<子守りは大変> 11

 

 

「おい…もう、負けたのかよ……」
「うるへ〜」

桑原が霊剣を振り回しながら、ウルフへ向かっていったわずか2秒後…正確には1.867秒後。
勝敗は実に迅速かつ明確に、そして何よりあっけなくついてしまったのだった。
幽助の足下に、仰向けにひっくりかえった桑原が転がっていることが何よりの証拠…。

メドゥーサや螢子たちには速すぎたため、何があったか全く見えなかったが、幽助や飛影にはよく見えていた。
ウルフは向かってきた桑原の霊剣をかがむことで避け、軽く桑原の足をはじいて倒し、バランスの崩れたところで、顔面に研ぎ澄まされた爪の鋭い一撃を……というのは気が引けたのか、しっかりと拳を握りしめて、胴体に10発ほど入れた。
が、それでも桑原には大ダメージになっており、6発目ほどで霊剣は消滅し、10発目には吹っ飛んでしまったのである。

といっても、桑原は浦飯チームの中で、一番『速さ』のない男。
ウルフの超人的なスピードについてこられるわけがなく、攻撃を受けた本人であるにも関わらず、気がついたら幽助の足下で伸びていた…という状況だったのだ。
腹の痛みが襲ってきたのも、負けたと分かったのも、幽助が呆れて一言言った後である。

 

「大見得きったくせに、あっさり負けやがって」
「やかましい! 次は勝つ!!」
「じゃあまず立てよ」

ため息をつきながら言う幽助。
明らかに「無理だろうけど」と後につきそうな言い方に、カチンときた桑原。
獣の遠吠えのような巨声を張り上げながら、一気に立ち上がったのだが……。

バキッメキッグギッ…

腰やら手足の関節やらが嫌な音を立てた。
といっても、折れたわけではない。
骨というよりはむしろ痛めて突っ張っている筋肉に無理を強いたような感じで、決して重症ではないがそれなのに動けなさそうという、一般的には心配するところだが、幽助にしてみればアホらしい状態にあった。

 

「いでで…」
「年寄りくせえぞ、おめえ…」
「うるせー! とにかくあいつは俺が倒すんだー!」
「それで出来るわけねえだろ……おい、飛影。俺行っていいか?」
「……好きにしろ」

螢子たちより後ろで、蔵馬に目隠しをしながら抱えている飛影に呼びかける幽助。
飛影も戦ってみたいところだろうが、しかしこの状況下で蔵馬の目隠しを外すのは非常にマズイ。
何せ桑原がひっくり返った状態とはいえ、こちらへ頭を向けているのだから…。
注意しながら女性たちに手渡す方法もあるが、いつ何時間違いがあるか分からない。
ここで暴走されては敵の思うツボ…とはちょっと違うが、とにかくやばくなるのは必至なのだから。

 

 

 

「んじゃ、次は俺が相手だ!」

背負っていたコエンマを床へ置き、ぱきぱきと指を鳴らしながら、桑原の上を跨いで、前に立つ幽助。
しかし、ウルフは全く攻撃の体勢をとっていない。
それどころかこちらを見てもおらず、大きなボウルのようなものを前に座り込んでいた。
側に立っているメドゥーサが怪訝そうに見ているのも全く気にせず、腰に下げていた袋から色々取り出し、次々ボウルにほおりこんでいく。

「おい、てめえ! 俺が相手だって言ってんだろ!! …っと」

突然、幽助の方へウルフが何かをほおり投げた。
慌てて空中で受け取る幽助。
取った瞬間、爆弾か何かかと思ったが、しかし違った。
ウルフが投げたもの……それは一つの小さな丸薬。
どうやらボウルの中から取りだしたらしいが……。

「何だ、これ?」
「薬だ。そいつの口の中へ押し込め。すぐ元に戻る」
「へ?」

ぽかんっとしてウルフの顔を見つめる幽助。
その後ろで螢子たちや飛影、それにひっくり返っている桑原もまた、唖然として彼の顔を見た。

 

