<眠れる森の桑原くん 3>

 

 

 

「ぼたん……てめえ、何言ってるのか、自分で分かってんのか……?」
「分かってるさね。あたいは真面目に言ってるよ」

「それが……本当に正しいと思ってんのか!?」
「あんたこそ、自分の意見が正しいと断言出来るわけ!?」

「当たり前だろ! 思ってもねえこと口に出来るかっ!!」
「心意気としては正しいけど、言ってることは滅茶苦茶だよ!!」

 

「目ぇ醒ませ、ぼたん! てめえは自分の口から出てきてやがる言葉を理解してねえ!!」
「まっ、失礼だねっ!! ちゃんと理解してるよ! 日本語しか喋ってないからね!!」

「正気に戻れ!!」
「正気だよ!! 幽助の方こそ、まともに考えれば!?」

「まともに考えてらあ!! てめえの意見に比べりゃあ、120倍まともだっ!!」
「そこまで言うことないだろ!!」

 

「…………」

 

 

 森の奥。
 誰も足を踏み入れない静かな木立の下……のはずが。

 この16年の間。
 果たして、静かな日々はあったでしょうか?

 いいやありません。
 朝一番から陽が沈んでもまだ、常に騒々しさで包まれていたことは言うまでもないのですけれど。

 

 それ以上に爆音轟音、破壊音。
 とにかく、16年間、森が無事であったことが奇跡とさえ思える所行の連続。

 無論、森が生き残れたのは、壊れる度に蔵馬さんが徹夜して直して回ったからに他なりません。

 

 

「……今までで一番長い16年間だった……」

 遠い目をしつつ、ぼんやりとしている蔵馬さん。
 しかしそれは、この疲れまくった16年間を無駄に振り返っているだけではありません。

 所謂、現実逃避です。

 もちろん彼のことだから、無意味に逃避しているわけではありません。
 他にすることがないから、逃避しているわけで……まあ、実際の映画の通りにするなら、やること山ほどあるのだけれど。

 

「材料勿体ないよ。どうせ崩れ落ちるのに」

 最もです。

 

 

 

 ……そんな蔵馬さんの背後で、先ほどからギャースカギャースカと怒鳴り合っているのは、言うまでもなく、幽助くんとぼたんさん。
 何を怒鳴っているのかといえば、意見交換という名のただの喧嘩に過ぎないのですが。
 どちらの意見に同調するのも面倒なので、蔵馬さんは黙って静観……も飽きて、今は窓から空を眺めているのでありました。

 でもいい加減にそろそろ止めないと、桑原くん帰ってきちゃいますよ?

 

「……はあ…悪役担当でも、飛影が羨ましい。疲れずにすむんだから」

 いや、彼は彼で疲れてますよ。
 雑魚キャラAとかBとかCがかなり役立たずですから。

「それでもいいよ……これからの惨状をしばらく見ずにすむと思えば」

 まあ、確かに。
 実際その惨状が見たくないために、現実逃避していたところもなきにしもあらずですもんね。

 

「否定はしないよ。むしろ肯定する」

 さいですか。
 それはそうと、そろそろ止めて下さいな。

 

 

 

「……幽助、ぼたん。そろそろ本題に戻らないと、時間ないよ」

「ええーっ! だって、幽助が!!」
「蔵馬!! おめえだって、ぼたんの意見が変だって思うだろ!?」
「…………」

「「どうなんだ(だい)っ!!?」」
「……どっちに賛成しようが、惨状は免れないと思う。以上」

 実に分かりやすく、かつ正しい答えでした、蔵馬さん。

 

 

「そんな〜! だって、せっかくの『お姫様』なんだよ!? ピンクのドレスに決まってるじゃないかっ!!」
「着るのは、桑原なんだぞ!? ピンクなんか着せたら、それこそ目の毒じゃすまされねえだろ!! メドゥーサのヘビ光線並じゃねえか!!」

「んなの、どんな色着せたって一緒じゃないか!! だったら、せめてドレスだけでも良い色にしたいじゃない!!」
「似合う似合わねえにも限度があらあ!!」

 という実に無駄な意見交換を始めて、はや数時間。
 まだ終わりそうにもありませんね……。

 

 

「……もう少し、逃避してようかな」

 再び空を見上げます蔵馬さん。
 そりゃまあ……逃避したくなるのも、分からないでもないですが。

 

「現実的にはこの場所に糸車持ってきたい心境ですよ」

 さりげに酷いこと言いますが、それもこれも16年間のお疲れのせいだと思うと、やはり同情するは、蔵馬さんの方かも。
 ……そう思う管理人が、一番酷い人だということは、誰にも言われずとも分かっております、ハイ。

 

 

 

 ま、それはそうと、もう数分で桑原くん帰ってきますし。
 そろそろ始めて下さいな。

 

「……幽助、ぼたん」

 溜息混じりに、蔵馬さんは2人に向かって何か投げました。
 別に投げつけたわけではなく、投げ渡しただけです。

 そこら辺からも、彼がどれだけ疲れているかが見て取れます(ご愁傷様)

 

「とっととやろう。色は後から変えられる」
「……そうだね」
「先に作っちまうか」

 はあ〜っと深く肩を落とし、のろのろ動きますお三方。

 

 

 

 まずは家中の窓やドアを全て閉めます。
 これは今からやることを、外に見られないためです。

 オンボロの木樵の空き家を改造しただけなので、そこら中隙間だらけです。
 そうでなくても、16年間、毎日のように……というか、本当に毎日、365日×16年間+閏年が4日、計5844日全て喧嘩の嵐で御座いました。

