会う 

 

 

<11 解けた封印>

 

 

 

 天空への塔を急いで降り、船に戻ってすぐ、再び紅光のルーラを発動。
 グランバニアを出発して何日目かに泊まった宿屋に到着した。

 追っ手のことも考えなかったわけではないが、この宿屋は所謂「裏の仕事」をしている者たちも多く泊まる場所。
 主人はちゃんと己のことを弁えた上で、客人を迎えていた。

 すぐにでも出発したかったが、流石に強行軍となるため、そこで一泊。
 翌朝から、再び船に乗った。

 

 

「兄さん」
「何だ、碧」

「聞こえた声って、どんなのだった?」
「あ、ぼくも知りたい!」

 ドタバタしていたため、紅光から掻い摘んだ説明しか受けていない碧たち。
 ようやっと航海に出て落ちついたため、改めて食らいついたのだった。

 

 

 

 ……あの声はやはり緋の目を持つ、紅光にしか聞こえていなかった。

 リオにも聞いてみたが、彼女が聞こえたのは、モンスターの声だけ。
 他の声は一切聞こえなかったそうだ。

 

「緋の目にそんな力があるとはな」

 銀色もそれは知らなかったらしく、いたく感心していた。
 同時に、姉が攫われたのも緋の目が原因だったのではと察し、

「紅光。必要以外、絶対に緋の目になるな。いいな」
「分かりました」

 感情の起伏の際には仕方ないが、それ以外はなるべく控えろと言いたいのだろう。
 もしも、紅光のことを知られれば、魔王に狙われる可能性もある。

 

 

 

「そうだな……人間らしくなかったけれど、モンスターとも違っていたな。不思議な声だった」
「へえ、俺も聞いてみたかったな」
「ぼくもー!」

「2人だって、御祖母様と同じ家系だろう。そのうち聞こえるかもしれないさ」

 苦笑気味に言うと、ちらりとリオを見た。
 緋の目にはなっていないけれど、何となく言いたいことが分かったのだろう。

 リオは立ち上がって、狐鈴の着物の裾を引っ張った。

 

 

「え? リオ、なに?」

 引っ張られるままに、船室へと消える狐鈴。
 銀色は舵をとっている。

 紅光と碧。
 兄弟2人だけとなった。

 

 

 

 

「碧」
「何?」

「父さんって、どんな人だろうな」

 手すりから身を乗り出し、水平線を見つめながら言う紅光。

「さあね……皆が言うように『イイ性格』なんじゃないの?」

 ぴょんっと飛んで、手すりに腰掛けながら、碧は答えた。

 

 

「そうだな。そう聞かされてたって言った時、銀色さんも全く嫌な顔しなかった」
「むしろ、ものすごく納得してたじゃん」

「そうだったな。やはり『イイ性格』が有力候補か」
「だって、あの銀色の甥でしょ? 普通な方が変だよ」

「碧……甥であると同時に、私たちの父親だぞ」
「だから、尚更」

「…………」
「言い返さないのか?」

「いや……説得力が在りすぎるのも問題だな」
「うわ、ひど」

 言ってから、兄弟は笑いあった。

 

 

 

 ずっと探してた。

 ずっとずっと会いたかった。

 

 それは決して綺麗な感情だけじゃない。

 母・梅流に対する想いとは違う。
 まだ見ぬ母への想いは、とてもあったかくて、護りたい気持ちだけれど。

 

 

 蔵馬へのソレは、違っている。

 会っていないのに、ずっと背中を向けられている気分だった。
 そう、大きな背中を。

 まるで超えさせまいとする、壁のように。

 

 けど……ものすごく嫌いな感じではない。

 居心地悪い気持ちの反面、それを心から望んでいる。

 

 

 碧たちは気づいていない。

 それが「普通」の感情であることを。

 男同士の兄弟が、生まれながらのライバルであるように。
 父は、息子にとって、永遠の超えたい壁なのだから。

 

 

 

 

「会ったら、まずどうする?」
「ひとまず一発」

「いきなり?」
「出だしで転けると、後々引きずりそう」

「なるほど。頑張れ」
「兄さんはやらないのか?」

「見極めてから…だな」
「ふ〜ん。俺、そういうのメンドい」

「言うと思った」

 

 笑いながら、己の身体を見下ろす紅光。

 流石に女装した姿で会いたくなくて、船に乗ってから、着替えた。
 とはいえ、どうせまた着替えるハメになるだろうけど。

 せめて一発目だけでも……。

 

 

 

 

 

 ……しかし、その後、紅光と碧は2人して、大きなショックを受けることになる。

 

 『声』の通りに、とある富豪の庭先で銅像になっていた父・蔵馬。

 紅光の呪文でその封印は驚くほどすんなりと解け、何年かぶりに会うというのに、蔵馬はあっさり自分たちを子供と認めてくれたけれど。

 問題はその後。

 

 問答無用で斬りかかった碧は、あえなく敗退。
 しかも、明らかに手加減された上で、だった。

「しつけがなってないね。一体、誰に似たのだか」
「……あんたじゃないの」
「かもね。でも、いきなり斬りかかる趣味はないけどなあ」

 ……思いっきり楽しそうに笑われた。
 皮肉ってくれれば、むしろいい。
 楽しそうだから、尚更腹が立った。

 

 

 紅光に至っては、肝心のリボンを外し忘れていて、

「……いつから女装が趣味に?」

 と、首をひねられた。
 しかし口元は笑っており、全てお見通しという様。

 

 

 

 ……壁の高さと『イイ性格』の意味を、嫌と言うほど味わった再会劇。

 結局、父を超える日は遠すぎることを痛感した2人であった……。

 

 

 第四章 終わり

 

 

 

 

 

 *後書*

 え〜っと、ドラクエのゲームでは、ここまでの全て、プレイヤーである主人公が旅します。
 お間違えのないように!

 ひとまず、お父さんとの再会は果たせた碧くんたち。
 次はお母さん探して、レッツゴー!!

 ……また、順番が狂うとは思いますが(汗)