<6 遺跡の真実>
その後、ようやく落ち着きを取り戻した桑原に、事の次第を尋ねてみた。 曰く、叫んでいた通り、この天空城を飛ばすには、ゴールドオーブとやらが必要らしい。
碧たちが見た、反対側の部屋にあったものは、シルバーオーブといい、ゴールドオーブの対として、城を支えていたとか。 ゴールドオーブが収まっていたと思われる台座の傍には、大きな穴。
「問題は、何故落ちたのか。それと、何処へ落ちたのか……というところかな」 「あ、ああ。それなら俺が調べてみっからよ」 訝しげに紅光が尋ねると、桑原はドンっと胸を叩いて、 「俺様を誰だと思ってやがる! 男・桑原! できねえことはねえ!」 色々ありそうだけど、という本音は、とりあえず黙っておいた。
全員が注目する中、桑原は眉間に指を当て、ううんと唸り声を上げた。 と、その時だった。
「なっ」 桑原の頭上に、何かが光り始めた。
空を浮かぶ天空城。 そこへ忍び寄るのは、不気味な紫の雲。 そのドロドロとした空気に触れ、天空城が大きく揺れた。
片方の力を失った天空城は、ふらふらとよろめきながら、それでも海を越えた。 たった今いる湖であろう、この真上にさしかかったところで、城はゆらゆらと傾き、水にその巨体を沈めていった。
一方、ゴールドオーブが落ちた先は、何処かの城。 と、不穏な雷鳴が轟くそこへ、近づいてくる小さな二つの影。 今の碧や紅光よりも、遙かに幼い……人間の子供だった。
「あんな小さな子が……あれ?」 よくよく見てみると、その子は誰かに似ていた。
「まさか……」 見上げた先で、蔵馬は驚愕の色を隠せずにいた。 確信する。
あれは、幼い頃の……父なのだと。
(……ってことは、もしかして一緒にいる子が……) 黒髪に黒い瞳で、父よりも少し年下。
「あれが……母さんなのか……」 「ああ、そうだよ。あれが梅流だ……」 独り言のつもりだったが、答える声が降ってきた。
そして、皆が見ている前で。 場面が切り替わる。 しばらくは、蔵馬の旅の様子。
次に訪れた城は、先ほどとは打って変わって、立派なもので……。 (あ……ここ、寵たちの城だ) 雰囲気は少し違うけれど、間違いなくラインハット城だった。
また、場面が切り替わる。 何処かの遺跡のようだった。 後もう少しで出口……その時だった。
「……ゲマ……」 ぽつり呟いた蔵馬の声は……今まで聞いたこともないほど、低く暗いものだった。 そんなものが、あのたった一言に、痛いほど込められていた。
(ゲマ……じゃあ、こいつが……) リオから聞いて、名だけは知っていた。
そして……蔵馬も幽助も、おそらくはリオと思われる幼い獣も倒され。 駆けつけてきた屈強な戦士。 蔵馬を盾に取られて。 灰となった。
勝ち誇った高笑いと共に、闇に吸い込まれるよう、消えて行く蔵馬と幽助。 後に残されたのは、祖父の剣、ボロ雑巾のような獣、そして、ゲマの醜い手の中で砕けたゴールドオーブの破片だけだった……。
(……こういうこと……だったのか……) 父しか知らない……いや、父もはっきり覚えていなかったかもしれないことを、まざまざと見せられ、碧たちはどうしていいのか分からなかった。 祖父がモンスターに殺されたこと。
蔵馬が何も話したがらないはずだ。 碧たちが、問わなかったからではない。 蔵馬の「聞いて欲しくない」という気持ちが、ありありと伝わっていたから。
でも理由は分からなかった。 ようやく分かった。 祖父が死んだのは……蔵馬のためだったのだから。
(……せいじゃないって、言っても……多分聞いてくれないだろうな……) 過去を知ったからといって、完全に理解したわけではない。
(でも……だったら、どうすればいいんだろ……) 誰に聞くわけにもいかず、結局碧は何も言えなかった。
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