<壺の悪魔>
それから、一階に下りて、玄関へ。
「着替えたな」 「じゃあ、行きましょう」
お母さんもよく見ると、いつもの室内着じゃない。 見たら、分かる。 しかも2本も持ってて……と思ったら、 「こっちは、狐白のね」 「狐鈴はこれを使え」 杖と剣を手にして、わたしたちはますます訳が分からなくなってしまった。
「ねえ、何処に行くの?」 外は未だに雨が降っていて、視界がよくない。 「お父さん、フバーハ使ってもいい?」 狐鈴の言葉に、お父さんは少し考えてから、返事をした。
「フバーハ」 狐鈴の詠唱に、周囲の景色が一瞬にして変わった。 軒下から出たのに、全然濡れない。
「狐鈴、フバーハが使えるのね」 お母さんが感心したように呟くと、狐鈴は照れくさそうに、ほっぺたをかいていた。
『フバーハ』 わたしは使えないけれど、使えない魔法でも効用は知っておいて損はないって、御祖母様に色々教わった。 雨も冷気だから、応用なのかな?
「狐鈴すごーい!!」 思わず叫ぶと、後ろからぐっと口を押さえられた。 「ふが…」 言われて、コクコクと頷くと、やんわりと手を外された。
「どうしたの?」 狐鈴のフバーハで、すっかり忘れていたけど、まだ聞いてなかった。
「……見晴らしの塔だ」 それは知ってる。 面白そうで探険したかったけれど、いつも入り口に鍵がかかっていて、入れなかった場所のはずだけど。
「鍵なら、さっき開けた」 わたしたちが行くこと、誰にも言っていないってことは、何もないってことはない。 曾御爺様の難しそうな顔といい、何だか今までと違う。
「おそらく、此処へ来たら、一番最初に目に付くだろうからな。それに、街よりは塔の方が戦いやすい」 そりゃあ、街で大暴れしたら、建物とか壊れて困ると思うけど。
「……簡単に言えば、モンスターだ」 「違うの。『光の教団』とは無関係のモンスターなんだけど……150年くらい前のご先祖様が封印したモンスターらしいの」 想像もつかない長い時間だ。
「その封印がそろそろ解けるらしいの。蔵馬に見てきてもらったのは、モンスターが封印された壺の様子で」 「その……モンスターを倒しにいくの?」 声が震えた。 だって……
「150年も封印されてて……可哀想だよ」 わたしの気持ちは、狐鈴が代弁してくれた。
「……気持ちは分かるけれど、ダメなの。そのモンスターは……」 お母さんはきゅっと唇を噛みしめて、言った。 「命を奪うことが、快楽になっているから……」 「「…………」」
それは、モンスターに限った話じゃない。 どちらにも……悲しいけれど、あり得ることなんだ。 世界が綺麗な夢物語でないことを、わたしたちは、知っている。
「モンスターの名は、ブオーン。HPは約4500。打撃以外では、炎・稲妻による攻撃。及び、スカラ・ルカナンが使えるそうだ」 先頭を歩き、階段を上って行くお父さんが、淡々と語った。 所謂……爆弾発言を。
「お前たち2人でやってみろ」 「「ええっ!?」」 だ、だって150年も封印されてたってことは……それだけ危険ってことなんじゃないの??
「本当に人類の強敵になりうるなら、『光の教団』が何が何でも封印を解いているはずだ。ほおっている時点で、モンスターとしても大したことはない」 「「…………」」 そんなこと言っても……。
「大丈夫よ。ちゃんと後ろにいるから。危なくなったら、すぐに行けるように」 「2人だけで倒せたら、次の旅は狐白も連れていってやろうか?」
「「やる!!」」
思わず、即答しちゃった。 でも後悔はないよ。
絶対に勝つ。
「狐白。一緒に行こうね」 お母さんだけ置いてはいけないもん。
「行くよ、狐鈴!!」
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