<壺の悪魔>
わたしの名前は、狐白(こはく)。
白狐の末裔のお母さんと、銀狐の生き残りであるお父さんから生まれた、ハーフ。 でも、見た目は白狐に近いみたい。 それでも、お父さんの銀の輝きには勝てない。 私も……双子の兄の狐鈴も。
けれど、そのことを実感することは、一年の内、ほんの一時だけ。 闇の世界からの追っ手を回避するために、お父さんと狐鈴は旅に出ているから。
……そして、今日は、その『ほんの一時』なんだ。
昨日の晩だった。 いきなりお母さんが立ち上がった。 皆びっくりしたけれど、すぐに分かった。 そんなお母さんがご飯中でも立ち上がることっていったら……一個しかない。
「瑪瑠、迎えに行ってらっしゃい」 御祖母様が微笑んで言って、それからお女中さんに料理の追加を頼んでくれた。
「お母さん! わたしも行く!」 椅子から飛び降りて、返事も聞かずに玄関へ走った。 広いお屋敷だけれど、こんな日はいつもよりも廊下が長く長く感じられる。
ようやく辿り着いた玄関の扉を開けながら、外へ飛び出した。 勢いのまま、階段を駆け下り、最後はジャンプ!
「お帰り、狐鈴!!」 「ただいま、狐白!!」
標準を合わせていなくたって、いつもちゃんと彼は受け止めてくれる。 だって、わたしと彼は、ひとつだったんだもん。
何十日かぶりに、狐鈴とお父さんが帰ってきたんだ。
「曾御爺様の様子がおかしい?」
昨日は御飯食べて、すぐに狐鈴が眠くなっちゃったから、2人で一緒に早くに寝て。 碧兄ちゃんたちが妖精さんのことを聞きに来たって言ったら、すごく羨ましがられちゃった。
でも、狐鈴の方も、すごいことがいっぱいだったんだ。 わたしもお母さんから教わった魔法や、莉斗兄ちゃんに教わった格闘技で、1人でも戦えるようにはなってきたけれど。 やっぱり、狐鈴ってすごいなー。
そして……わたしはここ最近で、一番気になっていることを、狐鈴に話した。
「うん……何だか、悩んでいるみたいで」 曾御爺様はよく喋るわけじゃないけど、無口な人じゃない。 そのこと、御祖母様もお母さんも気にしているけれど、誰にも言ってくれなくて。
「お母さんも、お父さんが帰ってきてくれたら、相談してみようかなって言ってた。だから、もしかしたら昨日のうちに話しているかも」 朝ご飯の時にもいなかった。 でも、お父さんはサラボナに帰ってきても、ずっとお屋敷にいるわけじゃない。 どうして? って一度聞いてみたら、「性に合わない」って分かるような分からないような答えだった。
だから、「傍にいる」って思ってて、気にしていなかったけど。
「ひょっとして、何かあったのかな?」 急に不安になって、狐鈴と手を繋いで、お母さんの元に走った。
「ねえ、お母さん。お父さん何処?」 矢継ぎ早に質問を浴びせちゃったけど、お母さんはものすごく驚いた顔にはならなかった。
「ええ。実は、私が御爺様のことを話す前に、御爺様の方が蔵馬に相談してきたの」 これにはちょっとびっくりした。 曾御爺様は、お父さんのことを、もちろん信頼している。 でも、いつも家にいるわたしたちには言えないことを、旅に出ていたお父さんに言うのは……びっくりするしかなかった。
「それでそれで?」 「「壺??」」 壺ってなんだろう? このお屋敷にも壺はたくさんあるけど、でも赤いのなんてあったっけ?
……違う。 祠なんて、このお屋敷にはない。 だから、それはきっと、 「サラボナの外にあるってこと?」 やっぱり。
「お父さん、1人で行ってるの?」 そういえば、結界が分厚くなってる。
「御祖母様、大丈夫なの?」 「「は〜い」」
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