番外編 〜雪色の出逢い〜
「は〜、寒い」 天楼の鐘を鳴らすため、屋根の上に出た瑪瑠は、思わず身体を抱きしめた。
瑪瑠は比較的、寒さに強い。 無理もない。
「雪か……お母さんたちの所には、降らないだろうな」 ふと懐かしくなり、苦笑する。 実家のサラボナはあまり雪の降らない地域だ。 雪色の景色は、初めて見た時には感動を覚えたけれど。
「元気かな。お母さんもお祖父さんも莉斗も」
瑪瑠は、サラボナの大富豪の孫娘である。 父はなく、母と祖父との3人暮らし。 莉斗は近所に住む幼馴染みの少年。
けれど、もう随分会っていない。
瑪瑠は今、海辺の修道院で修行中の身だった。 特に厳格な祖父は、『可愛い子には旅をさせろ』主義者であり、親元で大きくなることだけが正しいわけでないという思想の持ち主ゆえの判断だったのだ。
自分を思ってのことだと、瑪瑠も理解しているし、此処での生活は決して悪くはない。 サラボナでは「大富豪の孫娘」だというだけで、まだ若い瑪瑠に言い寄ってくる男は、そう珍しくなかった。
ただ……時々、無性に寂しくなってしまうのは、仕方がないことだった。
「……あれ?」 鐘を鳴らそうと、屋根の上に設置された鐘突台を見上げた時だった。 真っ白の背景に溶け込んでいるけれど……雪色のそこに、人がいた。 今日は瑪瑠の当番だ。
「誰?」 問いかけに、白い影は振り返った。 全く驚いた様子も見せずに。
「白狐か」
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