番外編
〜ひとときの安らぎ〜
「だから、この家宝が、それを終わらせられるかもしれないのよ」 お母さんの明るい声に、ぱっと顔を上げた。
「本当!? どうして!?」 やっと分かった。 碧兄ちゃんが世界を救ってくれたら。 狐鈴もお父さんも、旅を続ける必要はなくなるんだ!! いつも一緒にいられるんだ!!
「最もそう簡単にはいかないだろうがな」 一呼吸おいて、お父さんは言った。
「例え、旅に出られるようになっても、薔薇と梅流の探索が優先されるだろう。まあ、あいつらの行方不明に闇の世界が絡んでいるなら、一石二鳥だがな」 狐鈴を狙っているやつらは、『高貴な身分の男の子』を探している。
「いいところに気づいたな、狐白」 言いながら、お父さんもその可能性には気づいていたみたい。 「だが、グランバニア国内でも不穏な動きがあったらしいからな。闇の世界の単独犯だと、確信は持てないのが現状だ」
どっちにしたって、わたしだって薔薇さんや梅流さんが心配だ。 息子のピカお兄ちゃんや碧兄ちゃんは、もっともっとだろう。
狐鈴とお父さんが傍にいてくれたら嬉しい。
「ね、狐白」 お父さんのお話が終わって。 此処には、結界がある。 でも今夜は何もない。
「なあに、狐鈴」 ごくんっと息を呑んで、言った。
「今度は一緒に旅しよう」 びっくりした。
「あのね。狐白は、外の世界が危ないって……怖いところだって思ってるかもしれないけど。でも、それだけじゃないんだ。すっごく楽しいことも、いっぱいあるんだよ!」 「本当?」
……狐鈴の話は、すごかった。 すごいとしか言いようがなかった。 同時に、すごく心惹かれた。 だって、危ないことや悲しいことは嫌いだけれど。
「だからね! 悪いモンスターから身を隠してるってこと以外は、毎日が新鮮で楽しいことで、いっぱいなんだ! それに、お父さんも一緒だから、あんまり危ないとか怖いとか思ったことないしね」 外の世界。 お屋敷での生活が嫌なわけじゃないけれど。
そう考えたら…… 旅をする方が、ずっと楽しいのかもしれない。
「わたしも一緒にいけないかな〜」 ちょっと難しそうな顔で、狐鈴は言った。 「今はぼくと2人旅が精一杯だって。ぼくみたいなのが、もう1人いたら、ちょっと厳しいんだって」
「もっと大きくなったら、出来ないこともないけどって」 「すごい! すごいよ、狐鈴!!」 すごいなんてもんじゃない!!
「お父さんに比べたら、まだまだだけどね」 そう言って……わたしは、決めた。
わたしも強くなろうって。 いつか、旅に出る、その日までに。
わたしが強くなったら、お母さんも一緒に、4人で旅に出たい。 その頃には、世界も平和になって、お父さんも盗賊じゃなくなっているはずだ。
だから、頑張る。 皆で、ドキドキして、わくわくして。
いっぱいいっぱい笑えるように。
……そして、3日後。 お父さんと狐白は、予定通り、家宝を持って旅立っていった。 決意を新たにした、わたしの手の中には、一房の髪の毛。
これは、2人の約束のあかし。 だんだん見えなくなっていく背中を見つめながら、ぎゅっと握りしめた。
終わり
*後書き* 連続で間章でした。 次章は本編へ戻って、第4章へ。 視点が梅流さんから、息子の碧くんたちに移動する上、ストーリーの順番がかなり変わる予定……。
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