第二章 新たな旅立ち
「お父さん、お母さん。おはよう。今日もいい天気だよ」 そう言って梅流が話しかけた先に、10年前、彼女を暖かく抱きしめてくれた両親の姿はない。
「今日はね、麓兄が久しぶりに食欲があるんだって。だから、今から栄養のあるもの探しに行ってくるね」 笑顔で告げ、竹で編んだカゴを手に、梅流は村の出口へかけだしていった。
1.山村での生活
……此処は、名も無き山奥の村。 温泉が湧き出ているが、そう大層な効力が得られるモノではなく、此処までやって来る労力と比べると、あまりにも観光資源としては乏しく、旅人などは稀にしかやってこない。 元々、西の山を越えた先の水門を管理するために作られたらしいが、今となってはその水門自体、開ける者はいなかった。
そんな村へ、梅流が家族と共に移り住んで、もう何年になるだろうか。 両親が身罷ったのも、随分前のこと。
少し前から、長兄の麓が具合が悪くなって以来、主な働き手となっているのは次兄の汀兎。 梅流も村で唯一の女の子として、毎日家事と仕事の両方を頑張っている。
「じゃ、いってきまーす!」 村の出口で、守番の男性に声をかけ、元気よく走り出して行く。
「梅流はすごいねえ。たった一人で、村から出られるんだから」 彼の連れ合いである中年の女性は、感嘆の息を漏らす。 「全くだ。この辺りは冒険者も来ないから、モンスターが暴れ放題だっていうのに……強い子だよ」 パイプを吹かしながら、うんうんと頷く。
「しかし、何で若い娘のあの子があんなに強いんだろうなあ。男に護ってもらうってのが、女の子だっていうのに」 見上げた先で、女性は溜息をついた。 「大切な人のため、なんだと」 ようやく気づいて、柄にもなく赤面する男性。
「……一体何処のどいつだ。その幸せもんは」 そう言いつつ、女性もまた、その『幸せ者』の顔が見てみたいなと、ひっそり思ったのだった……。
「ラリホー!」 梅流の放った攻撃補助呪文が、モンスターに向かう。 「よし、今の内だ」 木の実がいっぱい入ったカゴを拾い上げ、梅流は走った。 出来るならば、戦いたくない……傷つけたくないから。
……子供の頃とは違う。 梅流は強くなった。 それも……半端でなく。
「蔵馬……」 魔法を使う度、モンスターと戦う度に思い出すのは、10年前のあの日。
あの時、梅流はまだ、弱かった。
彼のために強くなる。 師匠はなく、独学だったが、梅流の成長は著しいものだった。 今では、たった一人でモンスターの徘徊する村の外へも出て行くし、場合によっては護衛を頼まれることさえあった。
全ては蔵馬のため。 ……もう二度と会えないかもしれないけれど。 そうせずにはいられなかったのだ。
「きっと……会えるよね……」 答えは返らない。 彼にもう一度。
そしてそれは。 10年前とは違う気持ちも秘めていた……。
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