<3 箱>
「じゃあ、行くよ」 全員が頷いたのを確認した後、蔵馬はルーラを発動した。
目的地はサラボナ。 数年のブランクなど、ものともしない。
「…………」 それでも素直に「すごい」と言えないのは何故だろうか? 碧だけが、何も言えずに、黙ったままだった。
「……じゃ、行こうか」 そんな碧に、何故か蔵馬は苦笑しながらも、街を指さした。
「わーい!! 帰ってきたよー!! 狐白ーっ!! おかあさーん!!」 大声で叫びながら、門をくぐりぬけていく。
時折、すれ違う人や窓から顔を出していた人たちに、手を振りながら、狐鈴は一直線で走って行く。 元々、城暮らしのため、さして驚きはしないが、それでもかなりの豪商であることは、瞬時に分かった。
「あれって奥さんの実家だよね?」 「後は誰が継ぐの?」 きっぱり言い切る銀色に、思わず碧は吹き出した。 その様子を蔵馬が見て、少し寂しそうにしていたことなど、気づきもせずに……。
「お帰り、狐鈴!!」 声を聞きつけたのか、玄関を叩く前に、小さな影が転がり出てきた。 歩きつつ、遠目で眺めていた碧。
「お帰りなさい、狐鈴」 「お父さんは?」 芝生に寝転んだまま、こちらを指さす狐鈴。
長い白銀の髪、黄色に近い金の瞳。 穏やかで優しそうな雰囲気の女性。
「お帰りなさい、蔵馬っ……」 顔を上げた途端、彼女の顔色は驚きに彩られた。 「薔薇?」 呟いたように出た言葉だったが、決して疑っている雰囲気はない。
「久しぶり、瑪瑠」 蔵馬が無言でいたことで、察したらしい。
「紅光くんと碧くんね? はじめまして。狐鈴の母の瑪瑠です」 ふんわりとした微笑みは、今までの旅の疲れを思い出させ、同時に癒してくれた。
それから、碧たちは瑪瑠の屋敷で世話になることになった。
「そうなの……本当に大変だったのね……」 蔵馬の話が終わる頃には、瑪瑠の瞳にはうっすらと水滴が浮かんでいた。
「泣かないでよ、狐白」 肩を抱いて慰める様は、碧たちに懐いていた幼子ではない。
「此処でしばらく休養した後、件の湖に行こうと思う。それで、銀色。モンスターのことだけど……」 手にしていたカップをソーサーに戻した後、丸テーブルの上に置き、立ち上がる銀色。
「これは……」 流石に室内でやるには、蔵馬の連れていたモンスターは多すぎる。
「すまないな。高かったんじゃないのか? 確かオラクルベリーでは、5000Gくらいしたはず……あ」 何か気づいたらしく、一瞬言葉につまり、続いて呆れたように溜息をつく蔵馬。 「……盗品渡すって、相変わらず性格イイね……」 にやりと笑う銀色に、己の予感が外れていなかったことを悟り、改めて深く溜息をつくしかない蔵馬だった。
中庭へ出て、小箱を開く蔵馬。 ドラゴンキッズ、キメラ、ブラウニー、クックルー、そしてたくさんのスライムたち。 皆、突然のことで驚いたようだが、蔵馬の姿を見つけるなり、突進する勢いで走り寄っていった。
「元気そうだな、皆」 笑顔で応える蔵馬に、ギャウギャウ、ガウガウ、キューキューと、モンスターたちが上げる声は甲高い。 「……何となく分かるな」 喜んでいる。 それくらいは、例え言葉が分からずとも、その場にいる全員が分かっていた。
そして、それから数日間。 唯一、母と祖母のことが頭から離れないけれど、余裕のなさは失敗の元。
その間に、狐鈴の妹・狐白とも思い切り遊び、すっかり仲良くなった。 そういえば、年下の女の子と遊ぶのは、これが初めてかもしれない。
けれど、狐鈴が言っていたような、ただ可愛いだけの妹ではなかった。 中庭でモンスターも交えて、手合わせをした時、やって見せた呪文。 身体の動きや、魔法の馴染み方からして、おそらく才能はあるのだろう。 日々、鍛錬を怠っていない、立派な1人の戦士だった。
狐鈴はどうやら、ここまでの腕があることを知らなかったようで、純粋に驚いていた。
「狐白すごいね。何時の間にこんなに強くなったの?」 「……瑪瑠さんって、強いの?」 テラスでゆったりお茶を飲んでいる姿からは、そんなに強いようには見えなかった。 そう、強そうに見えないというよりは、闘うように見えないのだ。
「お母さん、魔法得意なんだ。体術は曾御爺様に見てもらいながら、莉斗兄ちゃんに稽古つけてもらったの!」 「あ、近所の白狐のお兄ちゃんなの! 今はルフェランに行ってて留守だけど」
「違うよ。梅流のお兄さんじゃない」 話に割って入ったのは、さっきまで紅光と手合わせしていた蔵馬。 対照的に、蔵馬は無傷。
「じゃあ、母さんの兄さんたち、何処に居るんだよ?」 最後に会ったのは、結婚した時。 ましてや、妹からの連絡が何年も途切れているのだ。
「行ってみる?」 「そう……じゃあ、明日辺り、出発しようか」
長居……というほどではないが、これ以上此処にいては、どんどん名残惜しくなるばかりである。 碧と紅光の剣の力量も見定め、魔法の種類も把握。 そろそろ、潮時だろう。 蔵馬が各国への手紙を書き始めた時点で、察していた。
「「碧兄ちゃん、ピカお兄ちゃん……」」 年下の双子が寂しそうな瞳で見上げてきた。
「「また会えるよ」」 そう言ってやることしか出来なかった。
*注意事項* 本来、モンスターボックスはこのようには使いません。
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