番外編

 

〜ひとときの安らぎ〜

 

 

 

 わたしの名前は、狐白(こはく)。

 

 白狐の末裔のお母さんと、銀狐の生き残りであるお父さんから生まれた、ハーフ。

 でも、見た目は白狐に近いみたい。
 白狐と銀狐の違いは、わたしにはよく分からないけど、髪の色や獣耳・しっぽの色が、お母さんのに似ているから。
 お母さんよりも、ほんのちょっと銀色が強いみたいだけれど。

 それでも、お父さんの銀の輝きには勝てない。
 本当に、降り積もった雪に満月の月明かりが差し込んだような色をしている。
 とても敵わない。

 私も……双子の兄の狐鈴も。

 

 

 けれど、そのことを実感することは、一年の内、ほんの一時だけ。

 今日はその限られた日なんだ。

 

 

 

 

 

「まだかな、まだかな」
「狐白。あんまりはしゃぐと転んじゃうよ」

 後ろからお母さんが言うけれど、わたしの興奮は収まらない。
 雪の上を、ぽんぽんっとはね回りながら、行ったり来たりしている。

 でもでも、それくらい楽しみなんだ。

 

 だって、莉斗兄ちゃんが言ってた。
 ポートセルミに行った時、お父さんに会ったって。

 それで、「近いうちに帰る」って言ってたって!

 こんなに約束がはっきりしていることなんて、滅多にないんだもん!

 

 今日は約束の十六夜の日。
 といっても、今は昼間だけど。
 何時頃とは聞いていないから、朝からずっと待っている。
 お母さんも。

 

 

「……あ! 見えた!」

 街の門に上っていたら、遠くにちらっと影が見えた。
 真っ白い雪の中でも、一際輝く銀色。
 今日は曇っているから、尚更だ。

 珍しく徒歩ではなく、馬に乗っている。
 だから、その影はすぐに大きくなってきた。

 

「お父さん! 狐鈴!!」

 わたしは真っ直ぐに駆けだした。
 最愛のお父さんと、最愛のお兄ちゃんの元へ。

 

 

 

「狐白!」
「久しぶりだね、狐鈴!」

 馬上まで一気にジャンプして、狐鈴に抱きついた。
 久しぶりの狐鈴は、とってもあったかかった。

 

 わたしの半身。
 もうひとりのわたし。

 やっと会えた。

 

 

 

「元気そうだな、狐白」
「うん! お父さんも元気でよかった!」

 見上げたお父さんも、いつものお父さんだ。
 前に帰ってきた時は、包帯巻いてたけれど、今日は何もない。
 元気でよかった。

 

「蔵馬、狐鈴。お帰りなさい」

 気づいたら、お母さんが来ていた。
 お父さんがわたしたちを残して、馬から下りる。

 手綱はもちろん持ってくれている。
 狐鈴はもしかしたら乗れるのかもしれないけれど、わたしはまだ1人で馬に乗れないから。

 

「瑪瑠。久しぶり。変わりはないか?」
「ええ。蔵馬も狐鈴も元気そうで、本当によかった」

 お母さんは、ほうっと溜息をついてる。
 やっぱりわたしと同じ気持ちだったんだよね。

 

 

 

 お父さんと狐鈴は、二人で世界中を旅してるから。
 決して安全とはいえないから。
 街で暮らしているわたしたちとは、比べものにならないくらい、危ない目にあうこともあるから。

 ……仕方のないことだけれど、でも心配だよね。

 

 

 

 

 

「狐鈴? 寝ちゃったの?」

 お屋敷に戻って、庭でひとしきり遊んだ頃、お母さんの膝から寝息が聞こえた。

 外は流石に上着がいるけれど、お屋敷の中庭は結界もあって、ほんのりあったかい。
 お気に入りのお揃いのお洋服、まだ着られてよかった。
 でも、次に会う時には……仕立て直さないと、ダメかも。

 そう思うと、ちょっとだけ寂しかった。

 

 

「疲れているのよ。狐白、しぃー」
「はあ〜い」

 そうだよね。
 毎日あちこち歩き回って(今回は馬だったけれど)、疲れないはずないよね。

 

「お父さん。今回はどれくらい居られるの?」

 期待を込めて言ってみたけれど、

「長くて3日だな」
「……そっか」

 

 たった3日だけ。
 次はいつ会えるかも分からないのに……。

 狐鈴、起きないかな。
 もっともっと話したい…よ……。

 

 

「狐白? 貴女も眠たいんじゃない?」
「へい…き……」

 そう言ったけれど。
 睡魔はどんどん強くなってくる。
 そういえば、朝から全然お昼寝してなかった。
 狐鈴たちが来るまで、夜明けから待ってたから。

(ねむ…い……)

 狐鈴が起きた時に、わたしが眠くちゃ遊べない。
 わたしはそのままお母さんの膝に倒れ込むように、眠りについた。

 

 

 

 

 ……目が覚めたのは、もう夜になっていた。
 身体を起こすと、隣で眠っていた狐鈴もぱっちり目を開けた。

「起きた?」
「うん、起きた」

 ぴょんっと二人一緒にベッドから降りると、わたしたちの寝室と続いているお母さんたちの寝室へ。
 といっても、お父さんと狐鈴が普段いないから、お母さんはいつもわたしと一緒に、わたしと狐鈴の部屋で寝ているけれど。

 

 

「起きたのか」
「うん。あれ? お母さん、それ……」

 わたしが指さしたのは、テーブルの上に置かれた大きな箱。
 中身は知っている。
 家宝だからって、わたしもなかなか触らせてもらえないものだ。

 

「どうするの? それ」
「蔵馬がね。持っていくから、準備しようと思って」
「? 持っていく? 何処に?」

 お父さんとお母さん、それに狐鈴を交互に見た。
 狐鈴も事情知ってるみたい。

 ずるい。
 わたしだけ知らないなんて、嫌だ。

 

「狐白。ぼくが知ってるのは、ずっとお父さんと一緒にいたからだよ?」

 苦笑気味に言われて、そういえばそっかと、少し恥ずかしくなった。

 

 

 

「狐白にも隠すつもりはない。元より、話しておかなければならないことかもしれんしな」

 そう言って、お父さんは話してくれた。