、そう考えるのが妥当だな。こっちも同時に落ちたようだが」
「は〜、どっちもドジだな」

「あんだとー!!」

さっきまでコエンマに踏まれていたというのに……。
幽助の一言がそれほどカンに触ったのだろうか?
おにすずめは、ガバッと飛び起き、幽助に掴みかかっていった(くちばしで、だが)。

 

「何だてめえ! やろうってのか!」
「上等だ!!」

「お、おい。幽助……」

コエンマが制止しようとするのも聞かず、あっさりとバトル開始。
完全にトレイナーの意向無視である。
普通なら、こんな関係でいいのだろうかと悩むところだが……。

 

「本当に喧嘩っぱやいさね〜、幽助」
「まあ、楽しんでるだけ、前よりはマシだな」

 

 

 

 

数分後。
勝負はあっさりとついてしまっていた。
むろん勝者は……。

 

「いってー……」

ボコボコにされ、地面にひっくり返っているのは、言うまでもなく、おにすずめの方である。
幽助の方は、ほぼ無傷。
あまり強くなかったため、大して楽しくなかったようである。

 

 

「ったく、手間とらせやがって。行こうぜ」

ぽんぽんっとホコリをはらって歩き出す幽助。
コエンマもその後に続いたが、ぼたんは完敗したおにすずめが多少哀れだったのか、彼の横にしゃがみ、

「幽助に勝てるわけないじゃん。あれでももうレベル結構高いんだよ」
「“あれでも”ってなんだ!」

聞いていないようで、しっかり聞いていた。
ギンッと怒りの眼差しを向けるが、ぼたんは慣れきっているので、全く動じない。
しかし、普通ならばここで“怯えるはずの者“もまた、動じていなかった。
それには成り行きを見ていたコエンマも多少驚いていたが。

 

 

「…ほ〜。結構根性座ってるらしいな、お前。幽助にガン飛ばされて、平気そうじゃないか」

なかなかのものだなと、おにすずめに話しかけるコエンマ。
おにすずめの方は、まだムッとしていたが、言い返すことだけは忘れず、

「根性だけは、誰にも負けねえ! いくぜ、もう一度勝負だー!!」

さっき負けたばかりだというのに、また幽助に向かっていくおにすずめ。
が、しかし……。

 

ドカッ! バキッ! ドッカーン!!

 

……哀れだが、圧倒的な差というものが、この世には存在するらしい。
どう考えても、彼の根性よりも、幽助の実力の方が勝っている。
しかし、おにすずめはまだ諦めようとしない。

「勝つまでついていくからな!!」
「……いいんですか? コエンマさま」
「いいんじゃないのか? ま、結構いいやつみたいだしな」

 

 

 

〜作者の戯れ言 中間編〜

管理人にしては珍しいパラレルワールド小説です。
つまり、蔵馬さんたちの性格だけで、世界観とか立場とかは全く違うという感じで。
いちおう「ポケットモンスター」を元にしていますが、全然違います。
あってるのは、ポケモンっていう存在だけで……。

っていうか、蔵馬さん出てこないしー!!(おいおい)
次には必ず出ますので!!

 

 

 

   

Background&Illustration(C)Mel Minamino