2.梅流
いつもは夜が明けてから、その強い光で目覚める少女。
「すごい、綺麗……」 思わず見とれた。 金色の太陽を背に、少女の目前に座る、かの人間。
「ねえ」 「君……一緒に来てくれる?」 人間の行った言葉に少女はすぐには反応出来なかった。
「え、と……一緒に、行く? それってどういうこと?」 問いかけると、人間は少し考え込むそぶりを見せた。
「う〜ん。この場所を離れて、全く別の場所へ行くってこと。俺と一緒に」 「それは分からない。けど、此処にいても、楽しくないよね?」 それははっきりと分かる。 確かに、空は大きくてすごい。
だけど……楽しいと思ったことは、ない。 そう、今のような感情は……。
そこまで考えて、気づいた。
「えっと……今、楽しいのかな?」 こんな気持ち、今まで無かった。 けれど、決して不快ではなく。
「さあね? けど、少なくとも。君は今、笑ってるよ」 「どうだろう?」 少女の言葉に、人間はふっと真面目な顔になった。
「だったら……それを確かめてみる?」 「ここから出て。俺と一緒に来て。それで楽しいか楽しくないか。確かめてみる? ここは楽しくないよね? でも外は楽しいかも知れない。確かめてみないか?」 「うん!」 この気持ちがなんなのか知りたい。 その、楽しいという気持ちなのかもしれない。 確信はないけれど、そんな気がする。 彼と一緒にいって……。
「よかった。俺は蔵馬」 「そう。俺のことを呼ぶ時には、そう呼んでくれればいい。――君は?」 「えっ……と……。…………」 少女は黙り込んでしまった。 蔵馬というのが、彼を指し示すものなのだとは、分かった。
けれど……じゃあ、自分を指す言葉は、何なのだろうと思って。 分からなかった。
「……梅流」 「これから君は、梅流だ」 「梅の流れで、梅流。梅っていうのは……そうだな、君みたいなもののこと」
ドクン
胸が一際強く鳴った。 不快も愉快もなかった。
「行こう。梅流」 蔵馬の差し伸べた手。 白くて華奢でそれで何処か逞しくて……。
梅流は迷わず手を伸ばした。
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