桑原が彼に勝ったのならば、分かる。
素直にくれるかどうかは別として、相手が自分より強ければ、自然と従わざるを得ないだろう。
あるいは自滅かどちらかである。

しかし、桑原は負けたのだ。
それも物の見事に、ウルフには一撃も与えられず……。
彼には圧勝と呼ぶに相応しく、桑原にしてみれば完敗の言葉に尽きるモノだった。
こんな時、勝った者が相手に利益を与えるとすれば、何かしら考えがあるに決まっているのだが……。

だが、ウルフは特に裏があるようにも見えない。
さっきからほとんど無表情だから、ポーカーフェイスが得意なのかもしれないが、それにしても悪どい考えを秘めているようには、どうしても見えなかった。

 

 

「だって、俺たち勝ってねえ…」
「力量を図ったまでだ。元よりその男を石化することは予定外。戻すのが常識だろう」
「はあ…そんなもんか?」
「私はこれで失礼する。報告もあるからな」
「じゃあ、また後でねー!」

そう言うと、ウルフはふっとその場から消えるように去った。
といってもすぐ裏にある通路へ入っただけだろうが。
メドゥーサもその後へ続いたようで、やはり消え入るようにいなくなってしまった。

残された幽助たちはただただ呆然とするばかり……。
しばらく無言が続いたが、やがて螢子が口を開いた。

「何か、下手にいい人だね。今回の敵」
「下手すりゃ、こっちが悪役じゃねえか……」
「というより、既に悪役かもね」
「あの…コエンマさん、元に戻さなくていいんですか?」
「あ、忘れてた!」
「忘れるなよ。んな、肝心なこと……ぎゃっ!」

雪菜の言葉で思いだしたように、走り出す幽助。
突っ込んだのが悪かったのか、ただの偶然かは分からないが、その彼に踏みつけられた桑原はあまりに哀れというか…。
しかし、まあ雪菜に心配されていたから、本人としてはよかったかもしれないが…。

 

 

幸い、コエンマは絶叫しながら石にされたため、口は開いた状態である。
多少上げていた腕が邪魔になったが、それでも楽に丸薬を押し込むことが出来た。

丸薬が口腔から喉の方へ見えなくなり、数秒後。
突如、コエンマの身体が光り、一瞬にして石化が解けた。
残念なことに、あまり素直に喜べる状況でもなかったのだが……。

「元に戻った!」
「よかったわねー」
「よかったですね」
「よお、コエンマ。身体どうだ?」
「どっかおかしいところねえか?」

「……おかしいところはないだ〜?」

ゆっくりと顔を持ち上げたコエンマ。
その顔は赤黒くなり、ところどころに青筋が浮き立っていた。
どうやらかなりご立腹のようだが…。

「どうしたんだよ。元に戻れたっていうのによ」
「何、怒ってんだ?」

 

「普通怒るわい!!」

 

幽助&桑原の耳に向かって、激怒の悲鳴を投げつけるコエンマ。
鼓膜どころか三半規管全てが砕け散るような怒声は、もちろん近くにいた螢子たちの耳もしびれさせたが、しかしもろに聞いた幽助たちほどではないだろう。
傷む耳をおさえながら、コエンマを見上げると、彼は先程の怒りを少しも静めず、続けて怒鳴った。

「首とったのは誰だ!? 破片踏み潰したのは誰だ!? 車の屋根なんぞにくくりつけたのは誰だ!? しかも前髪なんぞ治しもしなかっただろう!! これの何処が怒らずにいられる!?」
「ああ、そういえば前髪そのまんまだったな」
「改めて見てみると、笑えるなー。わっははは!!」

相手はほとんどキレているというのに、笑う奴がいるだろうか……。
もちろんその桑原の笑いは、奇跡的にも繋がっていたコエンマの堪忍袋の緒を見事に断ち切り、

「き〜さ〜ま〜ら〜!! 成敗してくれるわー!!」

何といきなりおしゃぶりを外したかと思うと、あろうことか魔封環を使ったのだ!
通常、父親であるエンマ大王の許しがなければ、外すことも許されぬおしゃぶりを外し、そのまま最高奥義である魔封環を使用。
しかも仲間である幽助たちに向かって…である。
最も、攻撃ではないとは、既に七話目で使っているのだから、あまり驚くことでもないのだが。

