<子守りは大変> 10
門をくぐり抜けると、そこは広い中庭になっていた。
屋敷までは30mくらいあるだろう。
桑原が入ったところで、門は音を立てて閉じてしまった。
「…よっぽど、自信があるみてえだな」
「あるいは幽助みたいなタイプかもね」
「俺みたいな?」
「何にも考えてないタイプってこと」
「お前なー!!」
敵地だというのに、やはり緊張感のない一同。
戦闘力のない螢子たちは、いつ死ぬか分からないような環境だというのに……敵が敵なだけに、それも仕方のないことなのだろうか?
しかし、その緊張のなさが、彼らの一瞬の隙を…いや、隙だらけと言ってしまえば、それまでなのだが、とにかく隙が出来てしまった。
だから気がつかなかった。
屋敷の屋根の上から、彼らを見ている人物がいることに。
そしてその人物が急降下して、幽助たちに迫ってきたことに……。
ビュッ…
「くっ!!」
間一髪だった。
他の者よりは周囲を気にしていた飛影が、蔵馬を抱えたまま飛び退いた。
飛影が地面へ足をつける前に、彼が先程まで立っていた位置を何かが横切った。
まるで風のようなスピード……女性たちには本当に風のようにしか見えず、幽助も何か物体が通り過ぎたということしか見えなかった。
「っと、おしい!」
「何だ、てめえは!!」
上空を見上げる幽助。
はっきり何とは見えなかったが、しかしそれが真上へ上昇していったのだけは見えた。
飛影燗ッじようにして、蔵馬を抱き直しながら、見上げる。
桑原や女性たちもつられて顔を上へ向けた。
全員の視線が集まった先にいた者……全身が黒ずくめで、黒い帽子。
はみ出したバサバサの髪の毛も黒く、まるでカラスのような少年だった。
顔はよく見えないが、おそらく見た目の年齢は幽助たちと大差ないだろう。
古びたホウキにまたがり、ふわふわと宙を浮いていた。
「ホウキ…ってことは、魔法使いね!」
「あったりー! やっぱり日本人でもそれくらい知ってるか!」
「ジ●リの『魔女の宅○便』とかあるしね」
「ああ、あれな! 俺も見たぜ! いいなー、ああいうのも!」
「って、お前な〜。敵のくせに、くつろぐんじゃねえ! 今打ち落としてやっからなー!!」
いきなり霊丸の構えに入る幽助。
おそらく霊丸は知らないのだろう、指を向けられても少年はきょとんっとしていたが…。
「くらいやがれ、れいが…」
「ストープッ!!!」
ドッシーンッ
ぼたんに突き飛ばされ、見事に前方へ転がった幽助。
何とか霊丸を打つ直前だったので、無駄打ちにはならずにすんだが。
「馬鹿幽助! いきなり霊丸なんて、あんた何考えてんのよ!」
「何しやがる! また何もしてねえなんて言うんじゃねえだろうな! あいつはしっかり蔵馬を取ろうとしたんだぞ!」
「そんなこと言ってないでしょ! 後1発なのよ、1発!」
「あ、忘れてた…」
そんな大事なことを何故平気で忘れられるのだろうか……。
彼も敵には違いない。
だが、霊丸を使うほどの敵かといえば、そうしなければ勝てないような力は感じない。
隠しているとすれば話は別だが、浮いていることを除けば、素手でも何とか勝てそうである。
油断出来るほど弱い敵でもなさそうだが。
「ま、あたいが行ってくるよ。この中で飛べるのは、あたしだけだからね!」
「お、おいぼたん! あぶねえって!」
「平気平気!」
あっさりオールにまたがって、魔法使いの元へ飛んでいくぼたん。
しかし彼女の戦闘能力などバッドかモップで殴るくらいなのだから、幽助が油断出来ない相手になど、勝てるわけがない……。
慌てふためく幽助たち。
だが、幸いにもこの魔法使いは攻撃をしかけてくる様子もなく、
「へえ、お前も飛べるのか。名前なんてんだ?」
「あたいはぼたん。霊界案内人さね。あんたは?」
「ウォーロックだ。霊界案内人ってことは、死に神だな。俺は見てのとおり…」
バサッと帽子を取るウォーロック。
途端、帽子の中に隠れていた長い髪が露わになった。
おそらくは蔵馬くらいあるだろう。
