6.グランバニア
そうして、抜け出た洞窟の先に……その国はあった。 グランバニア。
ラインハットもテルパドールも、梅流にとっては驚きと感激の嵐だったけれど。 ラインハットは広々とした城下町。 しかし、グランバニアは城の中に街があった。
「買い物はひとまず後にしようか。先に謁見出来るか確認しよう」 蔵馬もやはり気になっているのだろう。 これだけの街を作り上げたのは、旅立ってしまった前王だという。 それが蔵馬なのかどうか……答えを知っているのは、おそらく今の王だけ。
だが、残念なことに、謁見は聞き入れられなかった。 これだけの規模の国では、面会状もなしには謁見は無理なのだろう。
「……蔵馬。どうしようか」 こんなところで諦めるわけにはいかない。 ここから先へ進むには、どうしても王に会わねばならないのだから。
「……とりあえず、外へ出よう。洞窟で聞いた話が本当なら、居るはずだから」 俺の昔の使用人が。
洞窟で聞いた話……それは、グランバニアを目前にした時、吟遊詩人(銀色ではない)から聞いた話である。 滅多に人が行き来しない、この洞窟を以前通ったのは、寂しそうな顔をした中年の男性。
滅んだサンタローズ。 主人もその息子もいなくなり、村も滅ぼされたなら、おそらくは国へ帰ろうとするだろう。 そして、もしも彼が蔵馬が生まれた頃、あるいは生まれる前から仕えていたのならば……この国の人間のはずだ。 二人は最後の望みをかけて、その門を叩いた。
「ぼ、坊ちゃん!?」 出逢った途端、第一声はそれだった。 「ああ……生きておられたんですね!!」 涙をぼろぼろこぼしながら、蔵馬にしがみつく様は、まるで亡くした息子が帰ってきたといわんばかりだった。
「ようも此処まで来られました! ああ、立派になられて……」 ぽんっと肩を叩くと、男はごしごしと顔を拭きながら、ようやく立ち上がった。
「本当によくぞご無事で……故郷までお帰りになられました」 蔵馬が尋ねると、男は顔を引き締め、言った。 「はい。此処が貴方様の故郷であり、貴方様の国です。旦那様は……貴方様のお父上は、この国の王だったのですよ」 予感は確信に変わった。
「ささ、こちらです」 男の案内で、蔵馬たちは城内を進む。
(……偉い人だったんだ、この人) 初めて会った時は、本当にそこらへんにいる小父さんのようだったのに。 謁見も驚くほどすんなりと通り、いよいよ王の前へ。
「おお……蔵馬殿、蔵馬殿であったか……」 王は、ラインハットの幽助の弟とも、テルパドールの躯とも雰囲気の違った男性だった。
「よくぞ、無事に帰られた……兄上は…あ、いや、父君は……いかがされた」 蔵馬は嘘偽りなく、全てを語った。
「そうか……よく、話してくれた……」 「おお、そうだ。そちらの女性は?」 話題を明るくしようとしたのだろう。 急に話題を振られたことにドギマギしながら、梅流は口を開いた。
ぐらり。
「! 梅流!」 皆の悲鳴がやけに遠く聞こえる。 こたえなければ。
(ダメだ……) どうしても言葉が出てこず、そのまま梅流の意識は闇に沈んだのだった……。
「……本当?」 「うん……」 謁見の間より上階。 自分から告げたかった真実は、残念なことに倒れた後に彼女を看たシスターによって、蔵馬に知らされてしまっていたが。 それでも蔵馬は梅流の口から聞きたいと、面会を許されてすぐに駆け込んできたのだ。
「びっくり…した」 蔵馬の様子は、今まで見たことがなかった。 蔵馬のことだから、もしかしたら感づいているのでは……とも思っていたのだけれど。
「……体調が優れないのは気づいてたけど……まさかそういうこととは思ってなかったよ……」 「謝ることないよ……気持ちは分かるから」 まだ動揺が抜けきっていないようだが、蔵馬は梅流の手を取った。
「……気を遣わせてたね。俺の方こそ、すまなかった」 そうだ。
「……あのね、蔵馬」 「私……生むことに専念しようと思うの。この子を無事に生んであげたいの。ううん、生みたいの。元気なこの子に……会いたいから」 それだけで蔵馬は分かってくれた。
「俺には、何もしてやれないけど……頑張って」 梅流は繋いだ手を力強く握った。
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