3.次なる目的地
躯に別れを告げ、蔵馬たちは再び船出した。 彼女の言ったグランバニアは、砂漠から徒歩では不可能。
それでも迷いなど無かった。 伝説の勇者の手がかりは、剣・盾・兜、そして鎧。
これから先、何を求めればと思っていたところへ、この情報。 その攫われた王妃が蔵馬の母であり、探しに出た王が父であるならば、その国に何か手がかりがあるかもしれない。
「梅流。大変だと思うけれど」 笑顔で言って、蔵馬の横に立つ梅流。 山越えが嫌なわけではない。
心配なのは……己の体調。 気のせいか、此処しばらく何となく優れないのだ。
更に、変調を察したらしい躯から貰った薬を飲むと、比較的落ちつくようになった。 が、それも毎度毎度効果が出るわけではなく、時折どうしようもない脱力感に襲われる。 海へ出てしばらくは続いていたそれも、最近は大分楽になり、薬に頼ることもなくなった。
体をこわすことではなく……蔵馬に知られることが。 隣にいたい。
気づかれなければいい。
「……すごい山だね」 見上げた山の高さに、梅流はあんぐりと口を開けた。
「とりあえず、今日はあそこの宿屋に泊まろうか」 蔵馬が指さす先に、宿屋らしき小屋があった。 いきなり山登りでなくて、正直梅流はほっとしていた。
(会いたいよね……お母さんに) 手がかりがあるならば、世界の果てへでも……そんな雰囲気に、梅流は絶対に己の不調を知られまいと、心に誓った。
翌朝。 傾斜は予想以上、壁を上るに等しい場所さえあった。 おかげで、三半規管が悲鳴を上げている。
「梅流? 大丈夫か?」 本当はかなり疲れているけれど、そんなこと口が裂けても言えるわけがない。 ……最も、この状況では疲れを訴えない方がおかしいのだけれど。
「……梅流」 ぎくりとした梅流だったが、蔵馬は予想に反して、 「俺も今日は大分疲れたよ」 と、あっさり言ったのだった。
「だから、そろそろ休まないか? あそこに洞穴があるし」 ほっとして、馬車の皆に報告する梅流。
「……嘘が下手だね」 でも、 「言ってくれるまで……待つから」 もちろん、無茶はさせないけど。
「おや、お客さんとは珍しいねえ、ニヒヒ……」 洞穴だと思って入った其処は、どうやらただの穴ではなかったらしい。 奥から出てきたのは……しわしわの老婆だった。
(こ、怖い……) 引きつった顔を、ぱしぱしと叩きながら、梅流は現実を見た。 モンスターなどの類ではなさそうだが、まさに山姥さながらの風貌。 昔、絵本で見て大泣きした鬼婆そのものだった。
「ニヒヒ……疲れたなら、泊まっていきな〜」 即答した蔵馬に、梅流は若干の頭痛を覚えた。
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