<眠れる森の桑原くん 6>
そして、夕刻。
蔵馬さんたちは、眠ってるだけ……のはずの桑原くんを引きずって、王宮までやってきました。
入るのは、正面玄関ではなく、裏手の小さな使用人口。
そして登っていくのは、あまり使われていない古い塔。
ガンゴンガンゴンと、誰かさんの頭が階段やら壁やらに激突していますが、それは無視です。
「無視なのかい……」
じゃあ、貴女おんぶしますか?
「無理に決まってるだろ〜? 桑ちゃん、そうでなくても、身長高いんだから」
「まあ、この程度のコブ、彼なら3コマで治りますよ」
「ちげえね〜」
で、到着した塔のてっぺんの広い部屋。
使われていないとはいえ、王宮の一角ですから、綺麗に片付けられてありました。
陽が沈むまでは、誰にも会わせず、この危機を乗り切ろうというのです。
「……危機ってなんだっけ?」
「……だから、糸車の針に指を刺されて死ぬってやつですよ」
「あ〜、そういやそんな話だったか」
「何か、忘れちゃうね〜、関係ないこと、ゴタゴタやってると」
忘れないで下さい、どうか。
「でさ、蔵馬。結局、その『眠り姫』ってタイトルからして、指刺されるのかい?」
「ええ。妖精たちが、色々手をこうじるわけですが、結局は。原作では、その後100年眠り続けます」
「ひゃく……そんなに待てっかよ!! 16年でも、死ぬかと思ったんだぞ!!」
「……ん? 原作≠ナは? 映画は違うのかい?」
「まあ、色々ありまして。でも、糸車で指を刺すところは、一緒ですよ」
そこ、物語のポイントですからね。
「じゃあ、どれくらい? 10年とか?」
「もっと短いですよ」
「じゃあ、1年?」
「もっと」
「……半年?」
「もう一声」
「……1ヶ月?」
「更に」
「……1週間?」
「まだ長い」
「……1日?」
「半日です」
「「なんじゃそりゃあああああ!!!」」
「おい、それ眠り姫どころか、ふつ〜の睡眠じゃねえか!!」
「半日連続して寝るくらい、物語でなくても、全っ然不可能じゃないじゃないのさ!!」
あ〜、でも事実ですからね〜〜。
「ええ、まあ、そうなんですが……それより今は、もっと別の問題が」
「「問題?」」
「桑原くん……起きて貰わないと、指を刺して眠ってくれないんですよ……」
「「あ」」
未だ昏々と眠り続ける桑原くん。
無理ありません。
普通なら、1滴で100人殺せる薬を、瓶一杯飲まされたのですから。
寝ているだけっていう方が、奇跡に近いです。
つーか、普通に奇跡でしょう。
「どうすんだ?」
「う〜ん、でもさあ。正直、今起きて欲しくないよね〜。さっきの仕返しされたら、続行どころじゃすまないだろうし」
「それは同感です」
「ならば、その状態で針に指押しつけたらどうだ?」
「わざわざ起こすこともないだろう」
「あ〜、そうだな……って、てめえら!?」
「あれまあ、コエンマ様に飛影じゃないかっ!!」
「いつからそこに? それと、コエンマどうしたんですか? その黒こげな衣装は」
幽助くんたちが驚くのも、無理はありません。
窓辺に立つのは、16年ぶりに会う飛影くんと、昼間の黒こげが治っていないコエンマ様でした。
ご丁寧に、でっかい糸車担いでいます。
「たった今だ。台本では、貴様等の隙をついて、こいつを呼び出し、針に触れさせる予定だが……面倒だから、此処に持ってきた」
「どうかと思ったが、正解だったらしいな。これでは、呼び出そうにも、呼び出せんし」
「ごもっとも」
まあ……寝てますからね。
「じゃあ、飛影。お願いしますね」
「…………」
味方の妖精が、悪の女王といわれし、黒き妖精に、守るべき姫の針刺しを頼む図……いいのか、これでいいのか!?
「いいんです」
……まあ、早くしないと、もう6ページ目ですからね。
「うおぉっ!!」
ザク
「いってーーっ!!!!」
「いけない! 起きる!」
「よし! 抑えろ!!」
ドッスンバッタンドッタンガッタン……ち〜ん。
……こうして、哀れなお姫様は、針で指を刺し、死んでしまいました。
「にしても……飛影、どうしたんだろ? やけに、勢い入れてたけど」
桑原くんを、ベッドに横たわらせながら(ベッドに入らない〜! と、大分乱暴に)、ぼたんさんが首をかしげます。
確かに、ただ針に指を刺すっていうより……むしろ、それだけでショック死しそうなくらいの勢いでしたね。
しかし、蔵馬さんは首を振り、
「ほら、王子役は誰ですか?」
「あ、ああ……そういうことね」
そりゃあ、彼にしてみれば、面白くないことだらけでしょうね〜。
「で、これからどうするの? 姫が眠っちゃった後」
「飛影たちはいったん、帰ることに……ああ、もういない」
次の予定がありますから。