<10 悲劇>
……悲劇とは、何の前触れもなく訪れる。 蔵馬の父が亡くなったのも、反逆者の村としてサンタローズが滅ぼされたのも。
だが、悲劇は繰り返される。 まるで毎日を賢明に生きる人間たちをあざ笑うかのように……。
「う…ん?」 目が覚めた時、梅流は全く知らない場所にいた。 「ええ? 此処何処?」 答えは返らない。
「一体……」 起き上がろうとして……起き上がれなかった。 「なっ……」 体が動かない。 かろうじて動くのは、首から上だけ。
「く、くう……」 何とか動かそうと試みるが、やはりダメ。 古城か何かだろうか? 何だか……息が苦しい。
「そうだ……私以外には……」 まさか蔵馬や子供たちまで……と思ったけれど、どうやら梅流1人らしい。
「えっと……私どうしたんだっけ……」 必死に記憶の糸をたぐり寄せる。 確か、出産の翌日、蔵馬の即位式と宴が催された。
そうしたら、何だかウトウトしてきて…… そう。
危険が迫っている。 そこから先の記憶がない。
「おや、お目覚めかい」 ふと聞こえてきた声に、梅流ははっとしてそちらを見た。
「モンスター?」 しかし、喋っている。
「ぐふふ。わしはジャミ」 何処かで聞いたことがあるような。
「思い出した!! あんた、蔵馬のお父さんを殺したうちの1人でしょ!?」 「ああ、しかし『蔵馬』は知っておるぞ。グランバニアの王であろう。まあ、それも後数日の話じゃがな」 狼狽しながらも尋ねると、ジャミは高笑いをしながら言った。
「ヤツを殺し、わしが成り代わるからじゃ」 「そうか? そう難しくもないぞ。既に取引を交わしたからな」 既にグランバニアは、ほとんどが蔵馬の味方。
「あの男は口車に乗せやすかった。世界が闇に包まれても、お前の国だけは護ってやろうと言ったら、あっさりのってきおった。莫迦なやつよ。そのようなこと、あるはずがあるまいに」 叫んだ後、はっとした。
「大臣は……」 おそらく取引の中に、梅流の誘拐も含まれているはず。
「さあな。その辺のモンスターどもが喰っただろう」 心底分からない、と言わんばかりのジャミの前で……梅流は泣いていた。 確かに好きか嫌いかと聞かれたら、あまり好意を持っていたとは言えない。 だけど、そういう問題じゃない。
「うっうっ……ひっく……」 「全く鬱陶しい小娘じゃ。心配せんでも、もうすぐ王が来る」 「よくエサがきいておるようじゃの。既にこの塔に入った」 自分のことだと、梅流はすぐに気づいた。
「そうしたら、一緒にあの世へ送ってやるわい」 「蔵馬っ……」
来ないで。 逃げて……。
叫びたかった言葉は、ジャミによって封じられたのだった。
|