「いてて……」
「どけっ、浦飯! 重い!!」
「俺より先にコエンマどけよ!! って、何だよ、気絶してやがる……おい、起きろ!!」
「〜ん? 何だ、もう朝か??」
「あのな〜……下りろ!!」
「うわっ!」
ドシンッ
幽助に突き飛ばされ、尻餅をつくコエンマ。
「いたたっ……」
「ったく……おい」
「何だあ? ……あ?」
「あ〜、腰打ったわい」
「コエンマ」
「おい、てめえ」
「は?」
まだ状況把握出来ていないらしい彼を、同じく状況把握できていない幽助と桑原がにらみつけた。
「な、何だ、2人して」
「ここ何処だよ」
「ど、何処って……何処だ?」
「「あのな〜!!(怒)」」
脳ミソの血管がブチキレる直前状態の幽助たち。
その凄まじい形相には、ぼ〜っとしていたコエンマも瞬時に正気に戻った。
「え、えっとだな……ここは……」
必死に考えるが、何が何だかさっぱり分からないのは自分も同じこと。
しかしあの状況からして、全て原因が鏡にあることは、幽助達でも分かっている。
とすれば、鏡を持っていた自分に疑いがかかり、でもって責任を押しつけられるのは必須……。
殴られる前にと、あれこれ考えるが周囲を見渡しても、見たこともない風景が広がっているだけで、全然分からない。
人は数十人ほど行き交っているが、こちらへ話しかけてくる様子はない。
物珍しそうにジロジロ見て行き過ぎるだけである。
しかし、その人々≠ノついて、コエンマは違和感を覚えた。
「おかしい、何で皆着物なんだ? 夏祭りのような雰囲気でもないし……しかもただの着物じゃない。どっちかっていうと狩衣や水干みたいな……」
「どうなんだよ!! コエンマ!!」
イライラしながら、顎に手を当てて考えているコエンマにつかみかかる幽助。
しかし、コエンマはもう、狼狽えていなかった。
その代わり、かなり焦ってはいたが……。
「ここ……もしかすると、鏡が作られた頃かもしれん……」
「なっ、何ーーー!!?」
「鏡が作られた頃!? って、900年以上前かっ!?」
「た、多分……だが……」
「なるほどな」
「飛影っ!」
斜め後ろからした声の主は言うまでもなく、飛影。
振り返った先で、塀の上から、彼らを見下ろしていた。
しかしすぐに視線を外し、周囲を見渡しながら、
「どうりで最下級の雑魚妖怪が多いわけだ。人間界に魑魅魍魎が徘徊する、時代名とはまるで一致せん時があるとは聞いていたが、ここだったとはな」
「名前と一致せん……ってことは、平安時代か?」
「時代名なんざどうでもいい!! ようは、俺たち……タイムスリップしちまったってことかよ!?」
「多分な。あの鏡の力だろう……」
「感心すんな!!」
「どうやって帰るんだよ!!」
珍しく正しい意見で怒鳴る幽助と桑原。
飛影は無視していたが、コエンマはかりかりと頬をかきながら、
「それは……だな……」
言い訳……というよりは、冗談抜きで首を繋ぐべく、言いかけたその声は、
「姫さま!!」
「姫さまーー!!」
と、突然聞こえてきたその叫び声に、かき消されてしまった。
「「「「…………」」」」
「「「姫さま!!?」」」
ばっと顔を見合わせる一同(飛影はやはり無視しているが)
最初は聞き違いか、あるいは別の通行人に向かって叫んでいると思ったのだが、向こうから走ってくる男や女は、明らかに自分達を目指して走っていた。
「ひ、姫さまったって……」
「……まさかぼたんか!? って、あれ? ぼたんは?」
やっと気づいたらしいが、その場にぼたんの姿はなかった。
あれだけいつもキャーキャーと喋りまくっているぼたんがいないのだから、すぐに気づいても良いだろうに……。
「多分、別の場所に落ちたんだろう。時代が違わなければ、何とかなるだろうが……」
「じゃあ、まさか蔵馬か!? ……って、あいつもいねえ……」
どうやら、蔵馬達も同時に吸い込まれたと思いこんでいるらしい幽助。
まあ目の前に飛影がいるのだから、無理もないが。
「じゃあ誰だよ?」
「そりゃあ、幽助だろう?」
「な、何で俺なんだよ!?」
「お前女装しても結構似合うらしいじゃないか」
「螢子喋ったな……」
帰ったら、絶対に文句言ってやると思いながら、拳を握りしめる幽助。
そうしているうちに、遠くにいた連中はすぐ近くまで走り寄ってきた。
そして……。
「姫さまああ!!」
「よくぞご無事で!!」
……皆、からかう気にもなれなかった。
……というより、立ちつくすしかなかった。
……いや、立ちつくすと言うよりは、真っ青になって魂が抜けかかっているのかもしれなかった……
姫と叫びまくっていたその一群が駈け寄っていった人物。
まさか桑原だったとは、その場にいた誰もが、夢にも思わなかったのだから……。