 

 

「ちょ、コエンマ! タンマタンマ!」
「五月蠅い!! 妖怪退治にタンマもマンマもあるか!」
「俺は妖怪じゃねー!!」
「やかましいわ!! 似たようなもんだろうが!!」

いや、それは違うと思うが……そう突っ込んでくれる者はここにはおらず、女性達は呆然と成り行きを見つめ、飛影が助けてくれるわけもない。
というか、完全に無関心で、見てもいなかった。
彼は幽助たちを大きく避け、ウルフたちが去っていったらしい通路を探して、彼らが立っていた位置へ向かった。

しかし、どうやらそこに通路はない。
先程までは確かにあったが……どうも隠し扉があり、そこを開けたままにしていたようである。
とすれば、こちらから開く可能性も充分あり得るわけだ。

 

コエンマが魔封環を使っている間ならば、蔵馬が桑原の顔を見る心配もないだろう。
片手で彼を抱きかかえ、空いている手でそこら中に壁を触って回った。
何処かにスイッチか何かがあるはず……と、目線よりも少し上、柱の横の壁の煉瓦が、一カ所だけ違っていた。

「……」

ここだという確信はなく、確証もない。
そして珍しく自信もあまりなかった。
だが、押してみる価値はあるだろう。
ゆっくりと壁に手をかけ、色の違う煉瓦を押す飛影。
やはりそれはスイッチで、飛影が軽く押しただけでヘコみ、カチっと音がした。

同時に部屋に異変が起こった。
隠し扉が開いたならば、よかったのだが……生憎そうではなかった。

起こった異変。
それは何事もない方がよかったと思われるほど、厄介なことだった。
まさかいきなり部屋全体の床が、全て抜けてしまうとは……。

 

 

 

「だああああ!!」
「うわあああ!!」
「きゃあああ!!」
「いやあああ!!」
「ええーーーっ!?」
「嘘だろー!!!」
「……」

 

ドッシーン!!

 

 

どのくらい落ちたのだろうか?
まあ大した高さではなかったが、それでも10m以上は落ちたはずである。
最初に幽助と桑原が落ち、次にコエンマ、その真上に女性達が落ち、最後に飛影が落ちた。
とはいえ、螢子たちは幽助たちの上に落ちたため、とりあえずは無傷。
飛影だけは見事に着地し、事なきを得たが。

「いってて…おい、どうなってんだ? いきなり床が消えるなんざ…」
「コエンマがいきなり魔封環なんか使うからだろ!!」
「し、知るか! 床に向けて放ったつもりはない!」
「部屋ん中なんかでしたら、普通なるだろ!!」
「入魔洞窟で使った時は、地面はなんともなかっただろ!」
「地震のついでに、壁が崩れて、水面が浮き立って…」
「五月蠅い五月蠅いー!!」

どうやら誰一人、飛影が原因だとは分かっていないらしい。
それはそうだろう。
飛影が壁をいじっていたのを見たのは、何も分かっていない蔵馬だけなのだから……。

責任を押しつけられているコエンマは、魔封環も解け、ついでに霊力も大量に使い切ってしまい、ほぼ無防備状態で、少々気の毒であるが……あの飛影が撤回するわけもない。
知らぬふりをして、再び蔵馬に目隠しをしていた。

 

「それよりも…ここは…」
「地下ね。何かしら、この浮いてるの……風船みたいだけど」
「でも何でこんなところにいっぱい…」

ケンカ中の男どもを尻目に、螢子たちは周囲をキョロキョロと見渡していた。
今までも光はほとんど入ってこない空間であったが、それでも何処か地面からは出ている雰囲気があった。
だが、ここにはそれがない。
落ちた高さから考えても、地下であることは間違いないだろう。
地下水が染み出しているのか入り込んできた雨水がたまっているのか、あちこちに大きくて深そうな水たまりがあった。

そしてこの暗い空間にあるもの。
ところどころにある頼りない蝋燭の照明以外、とあるもので埋め尽くされていた。
大量の紅い浮遊物。
どうやら風船のようだが……よくよく見てみると、人間らしい顔が描かれてあった。

