<5 侵入者?>

 

 

 

「久しぶり」
「元気だった?」

 

「「「…………」」」

 

 ドラゴンのことを教えてくれた老人に、礼を告げようと訊ねてみると。

 そこには、とてもとても意外な姿があった。

 

 くつろぐその姿に、蔵馬も、碧も、紅光も、モンスターたちも。
 呆気にとられるしかなかった。

 ふかふかの絨毯に腰を下ろし、煎れて貰ったらしいお茶を飲んでいるのは、紛れもなく銀髪と白銀の髪。
 長い尾が広がり、やけに美しかった。

 

 

 

「……何してるんだ? こんなところで」
「茶を馳走になっている」

「見れば分かる。何でこんなところにいるのか、聞いてるんだ。銀色、それに瑪瑠も」

 

 そう……城に帰り着いた蔵馬たちの眼前に存在したのは、サラボナで別れたはずの銀色。

 そして、その最愛の妻であり、サラボナで待っているはずの瑪瑠だったのだ。

 

 

 毎日がドタバタと過ぎていったため、あまり意識していなかったが、もう数ヶ月ぶりである。
 瑪瑠には、妖精の村のことを狐白に訊ねにいった際、一度会っているけれど、それもかなり前のことだ。

 年に数回しか会えないと言っていた二人が、揃って此処にいるだけでも驚きだけれど。
 のんびりした様子からして、悪報ではないだろう。

 そして、ずっと息子だけを連れていた銀色が、妻と一緒にいる。

 となれば、当然……。

 

「……ってことは、もしかしなくても……」
「あ、狐鈴と狐白なら、向こうの方で遊んでいるよ。この中には外のモンスターは入れないみたいだって言ったら、わ〜って走っていっちゃった!」

「そう……それで? 質問に答えてもらってもいいか?」

 こめかみに指を当てながら、蔵馬が問いかけると、瑪瑠はきょとんっとし、銀色はしれっとして言った。

 

 

 

「狐鈴と狐白の力が上がってきたからな。頃合いだろうと、連れて旅をしていたら、サラボナを南下した辺りで、いきなりこの城が現れた。お前たちの匂いが残っていたし、城の住人もお前たちを知っていた」
「皆のこと知ってるって伝えたら、どうぞって言ってくれたの! だから、お言葉に甘えて、待たせてもらったんだ!」

「待っていた? 何かあったのですか?」

 紅光が問いかける。
 悪報ではないが、用が全くないわけではなかったらしい。

 

「渡すものがあるの。狐白が持っているから、後で貰ってくれる?」
「ああ、それはいいけど……一体、誰がこの城を君たちの所へ運んだんだ? 俺は瑪瑠や銀色たちのことを、この城の誰かに伝えた覚えはないんだが」
「桑原のおっちゃんになら、俺、話したけど?」

 この城へ来るまでに、アレコレ聞かれた時、銀色や瑪瑠のことも軽く話した記憶は、碧にはあった。
 蔵馬はあの時、聞きつつも、洞窟を調べていたから、全部は覚えていなくても無理はない。

 外見的特徴を伝えただけでも、この夫婦と子供たちならば、ぱっと見だけでも分かるはず。
 世界中探しても、おそらくこの一家だけに限られるだろうから。

 

 

「となると、城を動かしたのは、桑原くんだったのか。――けど、どうして瑪瑠たちが近くに来ていると気づいたんだろうな……それに、瑪瑠たちのことを知っていたとして、どうして城に招き入れるように仕向けたのか……」
「さあな」

「ピンチだった?」
「ううん。お昼御飯食べてたら、急に真横に降ってきたの」

「そうか……」

 謎は多い。
 とうの桑原も、ここにはいないようだし。

 けれど……

 

 

 

「あっ! 碧兄ちゃん! ピカ兄ちゃん!」
「お帰りなさーいっ!!」

「おっ、狐白!」
「狐鈴も。元気だったか?」

 部屋に駆け込んできた白銀の少年と少女は。
 碧と紅光に抱きついた子供たち。

 以前会った時より、一回り大きくなっていた。

 

 それでも、その純粋な心だけは変わらなくて。

 大人たちも、思っていた言の葉を、しっかりと代弁してくれた。

 

「「また会えて嬉しいっ!!」」

 

 

 

 

 

「あの……蔵馬殿。少しよろしいでしょうか」

 再会のひとときを味わい、老人にも礼を告げた時だった。
 盛り上がっているところに水を差すのは……と、遠慮がちに声をかけられたのは。

「はい?」
「実は、ちょっと困った問題が……」

 話しかけてきたのは、この城の住人で。
 解放してくれた蔵馬たちに、心からの感謝を告げた一人だった。

 

「玉座の間に……見慣れない男がいるのです」
「どんな?」

 銀色たちのことは、あえて何も言わなかった彼らである。
 まあ、すぐに会えるから、サプライズも……ということだったのだろうが。

 そんな彼らが、わざわざ蔵馬に報告というか相談をしにきたからには……何かしらの厄介事と考えるのが自然だった。

 

 つまり……侵入者。

 

 

 

「その……こんな感じで、髪の毛がグルグルなっていて、上背はあるのですが、ごついというか足は短く、目は細くて、頬骨が発達しているらしく、」

「あ、その人知り合い」
「は?」

 一気に緊張感がぬけ、呆れつつ立ち上がった碧の一言に、男は首をかしげる。

「行こう。玉座の間だったな」

 紅光も立ち上がり、男の脇をすり抜けて行った。

「「あ、待って! 碧兄ちゃん! ピカ兄ちゃーん!」」

 双子もその後に続く。

 

「……行くか、オレたちも」
「構わん」
「ねえ、薔薇。その人ってどんな人なの?」

「まあ、さっき言われた通りの人だよ。見れば納得すると思う」
「そうなんだ〜」

 

「あ、あの〜???」

 和気藹々と去っていく蔵馬たちの背中を、頭の中がハテナマークで一杯になった男は、静かに見送るしかなかった。