質感は相変わらずバサバサだったが……。
しかし、それ以上にぼたんや下にいる幽助たちも驚愕したのは……彼の素顔だった。
黒く大きな瞳、人懐っこそうで生意気そうな口元、どこか幼さの残るあどけない笑顔……。
「うそっ、女の子だったの!?」
「マジかよ!?」
ぎょっとして叫ぶぼたん。
幽助たちも唖然として、ウォーロックを見上げた。
声や口調から勝手に男だと決めつけていたが……。
しかし、『俺』という一人称を使ったり、言葉遣いの悪い女ならば、最近珍しくもない。
声が低いといっても、ハスキーボイスのような感じで、完全な男声でもないようだし…。
分厚い黒服のせいで肉体からの判別は不可能だったが、それでも何故気がつかなかったのか。
だが、ウォーロックは意外にも、顔をしかめて怒鳴った。
「おい、お前! 俺の何処が女に見えるってんだ!!」
「えっ……あ、あのさ…やっぱり、男の子…なの?」
「そうだ!! ったく、何処をどう見たら女に…」
「全部」
「全部だな」
「全部だね」
「全部ね」
「全部見えるわ」
「全部ですね」
「て、てめえら…」
バキッ! ゲシッ!!
再び急降下し、ホウキの藁の部分で幽助の頭を、柄の先で桑原の顎をドツくウォーロック。
幽助はとっさに避けようとしたため、あまり痛くはなかったが、桑原は風にしか見えてないので、まともに喰らってしまい、顎を抑えてひっくり返った。
「って〜…」
「おい、てめえ! 何で男しか殴らねえんだ!!」
「女を殴るのは性に合わねえんだよ!」
「へえ、幽助よりも性格いいじゃない」
「ほっとけ!!」
相変わらず、極悪人でない敵を前にして、調子を狂わされる幽助。
しかも暗黒武術会や魔界統一トーナメントの時のように、純粋に戦いを楽しむわけにもいかないのだ。
敵はやけにいい奴ではあるが、どちらかというと状況は四聖獣の時に近い。
あの時は敵が悪役中の悪役で弁解の余地なしの敵だったため(白虎は少し気の毒だとも思ったが)、遠慮無く殺すつもりで戦えたが……しかし今回はタイプ的には陣たちのような明るくて、もしかしたら気が合いそうな敵なのだ。
その微妙な感覚が戦いをなかなか進行出来ない要因なのだろう。
狂った感情を適切に戻してくれる蔵馬も、今は子供なのだし…。
が、幽助の苦難(?)を尻目に、ぼたんはホウキで自由自在に超ハイスピードで飛び回るウォーロックを見て、ある種の対抗意識を燃やしていた。
「結構スピード出るんだね、それ」
「おう! そりゃ、国一番だからな!! けど、おめえも結構速そうだな」
「霊界案内人としては優秀だからね!」
笑顔で言い合うぼたんとウォーロック。
同じ飛べる者として、何か感じ合うところがあるのだろうか。
随分と意気投合してしまっている。
「なあ、競争しねえか」
「いいさね! うけてたった!」
「ちょっ! おい、ぼたん!!」
「後よろしく!! いくわよーーー!!」
言うが早いか、ぼたんはオールを握り直して、全速力で空へ向かって上昇していった。
ウォーロックも迷わずその後を追う。
風よりも早く、音速がごとく……あっという間に二人は見えなくなってしまった。
「ま、あの魔法使いはぼたんに任せるか……」
果たしてこんなのでいいのだろうか…。
そんな疑問を抱きつつも、飛べない自分たちには呼び戻すことも出来ないと、諦めることにした幽助。
それほど悪い奴ではなさそうだし、ここはぼたんを信じて、先へ進むことにした……。
その後屋敷までは敵襲もなく、あっさりとたどり着けた。
屋敷の扉も魔術でロックされていのかと思ったが、意外にも軽く押しただけで開いた。
しかしやはり全員が入った後に、一人でに閉まってしまった……最もぼたんはまだ外だが。
しばらくは追いかけっこをしているだろうから、まあいいだろう(いいのか?)。
屋敷内はしばらく幅の広い廊下が続き、そして奥には階段があった。
その更に向こう側には通路があるらしいが、
「敵ってもんは、必ず上にいるもんだからな」
という幽助の意見で、まずは階段へ行くことにした。
