<眠れる森の桑原くん 7>
「ねえ、蔵馬。次の予定って、黒い妖精、まだなんかすんの?」
「原作ではないけど、映画では此処からが本領発揮だから。それより、俺たちの仕事に移りますよ」
「仕事? 何すんだ?」
「簡単にいえば、陽が沈んでも、姫が帰らないことに違和感を覚えさせないために……城中の人を眠りにつかせるんです。コレで」
ちょいちょいっと、ステッキを突きながら言う蔵馬さん。
「え〜、まさかとは思うけど、城中飛び回ってかい?」
「至近距離じゃねえと、使えねえんだろ? コレ」
「そういうことです。頑張りましょう」
「か〜!! 一体どれくらいの広さがあると思ってんだ、この城!!」
「人数だって、半端じゃないんだよ、それを3人でーっ!?」
「弱音を吐いてる暇があったら、さっさとやった方がいいですよ。後々面倒だから」
きびすを返す蔵馬さんに、2人はしぶしぶついてゆきます。
と、その足取りが止まりました。
「なあ、蔵馬……」
「何ですか?」
「そのさ……さっき桑原を眠らせるヤツ……コレじゃ駄目だったのか?」
そうすれば、囮なんていらなかったのでは……と、おそるおそる訊ねます。
至近距離といえども、天井裏からなら届いたのでは、と。
しかし、蔵馬さんは何処か遠い目をして、
「……そんなこと、最初に思いつきましたよ」
「へ? そうなのかい?」
「というより、ずっとやっていましたよ」
「……効かなかったのか?」
「全然」
「…………。さて、行くか」
「行くとしましょう」
「さっさとね!!」
こうして、妖精たちは城中を飛び回り。
城中の人々を眠りにつかせ……その中で、とんでもない事実を知るのです。
「へ〜、本来なら、妖精たちは此処で気づくんだ。お姫様が森で会った人が、王子様だったって」
まあ、そういうことですね。
そして、大慌てで森の奥の小屋に戻ってみると。
そこにあったのは、一つの帽子でした。
「……考えてみれば、それだけから、誘拐まで思いつく辺り、この妖精たち冴えてるよね〜」
「まあ、帽子かけにでも架かっていれば、忘れていったと思わないでもないですが。床に落ちていましたからね」
「それにしたって、誘われたのに、留守だからって、腹いせに…とか思わねえか? 部屋だって、散々荒れてっしよ」
「妖精も乙女ってことでしょう。さあ、さっさと王子様迎えに行きますよ」
「そうだね。まあ、攫ったのが飛影なら、相手は雪菜ちゃんだし、問題ないと思うけど」
「……なさすぎで、逆に不安だぜ」
「…………」
「…………」
「…………」
ここへきて、今更ではありますが。
何となく、物語がまともに終わらないことを、彼らは予測……いえ、確信したのでした。
「なあ、蔵馬」
「何ですか?」
「俺等も、帰らねえ?」
「そうしたいのは、山々なんですけどね」
「やっぱり……駄目かい?」
「駄目でしょうね……いちおう、黒い妖精の居城まではいかないと」
「はあ……」
がっくりと肩を落としつつ。
3人は重い足取りのまま、黒い妖精の城である禁断の森へ、レッツゴーなのでした……。
そして、予感は的中。
「な、なあ蔵馬っ!!」
「はい!? 何か言った、幽助!?」
「こ、こいつらをやり合うのって、王子の仕事じゃなかったのか!? さっき、行きがけに言ってたよな!? 文章にはないけど!!」
「言いましたよ!! でも、あくまで映画です!! 原作にないことが起こりえるから、二次創作は怖いんですよ!!」
「そ、それにしたって……っつ、きゃー!!!」
「!? ぼたん!?」
「きゃーまた出たーっ!!」
……禁断の森の、黒い城にて。
本来、映画の通りならば、こそこそ〜っとしていれば、容易に入れたはずの、其処が。
何故か、厳重に警備がなされ、それだけでなく、防犯グッズが駆使された、最新鋭の防御網が張り巡らされ。
うっかり足を踏み込んだ幽助くんは、あっさり囲まれ、ほおってもおけないと、蔵馬さんも加勢。
どうしようかと思っていたぼたんさんでしたが、背後から別の部隊がやってきたので、結局参戦。
魔法のステッキがあるので、そこそこ反撃出来ていますが、何せ数が多いのです。
それも、映画ならば強行突破で逃げることが大前提。
でも、今から入ろうというのですから、それも出来ません。
まあ……映画の数百倍の兵士に襲われておりますから、逃げることもままなりませんが。
「やろう!! どうあっても、城に入れねえ気だな、飛影!!」
「まあ……当然でしょうね。俺たちに入られたら、雪菜ちゃんが桑原くんを目覚めさせることになるんですから」
「……そんなに気にくわない方法なのかい? 雪菜ちゃんのことだから、ビンタとかじゃないだろうけど」
「…………」
「え? どんなのどんなの?」
……聞かない方がいいと思うのですが。
「え〜! そこまで言われたら、聞きたいじゃない!! ねえ、蔵馬!」
「…………」
しぶしぶ……本当に、しぶしぶ教えてあげます、蔵馬さん。
「え、ええええええええーーーー!!!!???」
パタ
「うわ! ぼたん、こんな時に気絶すんじゃねえ!!(滝汗)」
「無理ないと思いますよ」
「どんな内容か知らねえが、こんな時に言うんじゃねえよー!!」
「せがまれたので」
「時と場合考えろっ!!!」
「幽助。それこそ、吠えてる場合じゃないよ。前」
「前? ……おわっ!! あっぶねー! 煮えたぎった油なんざ、反則だろ!」
「向こうからは、巨岩の嵐が。あちらからは、弓兵の軍勢が」
「あー!! 桟橋上げられる!! 急げ、蔵馬!! 入れなくなるぞー!!」
「……出れなくなりそうですけどね」
がっしゃーん
……その後、3人の妖精の姿を見た人はおらず。
昔々のとある国は、お姫様が16歳になったその日、突如人々が眠りにつき、永遠に目覚めることはなかったのでした……。
おしまい
「あの〜、飛影さん」
「何だ」
「その、台本を無くしたので、はっきりしたことは分からないんですけど……王子役って、此処で黒い妖精さんに、もてなされて終わるんですか?」
「……ああ。時期に終わる。それまで、此処にいろ」
(いいのか!? これでいいのか!? 雪菜の台本隠してまで、物語を変えまくっていいのか!? だが、わしには真実を雪菜に伝える勇気は皆無だ! そんなことしたら、石にされるどころか、木っ端微塵に粉砕されても、おかしくは……いや、それでもまだマシだというくらいの、恐ろしき惨状がっ!!)
「コエンマさん、どうかされたんですか?」
「いや……茶菓子、いるか?」
「はい。ありがとうございます」
上記3人以外の約3名「「「こんな終わり方ありかーっ!!!!!」」」
「はあ……疲れた……」
終
〜作者の戯れ言〜
本当は、まともに兄妹対決とかも考えたんですが……飛影くんの性格からして、無理かな〜と。
でも、最終的にキスさせないというのは、最初っから決めておりましたが(笑)
この話は最初、連載日記にUPしておりましたが、途中で行き詰まって。
その後、こちらで一気に書き上げました。
ノっていないと、書けないって、面倒なタチゆえなのですが……。