<11 勇者の真実>

 

 

 

「もう…もう、やめてーっ!!」

 叫んで梅流は駆けだした。
 全く動かなかった体が、動いた。

 

 

 

 ……蔵馬は来た。

 梅流の下へ。

 体のあちこちから血の流しながら。
 一緒にいたモンスターたちも、ボロボロだった。

 それでも梅流の無事をみとめて、皆ほっとした様子だった。

 

 梅流は涙が止まらなかった。
 自分のために。

 皆がこんな酷い目に……。

 

 

 声を絞り出して、罠だと告げる。
 だが、蔵馬は分かっていたようで、さして驚いた様子は見せなかった。

 むしろ……目の前にいるモンスターに、目を瞠った。

 

 忘れるわけがない。

 父を殺したモンスターの1匹なのだから。

 

 ほとんど反射的に攻撃をする。
 モンスターたちも疲労を忘れ、飛びかかっていった。

 

 

 

 だが……、

「ぐはっ!」

 父の形見である刀も、モンスターたちのどんな攻撃も、ジャミには効かなかった。
 刀を突き立て、真実を見抜く。
 何かバリアのようなもので護られていた。

 突破しようと、あらゆる呪文を投げかけるが、全く効果がない。
 なのに、向こうの攻撃は嫌と言うほど、蔵馬たちにダメージを与え続けた。

 

 見ている前でボロボロになってゆく蔵馬たち。
 自分のためなのに。

 ジャミを恨む気持ちよりも、動けずにいる自分が情けなかった。

 

 何より……蔵馬を失うかもしれない。

 そう思うと、体の奥が凍りつく。

 

 

 

「もう…もう、やめてーっ!!」

 叫んで梅流は駆けだした。
 全く動かなかった体が、動いた。

 蔵馬に繰り出された魔法を体を張って、受け止める。

 

「梅流! よせ!」

 叫ぶ声が聞こえたが、止めなかった。
 止められるわけがない。

 

 

「蔵馬は……私が護る!!」

 幼い日には果たせなかった。
 きっと強くなってみせると誓った。

 絶対に……護るんだと。

 

 

 

 瞬間、梅流の体から光が溢れた。

「えっ……何?」

 碧いそれは、梅流の全身からふわりふわりと立ち上る。
 これが蔵馬の言っていたオーラだろうか?

 すごく綺麗だった。

 

「! あっ……」

 見上げると、先ほどまで余裕をひけらかしていたジャミが、呆然としている。
 そして気づいた。

 

「蔵馬! ジャミのバリアがなくなってる!!」
「! よし、行こう、皆!!」

 蔵馬の掛け声に、モンスターたちも再び立ち上がる。
 梅流も武器はないが、魔法を連発した。

 どんな時でも、攻撃魔法を使う時には心が痛む。
 例え相手がどんなに大悪人であっても。

 けれど、今は。

 

「蔵馬のお父さんの……仇だっ!!」

 

 

 

 

 

 そうして、蔵馬の刀が急所を貫き。
 ジャミは霧散して、消えた。

「やっ…た……の?」

 呆然としながら、そう呟く梅流。
 蔵馬も息を荒くしながら、床まで突き刺さった刀を抜いた。

 お互い顔を見合わせようとした……その時だった。

 

 

 

「くっくっく……」

「「!!?」」

 何処からともなく、不気味な笑い声が響いた。

 

「まさかこんなところにいたとはねえ……伝説の勇者の子孫よ」

 声につられ、見上げた状態で……蔵馬と梅流は動けなくなった。
 ジャミの時とは違う。
 声も出ない。
 しかも、その力の差も明らかだった。

 

 爆音と共に現れたのは、圧倒的な威圧感を持つモンスター。
 同時に、仲間のモンスターたちが塔外へ吹き飛ばされる。

(あっ!!)

 心の中で叫んだが、皆遙か彼方へ飛んでいってしまった。
 皆、ボロボロではあったが、ルーラで慣れているから、大丈夫だとは思うけれど……。

 

 しかし、今はむしろ自分たちの方が危険であることに、すぐに気づいた。
 モンスターはすぐ眼前に舞い降り、そしてジロジロとこちらを睨んでくる。
 ゲマと名乗ったそいつの正体も、梅流はすぐに分かった。

 蔵馬の父の……一番の仇。

 それを目の前にしながら、動けないなんてっ!!

 

 

 

「ミルドラース様の予言によれば、新たな勇者は『高貴な身分にある男子』と言われていたけれど……今までいくら攫っても、見つからなかったはず。まだ生まれてもいなかったとはねえ」
(攫った? 生まれてない? 何のこと? 勇者の子孫って誰?)

 混乱しながらも、梅流の耳はソレを聞いた。
 そして、蔵馬も。

 

「娘よ。勇者の子孫の力、しかと見た。グランバニア王の妻とあらば、まず間違いないでしょう。新たな勇者は、貴様の息子」

((!!?))

 

 ずっと……ずっと蔵馬が探し求めていた、勇者。

 天空の剣を使い、鎧を身につけ、兜をかぶり、盾を構える。

 そして、蔵馬の母を救い出すことが出来る、唯一の存在。

 

 それがまさか……自分たちの子供だったなんて。

 

 

 

「くっくっく……ここで、貴様らを殺しておけば、勇者は生まれないでしょうが……それも面白くない」

 ゲマの瞳から光線が見えたのを最後に、梅流の視界は真っ暗になった。

 

「その姿で世界の終わりをゆっくり眺めていなさい……」

 最後に聞こえたのは、そんなゲマの笑い声だった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうされたのでしょう、王様も王妃様も……」

 シスターの1人が心配そうに言って、窓から空を眺めた。

 眠らされたのは、梅流たちだけでなく、城中全員だった。
 蔵馬が目覚めたのをきっかけに、皆回復し、早速王妃捜索に当たってくれた。

 

 本来ならば、蔵馬は城で待機すべきだったのだろうが……罠と知りつつ、向かったのだ。

 我が子たちを、城の皆、そしてリオをはじめとする残ったモンスターに託して。
 もちろん彼らは、ついていくと言わんばかりの気迫だったが、留守が心配だと諭されると、しぶしぶ残ることを承諾した。

 ……先ほどから、ずっと落ちつきなく、部屋の中を行ったり来たりしているけれど。

 

 

「「あ〜あ〜」」

「ああ、ぼっちゃまたち。心配いりませんよ。お父様もお母様もすぐに戻られますわ」

 急に火が付いたように泣き出した双子を、シスターたちは必死にあやした。
 なかなか泣き止まないことを、不思議に思いながらも。

 

 ……傍らで、蔵馬が残していった天空の剣が、悲しい光を放っていた。

 

 

 

 

 

 第3章 終

 

 

 

 

 *後書*

 3章は子供が生まれて、石にされるところまでいきました。
 実際には、ピカくんと碧くんは5歳違いですが、此処では双子設定なので、同い年になります。
 他の家庭の子供たちも、微妙に年齢差が変わっています。

 そして、次は番外編になる予定。
 舞台はサラボナ。
 妖狐蔵馬さんと妖狐瑪瑠さん、その子供たちのお話です。

 

 <追記>

 ……だったはずなんですが、先に別の番外編挟みました。