薄暗く湿気の籠もった空間。
だがまあ、迷宮城の陰気さよりはマシだっただろう。
二階へたどり着くと、また長い廊下が待っていた。
奥にはまた階段が…と思ったが、階段はなく、代わりに大きな扉の部屋があった。
「何かな、これ。扉に模様が描いてある」
「イヌ…じゃないね。狼かな?」
「とりあえず入ろうぜ」
言いながら、扉へ手を伸ばす幽助。
しかし彼が触れる前に、扉は勝手に開いたのだった。
中は割合広い部屋になっていた。
が、今まで以上に薄暗く、窓らしいものはあったが、カーテンがかけられいてるため、ほとんど光は入ってこない。
ろうそくの明かりだけが不気味に灯り、宙に浮いた人魂のように見えた…。
「……いるな」
「ああ…」
先を歩いていた幽助が立ち止まり、飛影もその横で足を止めた。
蔵馬を抱く手に力が入る。
ただならぬ雰囲気を感じたのか、蔵馬は少し身を縮め、飛影の肩に顔を押しつけた。
「大丈夫だぜ、蔵馬。どんな奴だろうと、負けねえ…」
「ねえ、幽助。あたしには何も感じないけど……誰かいるの?」
「ここじゃねえ。向こうにある階段の上だ」
「え?」
目を懲らして見てみると、部屋の一番奥に階段があった。
ということは、この部屋は部屋としての機能というよりは、階段までの休憩地点なのだろう。
用心しながら、奥へと進む幽助。
と、その肩を誰かがつかんだ。
「俺が先に行くぜ」
「って、おい桑原! 前に来るんじゃねえよ!」
「ああ? ああ、蔵馬か。平気みたいだぜ、飛影あっち行ってるし」
「へ?」
気がつけば、隣にいたはずの飛影がいない。
見渡してみると、窓の近くに立ってカーテンの隙間から外を見ていた。
何をしているのかは謎だったが、しかしあの位置からなら、蔵馬にも桑原の顔は見えないだろう。
「つーわけで、行くぜ!」
「おい、桑原…」
「安心しろって! おめえにばっかりいい格好させられねえからな!」
「(…いついい格好したんだ、俺は…)」
疑問が頭の中でグルグルと渦巻いたが、しかし桑原が階段を上がりだした以上、自分も行かざるを得ない。
ちらっと振り返ってみると、飛影はとりあえず最後尾から来るらしい。
蔵馬が顔を上げているらしいのを見た時には、ぎょっとしたが、とりあえず桑原は見えていないようなので、ホッとした。
これで敵が桑原のような顔の者だったならば、また大泣きするかもしれないが……しかし、その心配の必要性はなかった。
何故なら、階段を上がった先にいた人物は……。
「あ、あの女!!」
「おそかったねー!」
このあっけらかんとした声で分かるだろうが、階段の上にあった先程と同じくらいの部屋にいたのは、あのメドゥーサだった。
しかしさっきのことがあるから、また映像かもしれない。
多少の用心をしながら、問いかけた。
「今度は映像じゃねえだろうな…」
「大丈夫だよ。実体だから」
「ああ、そうかよ!」
ならばと殴りかかろうとする幽助。
しかし前にいた桑原が慌てて止めた。
「おい、待てよ! 相手女だぞ!」
「うるせー! 何度もコケにされたんだぞ! 一発殴らねえと気がすまねえ!!」
「いつコケにされたんだ! てめえがドジっただけだろうが!」
そう言われると返す言葉がない幽助。
まあメドゥーサは一度も幽助をコケになどしていないし、馬鹿もしていない、からかいすらしていないのだ。
単に幽助が勘違いしたり、早とちりしたりしただけである。
そして今回も彼女はそういうつもりはなく、現れたらしい。
「待って待って。あんたたちの相手はあたしじゃないわ」
「何だと。どういう意味だ!」
「どういうって……まあ、簡単に言えば、こっちがあんたたちの相手」
すっとメドゥーサは自分の後ろを指し示した。
暗がりでよく見えなかったが、どうやら先に通路があったらしい。
そこから一人の青年が現れた。
腰を超す長い茶色の髪、切れ長の金色の瞳。
何処か大人の妖狐蔵馬に似ているような……纏っているのが、同じ袖無しの白装束のせいだろうか?
