<眠れる森の桑原くん 2>

 

 

 

 ま、それはそうと、呪詛はいちおう軽減されましたが。
 やはり完全に解けないとなると、王様と王妃様は心配で仕方ないご様子。

 その日中に、国中の糸車集めて、燃やしてしまいました。

 一体どうやったら、その日中に全部集められるのか。
 今にして思えば、かなり謎ですけれども。

 

 

「……本当に莫迦なことしますね」

 王宮の片隅。
 お開きとなった宴の後で、物悲しい空気漂うそこに、彼らはいました。

 3人の妖精さんたち。
 中庭で燃えている糸車を眺めつつ、溜息ついておられます。

 

 

「あれで生計たててる人たちのこと、考えたのかねえ」
「上に立つ連中は、庶民の気持ちを考えない。よくある話ですよ」
「反乱起こされないかねえ」

「これくらいでは無理でしょうね。糸車で生計たてる人たちだけでは、近衛兵に一瞬で制圧されますよ。早々、処刑台には上りたくないでしょう」
「やっぱり、ベルばらの革命レベルには程遠いか」
「程度が違いすぎるからね」

 暢気にお茶など飲みつつ(実際の映画でも飲んでました)、交わされる会話は結構キツいです。

 

 

 

「で、どうすんの?」
「何を?」
「これからさ〜。いちおう呪いで死ぬことはなくなったって言っても、呪われてることに代わりはないわけだろ? 何かいい方法ないのかい?」

 この台詞、ほぼ蔵馬さんに向かっています。
 幽助くん、無視です。

 

「おいこら…」
「だって、戦いのことならともかく、こういうことって幽助向いてないじゃんか」
「そりゃそうだけどよ」
「で、どうなんだい、蔵馬?」

 問われて、蔵馬さんも考えます。
 そもそもの原作では、この時点で妖精さんたちはしばらくお役ご免らしいのですが。
 映画ではかなり違っているので。

 

 

「そうだね……『お姫様』を別のものに変えるとか?」
「別のもの……って、例えばなんだい?」

「映画では、花に変えてみようかと言って、他の妖精に『枯らすんじゃないか』と言われて、却下されるんだけどね」
「……意味ないじゃん」

 全くです。

 そもそも他の生き物に変えても、『指』がある以上は意味がありませんし、指がない生き物……例えば、魚に変えても水抜かれたら終わりですし、ヘビに変えても大型の鷲でも持ってこられたら終わりです。
 生き物でなければ、尚更逃げようもありませんから、花でもツボでも樹木でも家でもカツラでも同じことです。

 

「ヅラって……(汗)」
「『姫』が桑原でねえと言えねえ台詞だな」
「桑原くんであっても、そこそこ酷いと思うけど」
「これが蔵馬だったら、明日の太陽が拝めないかもね」

 いや、だから例えばの話ですよ!

 

 

 

「……それで? 最終的にはどういう結論に落ちつくことになるんだい?」

 疲れ気味のぼたんさん。
 ぐったりしつつ問いかけた先で、蔵馬さんは少し困ったように薄笑いを浮かべました。

 

「蔵馬。その顔って……相当嫌な手でも使うわけ?」
「いや、極端に嫌な手というわけではないけど……卑怯でもないし、卑猥でもないし……」

 蔵馬さん、言うのを少々躊躇っておられるご様子。
 確かにバリバリ嫌悪溢れる表情ではありませんが、少なくとも好意的なお顔ではありません。

 困ったその様子に、幽助くんもいや〜な予感がしてきました。
 ってか、普通、誰だってします。

 

 

「なあ……それって、『蔵馬が』嫌なことなのか? それとも……」
「……まあ、俺個人だけの問題じゃないと思いますが」
「つまり、あたいら3人にかかってくるワケ?」

 まあ、必然的にそうなりますわな。
 さっきから3人の妖精とひとくくりにされてますから。

 

「でもさ。それ聞かないと…っていうか、話進めないと終わらないよね?」
「足を踏み出さずに、前進することは出来ませんから」
「……いっそ、Uターンして第一歩からやり直してえ気分だけどな」

 嫌な予感倍増週間の模様。
 でも進んで貰いますよ、何が何でも!