 本格的に倒壊しなかったのは、蔵馬さんの努力の賜物&九死に一生の奇跡&物語のご都合主義によるものでありましょう。

 それでも、穴だらけなのは否めないので。
 仕方ないので、布きれとか詰めて、穴を塞ぎます。

 にしたって、こんな家でよく16年も住んでいられましたね……。

 

 

「でも、大改○劇的ビフォー●フターシーズン2とか見てるとさ。何でこんな家で何十年も暮らしてきたんだろうって人たち、いっぱいいるさね」
「確かに……多少の不便と言う家もなくもないけど」
「ほとんどが住むだけでやっと…って感じだな、あれは」

 実際使い勝手なら、我が家も負けてませんが。
 そこそこの広さがあるはずなのに、間取りが悪くて、使い勝手は無茶苦茶悪いです。

 

 8畳+床の間付の広々した和室があるのに、お座敷だっていう理由で、ほとんど何にも使われていません。
 和風家屋にありがちなことですが、無駄に出入り口が多いため、家具がほとんど置けません(4方向全て、障子の部屋もあります)。
 板張りの部屋が2つしかないため(後全部、畳)、重い家具なんかもほとんど置けません。
 壁がほとんど漆喰のため、ポスターなんかも貼れませんし、画鋲だって留められません。

 ……自分の家ですから、好きか嫌いかと聞かれれば、好いておりますが。
 でも、やっぱり多少の不便さは感じずにはいられないんですよね。

 

 

 

「ああ、ぼたん。暖炉はそのままでいいよ」
「え? いいのかい? まあ、上の方、通気口だけで後は塞がってるから、誰も入れないだろうけど」

「いや、完全に塞いだら駄目なんだ。話が進まない」
「? そうなのかい?」

 ま、そうなんですが。

 

 

「んじゃあ、さっさと始めっか」

 蔵馬さんから渡されたステッキを振り回します、幽助くん。
 途端、みるみるうちに床に散らばっていた布が集まり、ハサミでカットされ、糸で縫い合わされてゆきます。

 魔法って素晴らしい!
 って、此処まで万能であるが故に、この16年使えず苦労してきたわけですが。

 

 

「るせー! ほっとけ!」
「あ〜あ。ドレス、あたいがやりたかったのにな〜」
「……誰がやっても同じだからいいじゃないか」

 言いながら、ぼたんさん床掃除。
 ホウキやらモップやらが、1人でに動いております。
 正直、あの魔法、一番欲しいです、ハイ。

 

「管理人、掃除嫌いだもんな」
「家事の中で何よりも、ね」

 だって、掃除ってそんな極端に見た目が変わらないから、達成感ないじゃないですか!
 料理とか洗濯とか洗い物とかは、終わったーっ! って感じがするけど、掃除はしないから嫌いないんですよ!

 

「……同じ理由で母親と妹も嫌いだから、掃除が進まないんだっけ、管理人宅」
「あ? 管理人ん家、もう2人いたろ?」
「父親と姉は、家事全般全てが面倒くさいそうですよ」

 べ、別に極端に汚いわけじゃないですからね!?
 足の踏み場くらいありますからね!!

 

「「「自慢にならん」」」

 

 

 

 

 ……で、先ほどから毒舌満載の蔵馬さんが何をしていらっしゃるのかと言いますと。

「卵、小麦粉、牛乳……はい、レシピ通りにね」

 ケーキ作り担当でございました。
 誕生日といえば、プレゼントと並び、必要とされる品でありましょう。

 ちなみに管理人宅では、未だに子供ら(といっても全員成人してますが)のバースデイには、ケーキ囲んでいたりします。
 といっても、作ったことはほとんどなく、近所のケーキ屋で買ってきたものですが。

 まあ、あんまりお菓子作りとか得意じゃないんですよね、家族揃って。
 妹はそこそこ上手いですが、その代わり一日潰れますし。

 

 「管理人が作ったら、えらいことになるもんね〜」

 ……少なくとも、原作映画の魔法使わなかったバージョンよりは、マシですよ。

「あれ以上って、想像出来ないけど」
「というより無理じゃねえの。オーブンで焼く前にロウソクたてて、火を付けるなんざ、異常だろ」

「いや、『卵を入れる』という言葉で、割らずにそのまま入れているところから、失格だ」
「ううん。最初の『粉をコップに3倍』で、大きさの違うコップに3回入れた時点で、もうまともな完成にはならないよ……」

「……よく16年間、魔法なしで生きてこられたな、あの妖精共」

 下手すりゃ、お姫様、黒い妖精に何かされる前に、死んでたんじゃ…と幼心に思った覚えがあります。

 

 

 

「っていうか、管理人、よく覚えてるね。原作のビデオ見たの、もう随分前なんでしょ?」
「そこのシーンだけ、何度も何度も見たから、何年も経った今でも結構覚えているらしいよ」
「そこって……ヒロイン全く登場しないのにかい?」

「いや、これに限ったことでもないよ」
「? どういうこと?」

「管理人、ディズニーのアニメ映画は一部を除いて、サブキャラのシーンばかり見てきたようだからね。『シンデレラ』然り『白雪姫』然り……とにかく、主役たちよりも脇役のコメディの方が楽しいらしい」

 実際、主役の顔はかなりぼんやりとしか覚えていないのに、脇キャラは声まで覚えていたりしますから(笑)

 

 

「クライマックスで気に入っているのといったら、『きつねと猟犬』くらいらしいから」
「流石、根っからの狐好き……」

「そのうち家で狐飼い出したりするんじゃねえの?」

 いえ、それはないです。
 さっちゃん(猫)いますから。

 

「「「親バカ…っていうか、飼い主バカ」」」