<3 背負う命>
1階まで降りた一行だったが、そこには誰も居なかった。 何せ、それらしい邪気を紅光が感じないと言っていたから。
「多分、こっちだろうね」 1階脇にある階段。
「ああ……間違いない。この奥だ」 ぐっと紅光が息の飲み、それでも先頭きって降りていった。
地下は、今まで以上に嫌な空気で満たされていた。 おまけに入り組み方も半端でなく、蔵馬が一緒でなければ、碧も一生出られないのではと考えてしまうほどだった。
「……父さん」 とある角を曲がった時だった。 周囲中が異様といえばそうだが、そこはソレがさらに酷くなった空間。
いる。 直感で分かった。
ズバッ……
勝負は一瞬だった。
モンスターを目の前にして、蔵馬を纏う空気が変わった。 すぐに、分かった。
「……リオ。こいつは何だ?」 紅光がわざわざリオに問いかけたのは、とても蔵馬に聞ける雰囲気ではなかったから。
しかし、最悪はその後だった。 ゴンズは……蔵馬のことを覚えていなかったのだ。 虫けらだと言わんばかりの態度で……。
それが、彼の逆鱗に触れるとも知らず。
床に流れる血は、後から後から吹き出してくる。 「あ……ぐ……が……」 聞き取れぬうめき声が、空洞に木霊する。
勝負は一瞬、だが生死は一瞬ではなかった。 蔵馬の一撃は、ゴンズから戦う力も生きる力も奪いながら、命は奪わなかったのだ。
「お前は死にすら値しない」 それだけ告げると、蔵馬はゴンズの横をゆうゆうと通り過ぎ、その背後にあった宝箱に手をかけた。 そうして、碧たちの元へ戻り、何も言わずに部屋を出て行った。
「「…………」」 あまりの怒りに声をかけられなかった碧と紅光。
「……碧?」 碧は俯いたまま、背後に右手を回した。
「……ライデイン」 ほとばしる稲妻が、今度こそ、ゴンズの命を奪った。
「殺したんだね」 廊下の向こうで待っていた蔵馬の顔を、碧は見ることが出来なかった。 最初から、隠すつもりはない。
でも……父に逆らったことは、事実だから。
「ゴメン、父さん」 蔵馬の声は、いつもと変わらなくて、それが尚更怖かった。
「だって……父さんがわざと殺さずに苦しみを与えたのに……無にしちゃったから」 「だから……ゴメン」 歩み寄ってくる父が、異様に怖かった。 だが、一歩に動かない。
「いいんだよ」 飛んでくると思った平手は、ぽんっと頭に置かれただけだった。 「あのままにしておいたら、碧にはしんどいと思ったんだろう? 俺のことじゃなくて、碧自身のことで」 黙ったまま、頷いた。
そうだ。 碧は……あのままにしておいたら、夢見が悪すぎる。 奪わないことで、背負う命が重かったのだ。
「だからいいんだよ。俺こそ、すまなかったな。碧に余計なものを背負わせるところだった」 「次は確実に殺すから」 「うん……ついでに、俺たちもやるから。ね、兄さん」
だが、それは叶わなかった。 予想通り、もう1つの目を盗んでいったのは、ゲマ……祖父を殺し、蔵馬と幽助を奴隷にし、挙げ句蔵馬と梅流を石にかえたモンスターだった。 ゴンズよりは遙かに強く、総出でかからねばならなかったが、静かなる怒りを称えた蔵馬には、到底及ばない。
けれど、やつはゴンズとは違って、プロフェッショナルのようで。 形勢不利と睨んだのだろう。
「……負けてたくせに、偉そうだな」 足元に転がる、金色の玉。 先ほどしまいこんでいたのと、全く同じ。
「行こうか。これで、マスタードラゴンの力が手に入る」
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