「あ、この人!」
「知ってるの?」

一つの風船を指さし、螢子が叫んだ。
静流や雪菜も見上げ、幽助たちも一時ケンカを中断して、そちらへやってくる。

 

「知り合いなのか?」
「ううん、知らない人。ただ…」
「ただ?」
「この前ニュースで出てた人よ。失踪したって」
「あっ!」

思い当たる節があるのか、静流や雪菜も驚きの声を上げた。
最も、幽助たちにはよく分からないらしいが……しかし、コエンマは他の風船を見て回り、一つを見上げて言った。

「こっちにもあるぞ…10日前のニュースで出ていた奴だ」
「そういえば、この人も…」
「あっちの人、ネットで顔写真出てた人だわ」
「あの人は道に尋ね人の案内が出てた人に似てます」

次々風船を見て回ると、どの顔も知人ではないが見覚えのある人ばかりだった。
新聞であったり、TVニュースであったり、ネットであったり、折り込みチラシや街角の掲示板であったりと、場所やモノは様々だが、しかしどれにも共通して言えることがある。

そう。
この一ヶ月の間に失踪した人たちの顔なのだ。

 

「ってことは……」
「これ全部失踪した人たちの成れの果てってこと?」
「それはおかしいぞ。失踪した者たちは、蔵馬同様、子供にされているだけのはずだ」
「じゃあ一体……」
「可能性としては、これが失踪した者たちの『時間』ということだな」
「時間?」

風船からコエンマへ視線を移す幽助。
コエンマが特にふざけた様子もなく、真面目に考えているらしいので、話をまともに聞いておくことにした。

「パイパーは相手をラッパで子供にするだけかと思っていたが……おそらく相手が生きてきた『時間』を吸い取っているのだろう。それを風船に封印して…」
「ホーホッホッホ!!」

「こ、この間抜けな笑い声は…」
「パイパー!!」

バッと全員が上を見上げる。
そこにいたのは、あの半分透けたピエロであり、敵としてもお笑い担当としか思えない奇妙奇天烈なパイパーに間違いなかった。

 

「流石は霊界のコエンマ。なかなかかしこいじゃない」
「…お前に褒められても全然嬉しくないな…色んな意味で」
「それよりてめえ!! 蔵馬を元に戻せ!」
「ホーッホホッ! 無駄よ。元に戻すには…」

言いながら、パイパーは懐に手を突っ込み(といっても、透けているため、懐に位置する辺りという意味だが)、何かを取り出した。
それは細くて小さな金色に光る針……。

「この金の針でその子の風船を割らないとね。まあ、百年かかっても無理だろうけど……って、ああー!!」

パイパーが絶叫したのも無理はないだろう。
突然、その手の平から金の針が消えたのだから……。
慌てて頭を振りまくって針を探すパイパー。
結構あっさり見つかったが、しかしそれは彼にとってかなりマズイところにあった。

 

 

「おめえ、思ったよりも大分トロいな。俺普通に跳び上がって取ったのによ。ま、これは頂いていくぜ」
「こ、こら貴様!!」
「んじゃ、手分けして蔵馬の風船探そうぜ」

針を手にした幽助が、パイパーを無視してみんなに言った。
その背後でパイパーが元々いいとは言えない顔を、更に崩して叫んでいる光景はかなり笑えるものだったが……とりあえずは賛同し、風船を見ながらあちこちへ散った。

「こ、こら返しなさい!! 返せっつってんだろ!!」

急降下し、幽助の背後から迫っていくパイパー。
しかしこの状況で幽助が気がつかないわけがない。
あっさりと避けると、哀れにもパイパーは目の前にあった支柱に勢いよくぶつかってしまった。

「おめえ、パニックに陥ると言葉遣い悪化するタイプだろ…」
「うるせえーーー!!! こうなったら、貴様まとめて倒してくれるわー!!!」

 

 

ザッッパーーンっっ!!

