ゴオオッッ!!!
女妖怪の発した炎が幽助達に襲いかかろうとした時!
「きゃあっ!!」
「? は……??」
せいぜいがコエンマがあげるべきだった悲鳴を……予想外にあげたのは、女妖怪の方だった。
集中力が切れたのだろう、炎は方向性を失い、彼らのすぐ脇の地面をえぐった。
見れば、女の腕からは夥しい血が溢れ出している。
ってか、噴き出している。
冗談抜きで、紅い噴水のよう……。
明らかに致命傷。
これで致命傷でないのは、せいぜい戸愚呂兄くらいだろう。
そういや、あの後入魔洞窟って、誰も入る人いなくなったでしょうね。
自殺しにきた人だって、アレ見たら、全力で逃げるだろうから。
ある種、人生に希望を取り戻せそうな気さえします……(遠い目)
「い、今のはっ……」
「作者の余談はともかく……」
「……?」
と、自分達を覆う形で黒い影が背後から伸びてきた。
それはゆっくりと近づき、彼らを追い抜くと、目の前で静かに止まった。
白い着物に白い肌、すっきりとした身のこなし……後ろ姿で顔は見えないが、年の頃は幽助より数歳下だろうか。
髪は長いが、どうやら少年のようだ。
「てめえ……は……」
「大丈夫? 飛影、幽助、コエンマ」
「えっ……」
「こ、この声は……」
重い頭をぐぐっと動かして振り返る幽助達。
そこにいたのは……。
「ガ、ガキ??」
「ガキ……だな」
「変だな……聞き覚えのある声だったような……」
「……あるに決まってるでしょう。俺ですよ。蔵馬です」
「え゛……く、蔵馬!?」
が〜んっと頭をハンマーで殴られたような衝撃が体中を駆け抜けた。
いや本当に殴られるより、数倍キいたはずである。
髪型や着ている物の違いなど、この際どうでもいい。
どう見ても可愛らしい少女にしか見えない、愛らしい子供……それがあの蔵馬であるなど。
もちろん彼は自他認める美少年。
あれで認めなかったら、あまりにも見る目がなさすぎる。
ナルシストでも身内びいきでもなく、一般論として美少年なのだ。
その美少年と……色白なところや、髪や瞳の色、美しさぶりはそっくりだが。
だが!!
それとこれとはまた話が違う!!
……最も、
「…………」
飛影だけは気づいていたようで、立ったら自分より小さいのではないかと、毒で痺れて動かない自分の体を疎ましく思っていたけれど。
一方、蔵馬はといえば、ぼたんに続いて二度目だなと、呆れ顔で彼らを見下ろしていた。
「(この調子だと桑原くんも同じ感じだろうな……)それで何て格好してるのさ。起きたらどうです?」
「お、起きたくても……起きられねえんだよ……」
「ど、毒にやられてな……は、早く解毒剤、作ってくれ……」
「…………」
「お、おい?」
「……これは……」
軽く視診しただけだというのに、蔵馬にはそれがどういう毒なのか分かったらしい。
しかもその様子からしてみれば、あまり簡単に治療出来るものではないようだ。
「……マズイですよ、これは」
「え゛っ……」
「多分、植物や体液で作った毒じゃなくて妖力自体を毒化したものだと思うんですが……これはやった人物が死なない限り消えないんですよ」
「なっ、何だとー!!」
ガバッと起きあがる幽助達。
三人一緒に自分より数段小さな蔵馬の肩を鷲づかみし、
「何とかしろ!」
「後、23時間41分19秒で、わし達死ぬんだぞ!!」(←時計持参)
「そ、そうだ! 毒やったヤツなら、あっちに……あれ?」
ふいに自分の体の異変に気づく幽助。
彼が蔵馬から手を放し自分の体を見回しだしたことで、飛影やコエンマもその異変に気づいた。
「動けてる?」
「さっきまで全然動かなかったのに……何でだ?」
「あの女妖怪が死んだからですよ。まあ完全に消えたわけではないですが……」
「死んだ?」
蔵馬の言葉に、バッと女妖怪を振り返ろうとした幽助達だが、振り返った先に彼女の姿はなかった。
たださっき現れた白い装束の少年がこちらを見つめているだけ……。
と、彼の足下に灰色の犬が転がっているのを見つけた。
「何だ、その犬……?」
「それか。さっきの女の正体は……宮中に巣くう物の怪の一匹か?」
幽助を遮った蔵馬の問いかけに、少年が頷く。
「ええ、おそらく。末端も末端でしょうが……毒もおそらくこいつ自身のものではありませんよ。親玉のものを借りたのでしょう。やつが死なねば、毒は消えないかと」
「聞き出したか?」
「はい。やはり化生の前でした」
「そうか……」
「……蔵馬、誰だ? そいつ」
蔵馬と親しげに話す少年を、きょとんっとした目で見ながら尋ねる幽助。
彼の美しさ、凛とした佇まいにも驚いていたが、まず何故ここまで蔵馬と親しいのかが、不思議でならなかったのだ。
一緒に鏡に吸い込まれたとは思えない。
あの場には自分達しかいなかったのだから……。
「ああ、俺の弟子だ」
「で、弟子ーーー!!?」
「……そんなに意外?」
「いや、意外っていうか何ていうか……」
どうコメントすればいいのか分からず、まだパニック状態の頭を抱える幽助達。
蔵馬はその様子に、ちゃんと説明した方がいいだろうと、少年に聞こえぬよう、軽くかがんで彼らの耳元で、
「鏡のせいで、時代を超えたのは分かってる?」
「あ、ああ……」
「なら話は早い。あいつは昔、俺の弟子だったやつだよ。俺はこの時代にも既に生まれていたからね」
「あ、そういう意味か……」
「蔵馬殿。何か?」
「いや、何でもない。ああ、紹介する。彼らが言っていた、『姫』以外の仲間だ」
「はじめまして」
礼儀正しく頭を下げる少年。
が、しかし、本当は内心かなり驚いていたのだ。
蔵馬からある程度は聞いていた。
気の短くて、血の気が多くて、感情表現豊かな連中……しかし目前にいる彼らは、少年の予想を遥かに上回っていたのだ。
毒自体は強力で簡単に解毒のしようもないことくらい少年にも、少し見ただけで分かった。
だが、その分そういう毒は取り込まれにくいはずである。
少なくとも数秒……下手すれば数十秒は必要とされるだろう。
それなのに、あっさりと引っかかってしまっているのだ。
おまけに地面に膝をついたままの体制だというのに、けろりとした顔で自分や師匠を見ている。
肝が座っているのか、おおらかなのか、単に変わっているだけなのか……。
しかし、不思議と悪い印象はなかった。
自分自身、蔵馬のことが言えないくらい付き合う相手は厳選し、あまり短気な連中とは関わらないようにしてきた。
そういう奴らを心の中で愚弄していたこともある。
だが……今、ここにいる師匠の仲間、彼らは今までの連中とは何か違う。
そう、何か……奥底に惹かれる何かがあるような、そんな気がするのだ……