<6 遺跡の真実>

 

 

 

 その後、ようやく落ち着きを取り戻した桑原に、事の次第を尋ねてみた。

 曰く、叫んでいた通り、この天空城を飛ばすには、ゴールドオーブとやらが必要らしい。

 

 碧たちが見た、反対側の部屋にあったものは、シルバーオーブといい、ゴールドオーブの対として、城を支えていたとか。
 ゴールドとシルバー、それ一個だけでも強力な力があるため、ゴールドオーブ無き後も、しばらくは飛んでいられたと見えるが、やはり一つだけでは、到底城を支えられるわけもなく、そのせいで落下したのだろうと。

 ゴールドオーブが収まっていたと思われる台座の傍には、大きな穴。
 誰かが持っていった可能性も考えられるけど、ゴールドオーブが無くなった当時、天空城はまだ空を飛んでいたのだから、ここから地上に落ちたと考えた方がいい。

 

 

 

「問題は、何故落ちたのか。それと、何処へ落ちたのか……というところかな」
「けど、そんなのどうやって……」

「あ、ああ。それなら俺が調べてみっからよ」
「そのようなことが出来るのか?」

 訝しげに紅光が尋ねると、桑原はドンっと胸を叩いて、

「俺様を誰だと思ってやがる! 男・桑原! できねえことはねえ!」
「…………」

 色々ありそうだけど、という本音は、とりあえず黙っておいた。

 

 

 全員が注目する中、桑原は眉間に指を当て、ううんと唸り声を上げた。
 何かしようとしているようだが、てんで見当がつかない。

 と、その時だった。

 

「なっ」
「何だあれ……」

 桑原の頭上に、何かが光り始めた。
 その中に……見えた。

 

 

 

 

 空を浮かぶ天空城。
 確かに、名の通りの天空城。

 そこへ忍び寄るのは、不気味な紫の雲。
 雨雲や雷雲などではない。
 明らかに、闇の気配を纏った物体。

 そのドロドロとした空気に触れ、天空城が大きく揺れた。
 激しい衝撃で、床に穴が開き、台座から転がったゴールドオーブが、城から投げ出され、地上へ向かって落ちて行く。

 

 片方の力を失った天空城は、ふらふらとよろめきながら、それでも海を越えた。
 が、それは今まで両腕で抱えていたものを、一気に片手で請け負うような無理でしかなかった。

 たった今いる湖であろう、この真上にさしかかったところで、城はゆらゆらと傾き、水にその巨体を沈めていった。

 

 

 一方、ゴールドオーブが落ちた先は、何処かの城。
 人の気配はなく、うち捨てられた古城と思われた。

 と、不穏な雷鳴が轟くそこへ、近づいてくる小さな二つの影。

 今の碧や紅光よりも、遙かに幼い……人間の子供だった。

 

 

「あんな小さな子が……あれ?」

 よくよく見てみると、その子は誰かに似ていた。
 赤い髪、緑の瞳。
 年齢はまるで違うけど……。

 

「まさか……」

 見上げた先で、蔵馬は驚愕の色を隠せずにいた。

 確信する。

 

 あれは、幼い頃の……父なのだと。

 

 

(……ってことは、もしかして一緒にいる子が……)

 黒髪に黒い瞳で、父よりも少し年下。
 確か、銀色が言っていた。
 2人の母・梅流は、黒髪だったと。

 

 

「あれが……母さんなのか……」

「ああ、そうだよ。あれが梅流だ……」

 独り言のつもりだったが、答える声が降ってきた。

 

 

 

 

 そして、皆が見ている前で。
 幼い蔵馬は、ゴールドオーブを手に、城を後にした。

 場面が切り替わる。

 しばらくは、蔵馬の旅の様子。
 当然、ゴールドオーブはずっと彼が持っているのだろう。

 

 次に訪れた城は、先ほどとは打って変わって、立派なもので……。

(あ……ここ、寵たちの城だ)

 雰囲気は少し違うけれど、間違いなくラインハット城だった。
 幼い頃の幽助もいる。
 小生意気な小僧だったようで、蔵馬が手を焼いているのがありありと分かった。

 

 

 また、場面が切り替わる。

 何処かの遺跡のようだった。
 モンスターと戦っている。

 後もう少しで出口……その時だった。

 

 

「……ゲマ……」

 ぽつり呟いた蔵馬の声は……今まで聞いたこともないほど、低く暗いものだった。
 憎悪と怒り、そして……深い悲しみ。

 そんなものが、あのたった一言に、痛いほど込められていた。

 

(ゲマ……じゃあ、こいつが……)

 リオから聞いて、名だけは知っていた。
 蔵馬の父、碧たちの祖父を殺したモンスターのことを。

 

 

 

 そして……蔵馬も幽助も、おそらくはリオと思われる幼い獣も倒され。

 駆けつけてきた屈強な戦士。
 考えるまでもなく、祖父だろう彼は……死んだ。

 蔵馬を盾に取られて。
 なすすべもなく。

 灰となった。

 

 勝ち誇った高笑いと共に、闇に吸い込まれるよう、消えて行く蔵馬と幽助。

 後に残されたのは、祖父の剣、ボロ雑巾のような獣、そして、ゲマの醜い手の中で砕けたゴールドオーブの破片だけだった……。

 

 

 

 

(……こういうこと……だったのか……)

 父しか知らない……いや、父もはっきり覚えていなかったかもしれないことを、まざまざと見せられ、碧たちはどうしていいのか分からなかった。

 祖父がモンスターに殺されたこと。
 その時、父はまだ幼かったことは知っていたけど。

 

 蔵馬が何も話したがらないはずだ。

 碧たちが、問わなかったからではない。
 問えなかったのだ。

 蔵馬の「聞いて欲しくない」という気持ちが、ありありと伝わっていたから。

 

 でも理由は分からなかった。
 今日まで。

 ようやく分かった。

 祖父が死んだのは……蔵馬のためだったのだから。

 

 

 

(……せいじゃないって、言っても……多分聞いてくれないだろうな……)

 過去を知ったからといって、完全に理解したわけではない。
 知ることと、理解することは違う。
 それくらい、碧たちにだって分かる。

 

(でも……だったら、どうすればいいんだろ……)

 誰に聞くわけにもいかず、結局碧は何も言えなかった。