 

「ぎゃああああ!!」

 

突如、一つの水たまりから何かが出現!
それと同時に、地下室に悲鳴が響き渡った。
そう…約一名に限られた悲鳴ではあったが……。

「ね〜ず〜み〜!!」
「おい、桑原……これだけデカけりゃ、怖くもねえだろ? ネズミには違いねえだろうけど、他のものに見えねえことも…」
「ネズミ以外のなんに見えるってんだ!! 怖ーもんは怖ーんだよ!!」
「あ、そうかよ」

風船が密集している影に隠れて、ガタガタ震えている桑原を見て、幽助は呆れる前に情けなくなった。
雪菜がいるのだから、何とか理性を保っていられるかもと思ったが……甘かったらしい。
静流や螢子やコエンマも頭を抱えているし、雪菜はオロオロ、飛影は相変わらず無関心だったが。

 

「ってことは、桑原の言ってたネズミの軍団ってのは、こいつの仕業か」
「あの時来ていたから間違いないだろうな。加えて言うなら、これが奴の正体ってことだ。おそらくピエロの方は分身だな」
「なるほどな。飛影が攻撃しても効かなかったわけだぜ。けど、間抜けだな。このメンツの前で正体さらすなんてよ」
「は…」

どう考えても愚かとしか思えないような自分の行動を、今ようやく認識したらしいパイパー。
だが、今頃気がついたところで、本体は全員が目撃してしまっている。
ここで隠したところで、水中にいることがバレているのだから、意味がない。
何か打開策を……と、待ってくれるほど、幽助たちはお人好しではなかった。

 

「幽助。その針で刺した方が多分効率いいぞ。秘めている妖力からして、奴のエネルギーの源のようだからな」
「なるほどな。んじゃ、早速」
「ちょ、ちょっとまっ…ぎゃああああああ!!!!」

ひとっ飛びで巨大ネズミの頭まで跳び上がる幽助。
当然、ネズミは慌てふためいたが、しかしそれくらいで振り落とされる幽助ではない。
ぷすっと脳天に針を刺すと、ネズミのパイパーもピエロのパイパーも大絶叫を上げ、その場にぶっ倒れた。
と思うと、ピエロの方は消え去り、ネズミの方は企画サイズまで縮み、地面へ下りた幽助の足下に転がった。

 

「……アホらしかった…」
「今までで一番悪役っぽいのに、アホらしくて何とも言えねえな…」
「で、このネズミどうする? まだ生きてるけど、殺すのもアホらしいぜ」
「針さえなければ、ただのネズミだし、とりあえず縛っておけばいいだろう。当分は妖力も回復しそうにないしな」

いちおう今回の指令はこいつの抹殺が目的ではなかったのだろうか?
まあそもそもの目的など、全員とっくに忘れているだろうが……しかし、こうなっては倒すのも気が引ける。
後で、霊界裁判にかければいいとして、とりあえずコエンマの霊力が込められたロープで縛っておくことにした。

しかし、パイパーが倒れた後も、風船は変わらずその場に浮いている……。

「……つまり、全部手動で破壊するしかねえのか?」
「面倒だが、そういうことだな……ま、何をおいても、まずは蔵馬のからだ」
「けど……蔵馬のねえぞ。なあ、螢子。そっちあるか?」
「ないわ」
「こっちもないです」
「こっちにもないわね…」

手分けして探し回ってみるが、蔵馬のらしい風船はない。
彼の顔ならば、他のに混じっていても、一発で分かるはずだが……。

 

 

「もしかして蔵馬のだけ別の場所に……」
「大概そういうのはラスボスのところにあるもんだろ」
「なら、行くしかないな。桑原。螢子たちとここを頼むぞ。わしと幽助と飛影で行ってくる」
「おい、なんでだ! 俺もそっちに…」
「蔵馬が暴走する可能性を最小限に抑えるためだ」

きっぱり言い切るコエンマ。
それには幽助も飛影も賛成し、桑原も返す言葉がなかった。
しぶしぶ幽助から針を受け取り、風船を破壊していく桑原。
螢子たち三人は遠くにあった風船を彼のところまで運ぶ手伝いをすることにし、それぞれ走った。

 

「あっちに階段があるな。終わったら、上がってこい」
「おー」
「気をつけてね、幽助」
「まかせとけって!!」