<眠れる森の桑原くん 4>

 

 

 

「ぼたん……てめえ、何言ってるのか、自分で分かってんのか……?」
「分かってるさね。あたいは真面目に言ってるよ」

「それが……本当に正しいと思ってんのか!?」
「あんたこそ、自分の意見が正しいと断言出来るわけ!?」

「当たり前だろ! 思ってもねえこと口に出来るかっ!!」
「心意気としては正しいけど、言ってることは滅茶苦茶だよ!!」

「目ぇ醒ませ、ぼたん! てめえは自分の口から出てきてやがる言葉を理解してねえ!!」
「まっ、失礼だねっ!! ちゃんと理解してるよ! 日本語しか喋ってないからね!!」

「正気に戻れ!!」
「正気だよ!! 幽助の方こそ、まともに考えれば!?」

「まともに考えてらあ!! てめえの意見に比べりゃあ、220倍まともだっ!!」
「そこまで言うことないだろ!!」

 

「…………」

 

 

 どこぞで書いたような出だしで、二重投稿では…と思われた御方も多いと思われます。
 が、いちおうこれでも合っています。
 少なくとも二重ではありません。

 

「……口喧嘩が苦手な管理人ならでは、だね。ろくな言葉が思いつかないなんて」

 昔から苦手なんですよ。
 口で勝ったこと、一度もありませんから。

 

 

 まあ、それはそうと。
 幽助くんとぼたんさん、何を喧嘩しているのかというと、結局前と同じ内容なのですが。

 ちょっとばかり、違うところもありました。
 それは……。

 

 

 

「ええい、ピンクだっての!!」

 ピカ

「少なくともこれくらいの色で我慢しろ!!」

 ピカ

「そんな地味ったらしい色のドレス、信じらんない!!」

 ピカ

「着るのは桑原だぞ!? その色着せる気かっ!!」

 ピカ

 

「……部屋中、すごい色になってきたな」

 ようするに、さっきはただの口喧嘩。
 今回は魔法のステッキを手にしてしまったがために、台詞一つ吐くごとに、己の思う様にドレスを変えてしまっているのです。
 主に問題になっているのは色ですが、形も結構変わっています。

 

 

「もっとフリルつけたっていいでしょー!!」

 ピカ

「んな気持ちのわりーもん、つけんじゃねえー!!」

 ピカ

「あー、酷い! せっかく付けたレース消したねー!」

 ピカ

「っていうかそもそも、その花飾りどうにかしろー!!」

 ピカ

 

 ……って具合です。

 蔵馬さんは完全に傍観モードで、一人ほそぼそとケーキ作ってました。
 頭上や足元を飛び交う魔法は見事に避けつつ、ケーキを飾る色味を調達しております。
 ついでにぼたんさんが放りだした掃除もやってくれてました。

 

「……喧嘩が原作以上にハードだから。まあ、おかげでストーリー通りにはなりそうだけど」

 そう言いつつ、蔵馬さんが見やったのは、ぼたんさんが塞がなくていいかと聞いた、あの暖炉でした。
 彼の視線の先で、飛び交う二人の魔法が乱反射を起こし、その一部が暖炉へと吸い込まれてゆきます。

 

 屈折しながら、どんどん煙突から上へ上へ。

 いくら他の出入り口を塞いでも、これだけの量が溢れ出していては、元も子もないでしょう。
 ってか、原作の比ではありません。

 故に、黒い妖精の命を受け、森へ飛んできたコエンマ様ですが……。

 

 

 

「んぎゃあああああっ!!」

 煙突に近寄った途端、軽くお尻を焼かれる程度ですむはずが、全身真っ黒です。

 カラスだからとかそういう問題じゃありません。
 白鳥でも一瞬で黒こげに、七面鳥ならすぐに食卓に登れそうな勢いです。

 しかし、悲しいかな。

 その悲鳴らしすぎる悲鳴は、絶叫であったにもかかわらず、凄まじい口喧嘩の金切り声には及ばず。
 ぼてんっと屋根にバウンドして、庭の水車に絡まって、グルグル回り続けてもなお、全く気づいてもらえなかったのでした……(合掌)

 

 

 

 

 ……そうこうしている間に、

「……あ。ぼたん、幽助」
「ゼイゼイ……どうかした〜、蔵馬」
「ハアハア……何か、言ったか…?」

「声、しませんか?」

 言いながら、蔵馬さんかなり怪訝な顔。
 台本めくりながら(何処にあった…とか、つっこんではいけないのです)、首をかしげておられます。

 きょとんっとしつつ、幽助くんとぼたんさんも、ちょっと黙りました。

 

 その耳に……確かに、声が聞こえてきたのです。

 声っていうか、歌です。
 鼻歌でしょうか。
 かなり、ノってます。

 しかし、この声色は……。

 

 

「桑ちゃん……だよね?」
「みてえだな」
「間違いなく、千葉繁氏の声のようだけど」
「それ言うな。微妙に虚しい……つーかさ、何であいつ、こんなに機嫌がいいんだ?」

「「…………」」

 今朝、あれだけ派手に蹴り出されたのです。
 映画とは違い、当たり前のように、機嫌悪く帰ってくるかと思っていただけに、ちょっと意外でした。

 

「……なあ、蔵馬」
「何? 幽助」
「俺らがコレやってる間……桑原は何してる予定だったんだ?」

 言われて、蔵馬さんは読んでいなかった自分の登場しないシーンのページをめくります。

 

「えっと……後で桑原くんを助けに来る王子と会うことになってるけど」
「え〜、桑ちゃんいつから、男が趣味になったんだろ」
「やめろ。考えただけで、吐き気がする……」

「……吐き気程度ですむなら、幽助は幸せものだよ……」

 蔵馬さん……何だか、絶対零度のオーラが出ていますよ。

 

「あ、そっか。蔵馬、原作でもアニメでも、桑ちゃんの彼女に間違われたっけ……(滝汗)」
「やば……な、なあ蔵馬!! 他に何か機嫌よくなるようなことなかったのか!?」
「…………」

 苛々しつつも、蔵馬さん、確認。
 つーか、幽助くん、自分の台本は?

「……無くしたんだよ!」

 さいでっか。

 

 

「……やっぱり、他には特に。王子と出会うこと以外では、いちご摘みをしてただけだ」
「そんなの昨日も行かせたから、機嫌よくなるわけもないか〜」
「というより、映画と違って、幽助に蹴り出してもらったんだから、摘んでくる可能性もないですよ」
「そりゃそうだ」

「じゃあ、桑ちゃん一体何があったんだろ? ひょっとして、打ち所が悪くって、頭がおかしくなったかな?」
「普段から、おかしいだろ。頭ぶつけた程度で、変わるような脳味噌かよ」
「そりゃそうだけど……ねえ、蔵馬どう思う? 蔵馬?」

 ふと、蔵馬さんが固まっていることに気づいたぼたんさんです。

 

「何? 何か分かった?」
「……ああ」

 パタンと台本を畳んで、蔵馬さん肩を落とします。

「少なくとも、機嫌がいい理由はね」
「え、本当!?」

「更に、俺たちの命の危機もね……(遠い目)」

「は?」
「へ?」

 命の危機……そんな、常に彼らに寄り添っていそうで、実はかなり縁遠そうなモノ。
 こんなギャグで起こりえるのでしょうか?

 

「あるから、怖い……」

「お、おい? 蔵馬?」
「一体何があったんだい〜??」