会う 

 

 

<10 聞こえた声>

 

 

 

「……こえた……」

「え?」

 

「聞こえた……分かった……父さんの居場所!!」

「「「なにっ!!?」」」

 

 

 

 

 ……魔法の絨毯に乗って。
 絶壁は上がれたけれど。
 セントベレス山は登れなかった。

 吹き上げる風が半端でないため、絨毯ではどうしても強度が足りないのだ。
 途中で破れてしまっては、落ちるだけではすまない。
 多分、一気にあの世行き……それは、やっぱり避けたかった。

 

 

 エルヘブンで別の情報を手に入れていたこともあり、そちらを優先させることにしたのだ。
 天空界と魔界では真逆に思えるけれど、どちらも門で繋がっているならば、何かしらの情報があるかもしれない。

 幸い、天空への塔とやらは、セントベレス山の麓から南下した場所にあり、絨毯でも行ける場所。
 外壁に沿って上ることも考えたが、もし途中で風が吹きつけでもしたら、この高さではやはり一巻の終わり。

 

 もう誰も居ないのか、朽ち果ててはいるけれど、何とか階段が残っていた。
 手間はかかるが、これくらいでは疲れのうちにも入らない。

 時折出てくるモンスターを蹴散らしながら、全員で頂上を目指した。

 

「こういうところって、物語だとてっぺんにボスとかがいたりするんだけどな」
「問題ない。薬草も毒消し草も山ほど持っている」

 鬱陶しいながら、エルヘブンでは買い物もすませていた銀色。

 旅することと、私情で苛立つことは、全く別物。
 やはり、彼は大人だった。

 

 

 

「だが、おそらく、此処には何もいまい」
「そう?」
「悪しき気配がない。せいぜいがさっきから来るような雑魚だ」
「そういえば……」

 上を目指せば目指すほど、空気が薄くなっているのは分かる。
 だが、同時に何処か清らかでもあった。

 景色が綺麗なのもある。
 遺跡独特の雰囲気もある。

 けれど、それだけではない気もしていた。

 

 そして、それは当たった。

 

 

 

 

「なっ……」
「……人?」
「ふは〜……」
「…………」

 頂上で5人が見たもの。
 それは、ラスボスでもなければ、中ボスでもない。

 真っ白い羽をはやした、天使のような人物。

 敵を惑わすための偽装ならば、銀色が見抜いているはず。
 何も言わないということは、これが彼の真実の姿なのだろう。

 つまり……天空界の住人・天空人ということになる。

 

【……よく来ましたね。『伝説の勇者』よ……】
「……どうも」

 見下ろす構図は仕方がないけれど、彼にはエルヘブンの長老たちのような見下すような雰囲気はない。
 ちょっと遠い存在のような感じはするけれど、嫌なものではなかった。

 その感じの正体にも、間もなく気づいた。
 彼は多分……此処にはいない人だから。

 

 

 

「あのさ。此処に、天空界に繋がるなんかは、ないの?」

 まどろっこしいことをするのは面倒。
 単刀直入、聞いてみることにした。

 

 羽の生えた彼は、特に気分を害したふうもなく、しかし何処か切なそうに、

【この先には……かつて、天空界へ繋がる天空城がありました。けれど……ある日、湖に落下。行方知れずとなったのです】
「……じゃあ、此処には何も残ってない…とか?」

 冗談ではない。
 それだけは止めて欲しかった。

 そうならば、何のためにエルヘブンになんか行ったのだか、分からないではないか。

 

 まあ……何かがありそうな城が、湖に落ちた、という情報が手に入ったともいえるけど。

 幸運にも、手がかりは他にもあった。

 

 

 

【残っているのは、これだけです】

 すっと彼が差し出したのは、一本の杖。

「何? これ」
【マグマの杖です。天空城が落ちた湖の近くは、高く険しい山が多く、閉鎖的な所と聞きますから……何かの役に立つでしょう】
「そう……」

 杖よりむしろ、「高く険しい山が多くて、閉鎖的」という言葉の方が、有力な情報だった。
 ついこの間、そういう所に行ってきたばかりである。

 

 社から南には湖も見えた。
 城が落ちるとなれば、相当大きな湖のはず。

 第一候補があそこというのは、何とも皮肉な話だ。

 

 ちらっと銀色を見ると、「また行くのか…」と言わんばかりに、嫌そうな顔。
 しかし、見なかったことにした。

 まだ自分たちだけでは……行けないだろうから。

 

 

 

【では、私はこれで……】

「あ、ちょっと待って……うわっ!!」

 杖から手を離した途端、天空人の彼の姿が薄くなり、消える瞬間、強い風が吹いた。
 リオ以外の全員、長いマントをつけているから、酷く煽られる。

 

「掴まれ!!」

 銀色に叫ばれ、子供たちが銀色の後ろに隠れる。
 身体が大きく長髪である分、彼が一番強い風を受けているはずなのに、やはり銀色は強かった。

 

「くっ! 髪を束ねてくれば良かった!」
「兄さん、目が赤いよ……」

 辺鄙なところで女装しなくていいと、髪の毛を下ろしたのが、紅光の運の尽きだったようである。

 

 

 

 ……その時だった。

 

≪ピカくん!! 何か聞こえない!?≫

「え……?」

 

 リオの言葉に、紅光が耳をすます。
 強い風で何も聞こえない……

 いや、違う。
 風の中に、何かが聞こえた。

 

 それは、リオの声に似ているものもあったし、似ていないものもあった。
 あらゆる声が聞こえた。

 緋の目になっているからだと、少ししてから気づいた。
 そして、天空城なくとも、やはりここが特別な場所であることも……。

 

 

(世界中の……声なき声が届いているのか?)

 思っていた以上に、緋の目というのは、可能性を秘めたものらしい。

 

 

 

 ……その数多の声の中に。

 

 あった。

 

 

 

【ねえ、見て】
【なあに? 銅像?】

【違うよ。ヒトは気づかないだけ。あれは、ヒトだよ】

【ヒトなの?】
【ヒトだよ。あれは、グランバニアの王様だよ】

 

「!!??」

 

 誰の声なのかは、分からない。
 子供っぽい、でも人間らしさを感じさせない声。
 モンスターではない。
 リオの声とは違うから。

 しかし、聞こえてきた方角は分かる。
 そして不思議と、距離まで分かった。

 

 グランバニアより東南に位置する小島。
 そこから聞こえてくる。

 

 

 

「聞こえた……分かった……父さんの居場所!!」

 

 何よりの情報を得た一同からは、歓喜の悲鳴が上がった。