<きつね陰陽師> 2

 

 

 

「いてて……」
「どけっ、浦飯! 重い!!」

「俺より先にコエンマどけよ!! って、何だよ、気絶してやがる……おい、起きろ!!」
「〜ん? 何だ、もう朝か??」

「あのな〜……下りろ!!」
「うわっ!」

 ドシンッ

 幽助に突き飛ばされ、尻餅をつくコエンマ。

 

「いたたっ……」

「ったく……おい」
「何だあ? ……あ?」

「あ〜、腰打ったわい」
「コエンマ」
「おい、てめえ」

「は?」

 まだ状況把握出来ていないらしい彼を、同じく状況把握できていない幽助と桑原がにらみつけた。

 

 

「な、何だ、2人して」
「ここ何処だよ」

「ど、何処って……何処だ?」
「「あのな〜!!(怒)」」

 脳ミソの血管がブチキレる直前状態の幽助たち。
 その凄まじい形相には、ぼ〜っとしていたコエンマも瞬時に正気に戻った。

 

 

 

「え、えっとだな……ここは……」

 必死に考えるが、何が何だかさっぱり分からないのは自分も同じこと。

 しかしあの状況からして、全て原因が鏡にあることは、幽助達でも分かっている。
 とすれば、鏡を持っていた自分に疑いがかかり、でもって責任を押しつけられるのは必須……。

 殴られる前にと、あれこれ考えるが周囲を見渡しても、見たこともない風景が広がっているだけで、全然分からない。

 

 人は数十人ほど行き交っているが、こちらへ話しかけてくる様子はない。
 物珍しそうにジロジロ見て行き過ぎるだけである。

 しかし、その人々≠ノついて、コエンマは違和感を覚えた。

 

 

「おかしい、何で皆着物なんだ? 夏祭りのような雰囲気でもないし……しかもただの着物じゃない。どっちかっていうと狩衣や水干みたいな……」

「どうなんだよ!! コエンマ!!」

 イライラしながら、顎に手を当てて考えているコエンマにつかみかかる幽助。

 しかし、コエンマはもう、狼狽えていなかった。
 その代わり、かなり焦ってはいたが……。

 

 

「ここ……もしかすると、鏡が作られた頃かもしれん……」

「なっ、何ーーー!!?」
「鏡が作られた頃!? って、900年以上前かっ!?」

「た、多分……だが……」

 

「なるほどな」
「飛影っ!」

 斜め後ろからした声の主は言うまでもなく、飛影。
 振り返った先で、塀の上から、彼らを見下ろしていた。

 しかしすぐに視線を外し、周囲を見渡しながら、

「どうりで最下級の雑魚妖怪が多いわけだ。人間界に魑魅魍魎が徘徊する、時代名とはまるで一致せん時があるとは聞いていたが、ここだったとはな」

「名前と一致せん……ってことは、平安時代か?」
「時代名なんざどうでもいい!! ようは、俺たち……タイムスリップしちまったってことかよ!?」

「多分な。あの鏡の力だろう……」
「感心すんな!!」

「どうやって帰るんだよ!!」

 

 珍しく正しい意見で怒鳴る幽助と桑原。
 飛影は無視していたが、コエンマはかりかりと頬をかきながら、

「それは……だな……」

 言い訳……というよりは、冗談抜きで首を繋ぐべく、言いかけたその声は、

 

 

 

「姫さま!!」

「姫さまーー!!」

 

 

 

 と、突然聞こえてきたその叫び声に、かき消されてしまった。

 

「「「「…………」」」」

「「「姫さま!!?」」」

 

 ばっと顔を見合わせる一同(飛影はやはり無視しているが)

 最初は聞き違いか、あるいは別の通行人に向かって叫んでいると思ったのだが、向こうから走ってくる男や女は、明らかに自分達を目指して走っていた。

 

 

 

「ひ、姫さまったって……」
「……まさかぼたんか!? って、あれ? ぼたんは?」

 やっと気づいたらしいが、その場にぼたんの姿はなかった。
 あれだけいつもキャーキャーと喋りまくっているぼたんがいないのだから、すぐに気づいても良いだろうに……。

 

「多分、別の場所に落ちたんだろう。時代が違わなければ、何とかなるだろうが……」
「じゃあ、まさか蔵馬か!? ……って、あいつもいねえ……」

 どうやら、蔵馬達も同時に吸い込まれたと思いこんでいるらしい幽助。
 まあ目の前に飛影がいるのだから、無理もないが。

 

 

「じゃあ誰だよ?」
「そりゃあ、幽助だろう?」

「な、何で俺なんだよ!?」
「お前女装しても結構似合うらしいじゃないか」
「螢子喋ったな……」

 帰ったら、絶対に文句言ってやると思いながら、拳を握りしめる幽助。
 そうしているうちに、遠くにいた連中はすぐ近くまで走り寄ってきた。

 そして……。

 

 

 

「姫さまああ!!」

「よくぞご無事で!!」

 

 

 ……皆、からかう気にもなれなかった。

 ……というより、立ちつくすしかなかった。

 ……いや、立ちつくすと言うよりは、真っ青になって魂が抜けかかっているのかもしれなかった……

 

 

 姫と叫びまくっていたその一群が駈け寄っていった人物。

 まさか桑原だったとは、その場にいた誰もが、夢にも思わなかったのだから……。