<2 ボブルの塔>
その後、碧がさりげな〜くボブルの塔の位置を問いかけると、老人はあっさりと場所を教えてくれた。
テルパドールの西にある大陸。 しかもそこは、蔵馬曰く、 「昔、船で旅をしていた頃、行こうとしたことがあった。だが、大陸全体を岩山が囲っていて、入れなかった場所だ」
人を拒む、閉ざされた大陸。 名ばかりの天空城とはいえ、この高さならば、岩山くらい飛び越えられる。
……とうの桑原は、いつの間にかその場からいなくなっていたけれど。
「何処行ったんだろうな? 桑原のおっちゃん」 「……そのことなんだが、父さん」 「聞き込み中、妙なことを聞いた。「桑原なんて、天空人、知らない」と」 漏れた疑問は、蔵馬ではなく、碧だった。
「え、桑原のおっちゃん、天空人じゃなかったのか?」 「嘘…ついてたってこと?」 そう思うと、少し面白くない。
「心配することないと思うよ」 「桑原くんにも、彼なりの事情があるんだろう。少なくとも、悪意はなさそうだから、ほっといていいと思う」 「……そうだな」 蔵馬の確信はないのに、自信に満ちた一言に、兄弟は何となく肩の力が抜けた。 多分、どんな他人の情報よりも、信じられるものだから……。
天空城は魔法の絨毯よりは、圧倒的に速度があったけれど、それでも件の大陸へ辿り着くまでには、かなりの時間を要した。 その間にも、いちおう城内で桑原を捜してみたが、やはり見あたらない。
「城、勝手に移動しないかな? 誰かに動かすなって言っておいた方がよくない?」 「ふ〜ん。ならいいけど」 唯一、ルーラが使えない碧には、その微妙な感覚がよく分からなかったけれど。
未踏の地とあっては、警戒心も研ぎ澄まされる。 拍子抜けせざるを得なかったが、問題はここから。
「……ドア、開かないな」 鍵ではない。 幸いにも、横側に階段があり、そこから屋上へ。
「碧。そのロープどうしたんだ?」 呆れ半分に言いながら、最後に紅光が塔に降り立った。
ボロボロで薄暗く、嫌な雰囲気が漂い、見るからによどんだ空気で充満した内部。 「……さて、降りようか」 最上階を調べてみても、大したものはない。
「何とかと煙は高いところが好きっていうのにな……」 しかし、何もこんなところに隠さなくたって……3人は言葉に出さずに、同意しあった。
ボブルの塔内部は、外とは大違いに、強力なモンスターばかり。 此処へ来るまでに、散々戦ってきたのである。 今更、こんなところで雑魚に足止めを食いたくない。
そして、かなりの階数を降りたところで……、 「? 何だろう、これ……」 上からも見えていたが、真っ正面に廻ったことで、ソレが何だったのか気づいた。 獰猛そうでありながら、何処か和やかな空気がある……邪気はない、不思議な像。
「両目の部分がくりぬいてあるな。いや、何かがはまってあったのか」 紅光が首をかしげつつ、石像に触れる。
「紅光。『緋の目』で見えるか?」 すっと瞼を下ろすと、紅光は神経を集中させた。 一度失敗すると、二度目はきつい。
「……見えた!」 「モンスターが2匹……今まで会った連中とは違う。像に残された記憶のはずなのに……強いことがはっきり伝わってくる」 つうっと紅光の頬に、汗が伝った。 初めて見る兄の姿に、碧もごくりとつばを飲み込んだ。
「モンスターは……竜の両目を奪っていったようだ。下へ向かっているから……」 言って、蔵馬は紅光の肩に手を置いた。 線の細い手のはずが、何故か大きく見えた。
「ご苦労様。疲れた?」
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