 

 

 

「はあ……仕方ないさね。蔵馬。言っちゃってよ」
「そうですね……実は、黒い妖精は何でも知っている千里眼の持ち主だけれど、一つだけ知らないものがあるんですよ」
「知らないもの? 何だ?」

「親切とか、思いやりとか……ようするに、人の正の感情ですね。知らないというよりは、理解出来ないと言うべきかもしれないけれど。そこを付けばいいという結論に達するわけです」

「はあ……つまり、どういうことった?? ん? ぼたん、どうした?」

 さっぱり分からない、という幽助くんに比べ、ぼたんさんは分かってしまったらしく、がっくりと肩を落としておられます。

 

 

「おい?」
「幽助……あんた分かんないのかい? あんた結構、人の感情に聡いところあるじゃん。ド鈍いところもあるけど」
「なんだとぉ!」

 ゴン

「いたーい! 殴ることないじゃないのさ!」

 ……そういえば、ぼたんさんって女の子の中では、ぽかぽか殴られてたキャラですね。
 幽助くん、老若男女区別しないとか言っておきながら、螢子ちゃんも雪菜ちゃんも静流さんも殴れないから。

「って、あたいしか残らないじゃんか!!」

 ま、そうですけど。

 

 

「そんで? 何なんだよ、蔵馬」
「……親切とか思いやりが発展すると、ようするに『無償の行動』になるんですよ。つまり、利益が得られないのに、行動を起こすことが、黒い妖精には理解出来ないんです。まあ、当然かな。人間は何らかの見返りが欲しくて、行動するわけだから」

 金銭的なものにせよ、精神的なものにせよ、ってところですかね。
 小さいところでいけば、「ありがとう」って言われたいとか、そういうのも、ある種見返りに相当しますし。

「まあ、悪いことじゃあないけどね」
「ね〜。嬉しい気分になりたいっていうのは、いいことだから!」
「……だから、何なんだよ」

「この場合、国の人間は誰であっても、お姫様のための行動は、利益ゼロとはならないでしょう? 最高権力者の子供、それもいずれは自分が仕える子供なんだから、行動はイコール恩義に辺り、将来の期待に繋がります」
「……で?」

 あんまり分かってないでしょ、幽助くん。

 

 

「るせー!! おい、蔵馬!! 難しいこと言ってねえで、結論言え! 結論!!」

「国民でない者……つまり、俺たちが行動を起こすんですよ。簡単に言えば、16歳の誕生日を過ぎるまで、俺たちで保護するんです」

「……はああああぁあぁぁ!!!?」

 って、本当に分かってなかったんですか、幽助くん……。

 

 

 でもようするに、そういうことですよ。

 自国の民でもなく、それも生誕パーティに招待されはしたものの、曲がりなりにも妖精。
 人間のことで、己に利益がないのに動くなんて、黒い妖精には思いつかないのです。

 そんな妖精たちが、16年間。
 それも黒い妖精にバレぬように、魔法を使わずにいるなんて、想像も出来ないことでしょう。

 

 

 

「っておい!! 魔法禁止なのか!? 台本に色々出来るって書いてあんのに、それ全部なしか!?」
「なしです(きっぱり)」

「16年も!? しかも桑原の面倒見るために!? 冗談じゃねえぜ!!」

 いや〜、原作では可愛い女の子のため…ですから。
 そうと思って、頑張って下さいな。

 

「思えるかーっ!!!(怒)」

 

 

 

 

 まあ、幽助くんの絶叫も衝撃も落胆も分からないでもないですが。
 話が進まないんで、がーっと行きたいと思います。

 でも、管理人も鬼ではありません。
 物の怪かもしれませんが、悪鬼ではありません(多分…少なくとも小悪魔≠フような可愛らしいもんじゃありません)

 

 ってなわけで、幽助くんが回復するまで、16年間、ばばっと時間を早送りいたします。
 DVDだったら、チャプターから指定とかそんなところでしょう。

 何せ16年です。
 管理人が人生…やり直しは到底できませんが(爆)

 

「もう年だもんね〜、管理人」

 ほっといて下さいっ!!
 いつまでも蔵馬さんよりは年下なんだから、いいんです!!

 

「……あくまで実年齢は、でしょ。見た目はいずれ追い越すよ」
「童顔だから、当分大丈夫でしょうけどね」

 ……その分、未だに高校生に間違われますけどね。

 ま、そんなこと今はどうだっていいですから!

 

 

 

 とにかく16年後に話を飛ばします。
 でも幽助くんのショックはまだ終わっていないようなので、別方向から始めることに致しましょう。

 場所も王城から変わって、禁断の森です。
 そう、黒い妖精の領地のある場所です。

 つまり、此処におられるのは……、

 

「……桑原のバカはまだ見つからんのか……」

 飛影くん、久々の登場ですが、苛々している模様。
 そりゃ設定上、16年間探し続けていたことになってますからね。

 にしても、眉間の皺がいつもの数倍になっているような??

