10.街へ
その後、滝の洞窟の奥深くで、目的のものは無事に見つかった。 梅流は、エルフの飲み薬を。
「綺麗な指輪だね。それに、すごく……そう、澄んだ感じがする」 「でもどうしてこれが、闇の世界との繋がりになるのかな?」 そう言って、蔵馬は慎重に指輪を袋に入れた。 梅流も大切な飲み薬を同じように、懐へしまった。
「じゃあ、帰ろうか」 「どうかした?」 そう、何でもない……はず。 考えれば考えるだけ、不安になり心配になるからと、薬を手に入れるまで、話題には出さないようにした。 薬を手に入れて、すごく安心した。 ……だから、何でもないはずなのに。
(……でも……どうして、こんなに心の中がもやもやするんだろう) 洞窟を出たくない。
「じゃあ、行こうか」 短い呪文の後、目の前が真っ白になり、そのことに驚く間もなく、別のことに驚いた。
「ええっ!!?」 白くなる直前、梅流の目の前には確かに洞窟の壁があった。 なのに、今はどうだろうか。
「く、蔵馬。一体これは……」 駆け出そうとして、梅流はぴたりと足を止めた。
「く、蔵馬……」 おそるおそる振り返ると、蔵馬は言いたいことを指したのか、ふっと微笑んで、 「待ってるよ。今は、お兄さんたちにも挨拶したいと思ってるからさ」 約束はしない。 梅流は一目散に我が家へ向かって駆けだした。
……麓の病は治った。 今までのことが嘘のように。 こんな薬があるなんて……と、村中の皆で驚いたものである。
そして、 「久しいな、蔵馬……」 3兄妹の家にて、向かい合って、にっこり微笑みあう長兄と蔵馬。
「? 汀兎兄、どうかしたの?」 (この空気に気づかないでいてくれて、ありがとう、梅流……) 内心で溜息をつきながら、妹の横顔を見つめる汀兎。 少しでも長く見つめていたかった。
「ところで、蔵馬。お前、サラボナの花婿候補らしいな」 くすくす笑う蔵馬に、麓は真面目な視線を投げかける。
「本気……なのか?」 「あ、あのね、麓兄……」 言いかけて、梅流ははっと口をつぐんだ。 慌てて両手で口をおさえるも、全員の視線が梅流に集中する。
「梅流?」 どうしようかと、おろおろする仕草に、蔵馬が吹き出す。
「梅流。お兄さんたちなら構わないよ。むしろ言ってくれても」 最後の方は、兄たちに向けた言葉だった。
「「…………」」 一度視線を交わした後、麓と汀兎は頷いた。 それに満足し、蔵馬は梅流に頷いて見せた。 黙って聞いていた兄たちは、聞き終えて、 「「……なるほどな」」 言葉と同時に、ふか〜い溜息をついた。
そこあったのは、強い確信。
ああ、もう一緒にいられないんだ……と。
「蔵馬。お前はこれからどうするんだ?」 蔵馬の言葉にあからさまに、ショックを受けながら、黙って聞いていた梅流に、麓が声をかけた。
「お前、サラボナへ行ったことはなかったな?」 驚きながらも、声は弾んでいる。
「村の皆から、買い物がないか聞いてこい」 叫んで、梅流は飛び出していった。 モンスターが徘徊する森を通らねばならないため、一番近いといっても、サラボナまでは危険な旅である。 実際には、つい数十日前に行ったばかりだから、まだ早いのだけれど。
「蔵馬」 汀兎が向けた言葉は、もちろん蔵馬だ。 梅流のことではない。
(恋敵にお膳立て、か……男だな、君は) 決して、逃げたわけではない。 ……受け入れたのだ。 梅流が未だ気づかぬ、彼女の恋心を。
「ああ」 「分かってる」
*注意* 実際には、山奥の村へルーラでは行けません。
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