第十七話・出立
そして、街人たちに見咎められない内に、蔵馬たちは旅立った。 状況からして、感謝よりも悪意の可能性の方が高かったから。 妖怪が弱ったせいか、大河はとても穏やかになっている。
「どうしたの? この舟」 荷物からまた少し離れた草むらに、数人乗りの小型の舟が隠されていた。
「君のお兄さんに貰ったんだよ。瑪瑠を助けてくれる代わりにって。――すまないね。最初はほとんど、そのために来たんだ。まさか、梅流と友達になってたとは思わなかったから」 瑪瑠の問いかけに、蔵馬は苦笑気味に、正直に答えたが、 「全然いいよ! だって、今は瑪瑠も友達で仲間だもん!」 「でも……麓兄も汀兎兄も舟なんて、持ってたかな……??」 瑪瑠はきょとんっと首をかしげた。
大河が濁流渦巻いていたため、生け贄が捧げられて数ヶ月間しか、漁は出来ない。 故に、漁以外での個人所有の舟は、ほとんどないに等しい。 しかし、兄たちは元々漁師ではないし……。
「どんな人だった?」 舵をとりつつ、蔵馬が答える。 「じゃあ、男の人だったら、普通くらいだよね。――髪は? 何色だった?」 「そっか。あ、じゃあ目の色、赤かった? それとも、緑?」 本当に分からない……と、膝の上で寝入ってしまったシロを撫でながら、首をかしげる瑪瑠。 そんな瑪瑠に、妖狐の手当をしつつ、梅流は言った。
「きっと、家族以外にも、瑪瑠に生きてて欲しいって思った人がいたんだよ!! 梅流たちみたいに!!」 素直な意見が、舟を満たしていた。
……梅流は、本気で言った。 本当にそうだと思って、言った。
だが、違った。
街の一番高台にて。 黒いマントを纏い、黒い兜を被っている。 その白い面で光る橙色の瞳は、とても厳しいものだった。
「……ようやく、四人≠ェ揃ったか……だが、本当の戦いはこれからだ……」 誰に語りかけるわけでもない言葉を零しながら、男は被っていた兜を取り去った。
桜色の短い髪が、遅い夜明けの風にゆれた。
第一章 終わり
〜後書き〜
ひとまず、第一章、全員揃うところまでいって、終わりました。 いちおう、「西遊記」全百話のうち、第一章は14話・15話・18話・19話・22話が元になっています。 なお、一番最後に出てきた人は……まあ、別に隠すつもりもありません。
|