会う
<11 解けた封印>
天空への塔を急いで降り、船に戻ってすぐ、再び紅光のルーラを発動。 追っ手のことも考えなかったわけではないが、この宿屋は所謂「裏の仕事」をしている者たちも多く泊まる場所。 すぐにでも出発したかったが、流石に強行軍となるため、そこで一泊。
「兄さん」 「聞こえた声って、どんなのだった?」 ドタバタしていたため、紅光から掻い摘んだ説明しか受けていない碧たち。
……あの声はやはり緋の目を持つ、紅光にしか聞こえていなかった。 リオにも聞いてみたが、彼女が聞こえたのは、モンスターの声だけ。
「緋の目にそんな力があるとはな」 銀色もそれは知らなかったらしく、いたく感心していた。 「紅光。必要以外、絶対に緋の目になるな。いいな」 感情の起伏の際には仕方ないが、それ以外はなるべく控えろと言いたいのだろう。
「そうだな……人間らしくなかったけれど、モンスターとも違っていたな。不思議な声だった」 「2人だって、御祖母様と同じ家系だろう。そのうち聞こえるかもしれないさ」 苦笑気味に言うと、ちらりとリオを見た。 リオは立ち上がって、狐鈴の着物の裾を引っ張った。
「え? リオ、なに?」 引っ張られるままに、船室へと消える狐鈴。 紅光と碧。
「碧」 「父さんって、どんな人だろうな」 手すりから身を乗り出し、水平線を見つめながら言う紅光。 「さあね……皆が言うように『イイ性格』なんじゃないの?」 ぴょんっと飛んで、手すりに腰掛けながら、碧は答えた。
「そうだな。そう聞かされてたって言った時、銀色さんも全く嫌な顔しなかった」 「そうだったな。やはり『イイ性格』が有力候補か」 「碧……甥であると同時に、私たちの父親だぞ」 「…………」 「いや……説得力が在りすぎるのも問題だな」 言ってから、兄弟は笑いあった。
ずっと探してた。 ずっとずっと会いたかった。
それは決して綺麗な感情だけじゃない。 母・梅流に対する想いとは違う。
蔵馬へのソレは、違っている。 会っていないのに、ずっと背中を向けられている気分だった。 まるで超えさせまいとする、壁のように。
けど……ものすごく嫌いな感じではない。 居心地悪い気持ちの反面、それを心から望んでいる。
碧たちは気づいていない。 それが「普通」の感情であることを。 男同士の兄弟が、生まれながらのライバルであるように。
「会ったら、まずどうする?」 「いきなり?」 「なるほど。頑張れ」 「見極めてから…だな」 「言うと思った」
笑いながら、己の身体を見下ろす紅光。 流石に女装した姿で会いたくなくて、船に乗ってから、着替えた。 せめて一発目だけでも……。
……しかし、その後、紅光と碧は2人して、大きなショックを受けることになる。
『声』の通りに、とある富豪の庭先で銅像になっていた父・蔵馬。 紅光の呪文でその封印は驚くほどすんなりと解け、何年かぶりに会うというのに、蔵馬はあっさり自分たちを子供と認めてくれたけれど。 問題はその後。
問答無用で斬りかかった碧は、あえなく敗退。 「しつけがなってないね。一体、誰に似たのだか」 ……思いっきり楽しそうに笑われた。
紅光に至っては、肝心のリボンを外し忘れていて、 「……いつから女装が趣味に?」 と、首をひねられた。
……壁の高さと『イイ性格』の意味を、嫌と言うほど味わった再会劇。 結局、父を超える日は遠すぎることを痛感した2人であった……。
第四章 終わり
*後書* え〜っと、ドラクエのゲームでは、ここまでの全て、プレイヤーである主人公が旅します。 ひとまず、お父さんとの再会は果たせた碧くんたち。 ……また、順番が狂うとは思いますが(汗)
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