<6 竜の正体>

 

 

 

「あ、おいっ!! 碧! ピカ! 蔵馬も! こいつら何とかしてくれよーっ!!」

「黙れ! この侵入者め!!」
「大人しくしていろ!!」

 

「「「…………」」」

 

 玉座の間で、碧たちが見た光景は……、

 

「……どっちを同情すべき?」
「う〜ん……」

 碧たちが眉間に皺をよせて悩むほど、複雑なものだった。

 

 

 台詞だけを聞いてみれば、城の住人たちに桑原が押さえつけられており、桑原一人が哀れな状況と思われるだろう。
 しかし、現実は違った。

 暴れ回ったらしく、周囲に転がるのは、怪我はしていないもののノビて失神した住人たち。
 幾人かかろうじて起きている者たちだけが、必死の形相で叫んでいる。

 自分たちの城を守ろうと必死なのだろう。
 ボロボロになりながらも、無傷で吠え回る桑原の両足にしがみついていた。

 

 

「……さっきのにーちゃん、こんな状況なのに、随分とゆっくりだったね」
「彼が呼びに来た時には、まだここまでひどくはなかったのだろう。でなければ、もっと焦っているはずだ」

「なるほど。――それで、どうする?」

 誰に……というわけでもなく、碧が言った。
 尋ねたというよりは、確認だった。

 

 

「……すまないが、その人はオレたちの知人だ。危険ではないから」

「そ、そうですか……」
「りょ、了解しました……」

 桑原の両足から、ばたりと手がはがれ落ちた。

 

 

 

 

「いや〜! まいったぜ! いきなり、動くんじゃねえなんて言われよー!」
「……何してたんだ? 桑原くん。こんなところで」

「あ? いや、暇だったから、ここの椅子に座って昼寝をよ……って、おお!! ドラゴンオーブじゃねえか!! とってこられたんだな、おめえら!!」

 碧のポケットからはみ出すように見えたソレに、桑原の瞳が輝いた。

「……まあね」
「そうかそうか! おめえらすげーな!!」
「どうも……」

 桑原のテンションの高さに、疲れもあって碧たち3人は脱力気味。
 初めて会う瑪瑠一家は、ぽかんっとしてしまった。

 こんなハイテンションな人は、サラボナにも世界中にもあんまりいなかったから。

 

 

 

「んでよ! ものは相談なんだが、それちょっとオレに貸してくれねえか?」

「いいよ」

 碧の言葉に。

「えっ!?」
「ど、どういうことです!?」

 驚いたのは、床に這い蹲っていた城の住人たちばかりだった。

 

 他は……蔵馬も、紅光も、銀色も、瑪瑠も、双子たちも。

 誰一人驚いてはいなかった。

 

 

「あ、碧殿! それは、マスタードラゴン様の力の源なのですよ!?」
「それをこんな……素性も知れぬ者に渡すなど!!」

「貸すくらいいいよ。桑原のおっちゃんは、悪い人じゃないから」

 淡々と語る碧に、城の住人たちは呆然とし、続いて彼の親に向かって叫んだ。

 

「く、蔵馬殿! どうか、止めて下さい!!」

「別に止める理由もないさ」

 

「紅光殿!」

「碧の好きにすればいい」

 

「ご、ご客人!!」

「詳しい事情は知らんが、止める理由もなさそうだな」
「碧くんたちが大丈夫だって言ってるんだもん! きっといい人だよ、あの人!」
「「うん!」」

 

「…………」

 もはや、誰に言っても無駄……しかし、自分たちに立ち上がる力は残されていなかった。

 

 

 

「マ、マスタードラゴンの力が……」
「せ、せっかくこの城に戻ってきたのに……」

 がくりと崩れ落ちる彼らを余所に、桑原は軽い足取りで碧の元へ走っていく。
 そして、

「ほい」

 碧が差しだしたドラゴンオーブを前に、

「サンキューな!」

 桑原は満面の笑みを浮かべ、手を伸ばした。

 

 白い小さな碧の掌から、桑原の無骨な手へと……ドラゴンオーブが手渡された瞬間。

 

 

 

 きらっ……

 

 

 

 ドラゴンオーブが光を放った……。

 

 

 

 

 

「わあ……」
「すごーい……」

 白銀の双子たちが、素直に瞳を輝かせて感激する前で。
 碧と紅光と、大人3人は。

 流石に、驚きを隠せず、目を見開いていた。

 

 玉座の間の天井。
 大きく開いたそこから、遙か上空広がる青空に向けて。

 巨大なドラゴンが飛び立っていった。

 ……碧の目の前から。

 

 

「……桑原のおっちゃんが、マスタードラゴンだったのか」
「化身というやつだったのだな……城の住人の、誰も彼を知らなかったはずだ」
「まあ、そうと考えれば、納得できることも多いかな」

 碧たち親子が少しずつ現実を理解し、ほうっと落ちついた溜息をついた頃だった。

 

「……薔薇」

 銀色が声をかけたのは。

 

「何?」
「やつの上昇具合を見る限り……神殿までも届くんじゃないか?」

「……おそらく」

「! じゃあ、行けるんだね!! あの神殿に!!」
「ああ」

 瑪瑠の叫びに、蔵馬は自分でも驚くほど落ちついた声で答えていた。
 見上げる息子たちの視線すら、気づかないほど高揚していたけれど。

 

 

「……一歩、前進だ」

 心の中に、求めていた光を感じながら。