いや、それだけではないような気もする。
顔立ちが美しいという意味もあるだろうが、それ以上に何か近いものがあるような…。
「あのね、こいつが元に戻せるかもって言ってた奴なの。ウルフっていうんだけどね」
「その者か。メドゥーサが呪いをかけたのは」
桑原が引きずっていたコエンマの石像を見ながら言うウルフ。
眼光鋭く、言葉1つ1つが重くのしかかるような異様な雰囲気。
おそらくは見た目よりもずっと長く生きているのだろう。
長い時を生きてきた威厳のようなものが感じられたが、嫌みな感じではなかった。
「元に戻してやらないこともない。私と戦えばな…」
「俺がやるぜ!」
「桑原!?」
ウルフが言い終わらないうちに、桑原が叫んだ。
ぎょっとして彼の方を見やる幽助。
先程までのメドゥーサに対する態度とは大違い。
まあ相手が男であるということもあるだろうが、しかしいつも以上に燃えている。
「本当にやんのか? あいつ結構出来るぜ?」
「ああ、やる! てめえは手出しすんな!」
「別にいいけど、何でそこまで…」
「どうもいけすかねえ……いけすかねえんだよ、こいつ!」
怒りに燃えたぎっている桑原。
握りしめられた拳が霊剣を発動し、残り僅かだったはずの霊力が一気に回復していく。
何故ここまで激怒せねばならないのか……この男に見覚えでもあるのだろうか?
しかし、ウルフには桑原を知っているような気配はない、本当に初対面というような感じである。
ということは、もしや……。
「……おい、桑原。それってあいつが美形だからじゃ…」
「うるせえ!!」
「図星か…」
はあっとため息をつく幽助。
その後ろで雪菜をのぞく女性たちも肩を落とし、飛影も完全に呆れている。
思えば、桑原は自分よりも顔のいい男は、とりあえず気に入らないと言ってきていた。
飛影は初めての言葉があれだったから仕方がないとしても、蔵馬のことを気に入らないといったのは、早い話が蔵馬が格好よすぎたためである。
薔薇を取り出し、華麗に花びらを散らせて、更には美しい鞭を…などと自分には到底似合わないであろう芸当を、あっさり美しく、絵になるがごとくやってみせたのだ。
幽助は見ていないが、死々若丸の時もそうだった。
その後にやった怨爺戦と比べ、どう考えても怒りに燃えていた。
それはようするに死々若丸の方が圧倒的に美形だったため……ファンの量より質というのは本音だろうが、それでもヤいていたようだったし。
結局のところ、桑原は自分よりも美形の敵は許せないのだろう。
少々アホらしい気もするが、自称世紀の美男子である彼にとっては、大きな問題だと思われる…。
「なるほど、霊気を剣に変える…物質化能力だな。なかなかの腕らしいな」
「ほめすぎでい! どっからでもかかってきやがれ!」
「そうだな…」
「ねえ、ウルフ。いちおう変化した方がいいんじゃない? look before…念には念をって言葉もあるしさ」
「……」
メドゥーサの言葉には返答せず、しかし聞き入れてたらしいウルフ。
ぱちんっと指を鳴らすと、閉まっていたカーテンが全て開いた。
途端に光が入ってくる……しかし、もう夕暮れ間近のようで、それほど明るくはならなかった。
だが、既にあれは出ていた。
これから訪れる夜空の代表格。
今夜はまん丸ではなかったが……それでもそれはウルフに多大な力を与えるものだった。
「はあはあ…」
「な、何だあいつの身体!」
「髪が伸びていく…!?」
「爪も…何あれ、髪の毛の間から出てきてるのって……耳?」
「服の間からも何か出てるぜ」
全員が驚きと僅かな恐怖を感じながら、月明かりに照らされたウルフに見入っていた。
いや、魅せられていたのかもしれない。