 

 

「……王子役がこいつになっているなど、誰が思うか……(怒)」
「暇つぶしに、台本全部読んだらしいぞ」

 従者カラス役のコエンマ様も、少々お疲れ気味。
 でも流石、霊界の次期長だけあって肝っ玉が据わってます。

 飛影くんから溢れ出す苛々オーラを真っ向から浴びながら、多少疲れている程度ですんでいるのですから。

 

 

「まあ、次に動く役所(やくどころ)だからな。とりあえずこれから食らう攻撃を免除されていると思えば、まだマシだ」

「「「「「…………」」」」」

 コエンマ様の台詞に、びくっとなりますのは、飛影くんの目前に並ぶ、所謂雑魚キャラ様方。

 16年間、桑原くんを探し続けた苦労人さんたちですが。
 結局見つからず、明日が16歳の誕生日だというので、飛影くんに呼び出され、これからお説教という名の拷問を浴びるのです。

 

 見つからなかったからといって、拷問などとはあまりに酷かと思われるかも知れません。
 が、ある意味無理ないよな〜と子供心に思ったことは、今でも記憶に鮮明に焼き付いております。

 なぜならば、

 

「……16年間……ずっと…赤ん坊を捜していたと?」

 雑魚キャラ様方が頷くより先に、邪王炎殺黒龍波がぶっ飛びました。
 阿鼻叫喚の焦熱地獄です。

 コエンマ様、いちおう免除されているといっても、やっぱり怖かったようで。
 早々に脱却。
 ま、これからすること分かってるんだから、問題はありませんけれども。

 にしたって、人間がどういう風に年を取るのか、だ〜れも知らなかったんですかね??

 

「……知らなかったから、ああいう目にあっているんだろう」

 暗黒武術会にて、用意しておいた脱出用ロケットにて、禁断の森を後にしますコエンマ様。
 カラス設定なんだから、いらない気もしますが、ご都合主義ってことで。

 

 

「さて。行くか」

 本来ならば、黒い妖精自らがカラスに頼むことになるんですが。
 未だ、禁断の森は黒い妖精以上に真っ黒い龍が、上がったばかりのウナギがごとく暴れ回っておりますので。

「明日までに探さんとな。16歳になってるはずの桑原を」

 台本片手にコエンマ様。
 広い広い青空目指し、飛んで行かれるのでした……。

 

 

 

 

 

 でもってこちらは、コエンマが飛び立った翌日のさる森の中。

 場所は限定出来ません。
 とにかく、人が入り込まない森の奥ってな設定ですので。

 こんな寂しい……っていうより、それ以上に不便極まりない場所で、16年間。
 蔵馬さんたちは頑張りました。

 

 日頃当たり前に使っていた魔法も封じて16年。
 料理一つにも四苦八苦。
 ましてや子育てなんて、やったことありませんから、それ以上の苦労がありました。

 聞けば涙語れば涙な話ですが、とりあえず省略します。

 

 

「おい、こら管理人ー!!」

 あ、幽助くん無事復活しましたね。

 

「そりゃ16年も経ってっからな……」
「始めの4〜5年はふぬけだったけどね〜」

「るせー! てめえだって、家事なんざしたことねえって、滅茶苦茶やりまくったじゃねえか!」
「しょ、しょうがないだろ〜。料理も洗濯もやったことないんだから」

 ぼたんさんが、家事一般をやっているシーン、原作にもアニメにもなかったように思われますので……傷の手当てとかは別として。
 あ、OVAにはあったかな、夢だったけど。

 それはそうと、ちゃっちゃといきますよー。

 

 

 

「……で、今日で桑原、16なんだよな?」
「そうなりますね」
「ってことは、今日で俺たち解放されるんだな!?」

 ……無茶苦茶開放感に満たされた顔してますね。
 そんなに嫌なことあったんですか?

 

「あったも何も、あれは10年前の……」

 じゃ、先行きましょうか。

「おいこらてめえ!!」
「幽助……怒りはもっともだけど、さっさと終わらせよう。元の映画では後1時間足らずのはずだから」

 はっきり覚えてませんが、まあそんなもんですかね。

 

 

 

「でさ、蔵馬」
「はい何か?」
「今日が針で指さされる予定日だろう? これから、どうするんだい?」

「ひとまず、今夜王城へ戻ることになっているよ。16の誕生日までの約束だからね」
「……死ぬかもしれねえ当日に外出って、結構無謀じゃね?」

 実際そうは思いますが、深くつっこんではいけないところですよ、幽助くん。

 

 

「でもまだ昼前だよ? どうするの?」
「王城へ行くには、この16年間でしていた服装では、格好つかないからね。とりあえず着替えを用意する」

「着替えね……ってまさか今から作るのかい!?」
「そうなりますね」

「当日に作るのかい、ふつう!!?」

 実際そうは思いますが、そこもつっこんではいけないところですよ、ぼたんさん。

 

 

「とりあえず、桑原くんはまだ何も知らないことになっているから、出ておいてもらわないと……幽助、宜しく」
「……ったくよ」

 溜息つきつつ、幽助くん、二階へ。
 そして、

「くらいやがれーーーーっ!!!」

 寝坊して安眠喰っていた桑原くんことお姫様へ、大きく振りかぶった左足の蹴りを一撃。
 窓をぶち破りながら、桑原くんは森の方へ。

 ……これで、黒い妖精の目的は普通ならば達成されるはずですが。

 

「達成されたら物語進まないからね。まあ、アノ程度なら桑原くんは問題ないでしょう」
「だね。んじゃ、始めようか」