会う
<10 聞こえた声>
「……こえた……」 「え?」
「聞こえた……分かった……父さんの居場所!!」 「「「なにっ!!?」」」
……魔法の絨毯に乗って。 吹き上げる風が半端でないため、絨毯ではどうしても強度が足りないのだ。
エルヘブンで別の情報を手に入れていたこともあり、そちらを優先させることにしたのだ。 幸い、天空への塔とやらは、セントベレス山の麓から南下した場所にあり、絨毯でも行ける場所。
もう誰も居ないのか、朽ち果ててはいるけれど、何とか階段が残っていた。 時折出てくるモンスターを蹴散らしながら、全員で頂上を目指した。
「こういうところって、物語だとてっぺんにボスとかがいたりするんだけどな」 鬱陶しいながら、エルヘブンでは買い物もすませていた銀色。 旅することと、私情で苛立つことは、全く別物。
「だが、おそらく、此処には何もいまい」 上を目指せば目指すほど、空気が薄くなっているのは分かる。 景色が綺麗なのもある。 けれど、それだけではない気もしていた。
そして、それは当たった。
「なっ……」 頂上で5人が見たもの。 真っ白い羽をはやした、天使のような人物。 敵を惑わすための偽装ならば、銀色が見抜いているはず。 つまり……天空界の住人・天空人ということになる。
【……よく来ましたね。『伝説の勇者』よ……】 見下ろす構図は仕方がないけれど、彼にはエルヘブンの長老たちのような見下すような雰囲気はない。 その感じの正体にも、間もなく気づいた。
「あのさ。此処に、天空界に繋がるなんかは、ないの?」 まどろっこしいことをするのは面倒。
羽の生えた彼は、特に気分を害したふうもなく、しかし何処か切なそうに、 【この先には……かつて、天空界へ繋がる天空城がありました。けれど……ある日、湖に落下。行方知れずとなったのです】 冗談ではない。 そうならば、何のためにエルヘブンになんか行ったのだか、分からないではないか。
まあ……何かがありそうな城が、湖に落ちた、という情報が手に入ったともいえるけど。 幸運にも、手がかりは他にもあった。
【残っているのは、これだけです】 すっと彼が差し出したのは、一本の杖。 「何? これ」 杖よりむしろ、「高く険しい山が多くて、閉鎖的」という言葉の方が、有力な情報だった。
社から南には湖も見えた。 第一候補があそこというのは、何とも皮肉な話だ。
ちらっと銀色を見ると、「また行くのか…」と言わんばかりに、嫌そうな顔。 まだ自分たちだけでは……行けないだろうから。
【では、私はこれで……】 「あ、ちょっと待って……うわっ!!」 杖から手を離した途端、天空人の彼の姿が薄くなり、消える瞬間、強い風が吹いた。
「掴まれ!!」 銀色に叫ばれ、子供たちが銀色の後ろに隠れる。
「くっ! 髪を束ねてくれば良かった!」 辺鄙なところで女装しなくていいと、髪の毛を下ろしたのが、紅光の運の尽きだったようである。
……その時だった。
≪ピカくん!! 何か聞こえない!?≫ 「え……?」
リオの言葉に、紅光が耳をすます。 いや、違う。
それは、リオの声に似ているものもあったし、似ていないものもあった。 緋の目になっているからだと、少ししてから気づいた。
(世界中の……声なき声が届いているのか?) 思っていた以上に、緋の目というのは、可能性を秘めたものらしい。
……その数多の声の中に。
あった。
【ねえ、見て】 【違うよ。ヒトは気づかないだけ。あれは、ヒトだよ】 【ヒトなの?】
「!!??」
誰の声なのかは、分からない。 しかし、聞こえてきた方角は分かる。
グランバニアより東南に位置する小島。
「聞こえた……分かった……父さんの居場所!!」
何よりの情報を得た一同からは、歓喜の悲鳴が上がった。
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