攻撃を仕掛けかけた桑原ですら、その手を止めてしまったくらい……。
やがてウルフの荒い呼吸音がおさまった。
それと同時に彼は顔を上げた。
身体全体が淡く発光しているため、シルエットがはっきりと見える。
髪の間からのぞく茶色の獣耳、腰下あたりから流れるようにはえている長い茶色の獣の尾。
蔵馬のものほど1本1本の毛が長くないため若干細いが、それでも貧弱な感じはせず、美しかった。
足下まで長く伸びた髪に、長い爪。
口元からは僅かに牙がのぞいている。
妖狐蔵馬にますます似ているが、しかし何処かが違った。
金色に光る瞳には、狡猾さよりも残忍さの方がよく現れていて、まるで……。
「お、狼男!?」
「知ってんのか?」
「月の光を浴びて変化するって、有名じゃない! 最近、『ハリー・●ッターとア○カバンの囚人』でも名を広めたし……でも、姿は大分違うわね。あれは獣っぽくなってたけど」
「獣タイプの狼男は、元々人間だった者が狼男に攻撃されたことによってなる。私はあれとは違う」
どうやら言葉もちゃんと通じるらしい。
ハリ●タの狼男は理性を完全に無くしてしまうため、人を喰らうらしかったが。
しかしウルフは違う。
感じられる妖力や気迫は段違いだが、言葉遣いなどは先程と全く変わっていない。
眼も獲物を求めて血走っている様子はないし、何より見た目の美しさから、どう考えても人を食うタイプとは思えなかったのだ。
しかし、彼が狼男とすれば、蔵馬と何処かしら似ているような気がしたのは、頷けるかもしれない。
狐も狼も同じ犬科の獣…近しいところがあるのだろう。
最もこの2人の場合は、外見の美しさが一番かもしれないが…。
「……」
「どうした、桑原?」
ふと見ると、桑原がウルフを凝視したまま固まっていることに気付いた。
怖がっているのかと思ったが、違うらしい。
その眼はますます怒りに燃えていた…。
「気にくわねえ……」
「それはさっき聞いたって…」
「気にくわねえんだよ!! 何で変化したってのに、美形のままなんだ、てめえは!!」
ビシッと霊剣で刺され、ウルフは少し困ったような顔をした。
もちろん剣と自分までの距離は数mあるのだから、危険はない。
だが、こんなことを言われたのは、初めてだったので、そう言い返すべきか迷ってしまったのだ。
「……と言われても…」
「狼なら、狼らしく、狼になれってんだ!! 耳と尾がはえただけで、顔はそのまんまなんざ、反則だろ!!」
「そのまんまでもないんじゃない? 月光あびて、前より綺麗になったっていうか」
「余計悪い!!」
螢子の正しいツッコミに、顔中真っ赤にしながら怒鳴る桑原。
ウルフはしばらく頭をかいていたが、
「反則と言われても、私はこの姿にしかなれない。生来の狼男だからな。安心しろ。噛みつかない限り、お前が狼男になることはない」
「なってもあんまり変わらないかもね〜、和は。むしろよくなるんじゃないの?」
「それがたった一人の弟に対しての台詞か!! もういい! 噛むんだったら、遠慮無く噛みな! その前にてめえの首が床に落ちるだろうけどな!」
「物騒な…殺し合いをするとは言っていないだろう」
「俺はてめえのそのしらけたツラを切り刻んでやりてえんだ!!」
「……どっちが悪役だか、分からねえな……」
「どっちかっていえば、桑原くんの方が…」
「やかましい!! とにかく行くぜー!!!」
霊剣をブンブンと振り回し、ウルフへ斬り掛かっていった桑原。
しかし勝敗は、予想以上にあっけなくついてしまったのだった……。
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